解説者のプロフィール

石原新菜(いしはら・にいな)
イシハラクリニック副院長。
1980年生まれ。帝京大学医学部卒業後、同大学病院で2年間の研修医を経て、現職。漢方医学、自然療法、食事療法を中心とした治療に当たる。クリニックでの診療のほか、わかりやすい医学解説と、親しみやすい人柄で、講演、テレビ、ラジオ、執筆活動と幅広く活躍中。日本内科学会会員、日本東洋医学会会員、日本温泉気候物理医学会会員。2児の母。近著は『女のキレイは30分でつくれる』(マキノ出版)。
●石原新菜 Official Blog
http://nina-ishihara.cocolog-nifty.com/blog/
解熱と抗ウイルス作用の二つの働きがある!
インフルエンザは、強力な感染力があり、カゼに比べて劇的な症状が現れるのが特徴です。
急に38度以上の高熱が出て、悪寒や頭痛、関節痛が起こり、セキやタンが出るようであれば、インフルエンザだといっていいでしょう。
こじらせると、気管支炎や肺炎を併発する危険がありますが、発症後、すぐに対応できれば、治りを早めることができます。
高熱が出るのは、免疫細胞が、体内でウイルスと懸命に闘っている証拠です。
ですから、解熱剤などで症状を無理におさえず、免疫力を上げて、インフルエンザウイルスの増殖を防ぐことが重要です。
インフルエンザの初期なら、私は、「麻黄湯」という漢方薬を処方します。
木賊(とくさ)に似たマオウ科の木から作られた生薬(漢方薬を構成する草根木皮)の麻黄が主成分で、カゼ全般に効きます。
そして、初期のインフルエンザに対する効能も認められているのです。
インフルエンザウイルスの増殖を防ぐ薬で、よく知られているのは、タミフルやリレンザです。
しかし、異常行動などの副作用があり、不整脈などで亡くなった例もあるので、私はできるだけ使いたくありません。
その点、麻黄湯は、それらと同様の効能をもちながら、一般の薬局でも購入できます。
よほどの高齢者や、もともとかなり虚弱なかたを除けば、だれにでも適した漢方薬です。
また、近年は、麻黄湯に関する研究が進み、その効果を裏づけています。
2007年以降、かわむらこどもクリニックの河村研一院長は、未成年のインフルエンザ患者に麻黄湯を処方しているそうです。
その結果、優れた解熱効果があり、インフルエンザの型によっては、タミフル以上に有効だったと日本小児感染症学会で報告しています。
福岡大学病院の鍋島茂樹総合診療部長は、以前からインフルエンザの治療に麻黄湯を使用し、その有効性を学会で発表してきました。
そして、2012年の日本感染症学会では、ヒトの細胞を使った実験を行い、麻黄湯のインフルエンザウイルス増殖抑制作用を確認したと報告しています。
麻黄湯が、解熱作用と抗ウイルス作用の二つの働きによって、インフルエンザの快復を早めることは、間違いないのです。

最大の免疫器官「腸」を冷やすな!
ここで、私の身近で起こった、実際の症例をご紹介しましょう。
私の夫が、インフルエンザにかかってしまったときのことです。
高熱と全身の痛みやだるさなどで苦しんでいるので、麻黄湯を服用させることにしました。
睡眠と水分補給をじゅうぶんにし、麻黄湯を1日4回飲ませたところ、汗がどんどん出て、しだいにセキや発熱が治まってきました。
そして、1日のうちに平熱まで下がり、翌日にはすっかり元気になったのです。
とはいえ、最大のインフルエンザ対策は、やはり予防することです。
それには、なにより体の冷えを防いで、免疫力を上げることがいちばん。
体を温めることは、異常な高熱を招くわけではなく、病気に対する抵抗力を強化するということなのです。
まずは、おなか、特に腸を冷やさないことです。
腸は最大の免疫器官といわれており、小腸には、免疫細胞であるリンパ球の7割が存在しています。
おなかを温めると、そのリンパ球が活性化し、免疫力を上げることができます。
そのための私のイチ推しは、腹巻きです。
季節にかかわらず、1年365日、24時間、夏でも腹巻きをしてください。
腹巻き1枚で体感温度が1度上がり、手軽に、いつでも体温の高い状態を保てます。
同様に、入浴も効果的です。
シャワーだけで済まさず、毎日、おふろに入りたいものです。
汗がじわっと出てくれば、それは体温が1度ほど上がった証拠。
実は、一時的にでも体温が1度上がると、そのとき、免疫力は5~6倍にもなっているのです。
加えて、日ごろの運動も大切です。
私たちの体温は、その4割を筋肉が作っているため、筋肉の少ない人ほど、体温が低くなりがちだからです。
別記事でご紹介したショウガ紅茶も、もちろんお勧めです。
紅茶の赤い色素、テアフラビンは、スーパーカテキンとも呼ばれていて、抗菌効果の強さはお墨付き。
しかも、中国医学科学院・中国協和医科大学薬物研究所は、2012年、テアフラビンには、インフルエンザの感染力を低下させ、炎症をおさえる効果があると明らかにしました。
紅茶でうがいをすると、インフルエンザにかかりにくくなるという研究もあります。
紅茶うがいをするなら、普通に飲む濃度から4~5倍に薄め、体温程度の温度がよいとされています。
インフルエンザは、決して軽く見ることはできませんが、きちんと予防し、初期のうちに手当てをすれば怖くありません。
ぜひ、体を冷やさない生活を心がけてください。