解説者のプロフィール

飯田忠行(いいだ・ただゆき)
県立広島大学保健福祉学部教授。
2002年、県立広島女子大学大学院生活科学研究科修士課程修了。04年、藤田保健衛生大学大学院医学研究科で博士(医学)を取得。山口大学医学部付属病院、藤田保健衛生大学医学部講師、県立広島大学保健福祉学部准教授を経て現職。専門は応用健康科学、公衆衛生学、地域健康疫学、老年医学。広島県の戦略作物であるレモンの効果検証を行う、県立広島大学レモン健康科学プロジェクト研究センター長も兼務する。
レモンを多くとる人ほど骨密度が高いと判明
爽やかな香りと酸味が持ち味のレモン。健康や美容によい果物として、活用されている人も多いと思います。
当大学のある広島県は、国産レモンの63%(平成27年)を生産する、日本一のレモン産地です。そんな地元の利を活かし、レモン健康科学プロジェクト研究センターでは、レモンの健康効果に関する研究を続けてきました。まずは、その最新の研究成果をご紹介します。
2017年2月から約1年間、レモン飲料メーカー(※)と共同で、レモンの摂取状況と健康状態についての継続的な実態調査を行いました。
調査地である大崎上島町は「レモンの島」とも称される、広島県のレモンの主産地です。
町民123名を対象に、レモンの摂取量を調べたところ、日本人の平均レモン摂取量は、およそ2カ月に1個であるのに対し、大崎上島町では5日に1個と、平均の12倍も多く摂取していることがわかりました。
そのうち、女性90名をレモンの摂取量別に1(摂取量少)~4(摂取量多)に分類し、それぞれの群の骨密度を比べたところ、摂取量が多い女性(4群)ほど、骨密度が高い傾向にあることがわかりました(下のグラフ参照)。

この要因としては、さまざまなことが考えられます。運動、食事などが総合的に組み合わさった結果です。
その要因の一つとして、レモンに豊富なクエン酸が持つ「キレート作用」もあるのではないかと考えられます。キレート作用とは、カルシウムなどを包み込み、体内への吸収率を高める作用のことです。
私たちの骨は、コラーゲン繊維でできた骨組みに、カルシウムやマグネシウム、リンなどのミネラルのセメントを流し込んだような構造をしています。古くなったセメントを随時取り壊し、新しいセメントを流し込んで強度を保っているのです。
ところが、カルシウムなどのミネラルは、そのままでは体内に吸収しにくいため、少しずつ骨の密度が落ちてスカスカになり、骨折しやすくなる骨粗鬆症を起こしやすくなります。
特に更年期以降の中高年女性は、ホルモン分泌が変化する関係で、骨密度が低下しやすいのです。若い頃からレモンを多くとることで、キレート作用によりカルシウムの吸収力が高まり、骨密度を維持できれば、将来的に骨折から寝たきりになるリスクを大きく減らせます。
「レモンをとると疲れが取れる」を数値化できた
この90名の女性について、レモンの摂取量と疲労感の関係についても調べています。対象者に2月と9月に疲労の程度を示す数値を答えてもらい、2月の数値と9月の数値の差を出したものが下のグラフです。差がプラス=2月より9月のほうが疲労感が高い、差がゼロ=疲労感が変わらない、差がマイナス=2月より9月のほうが疲労感が少ないことを示しています。
疲労感は夏場にかけて高くなりますが、レモンを多くとっている4群では疲労感が低く、レモンの摂取量が少ない1群では、疲労感が高くなりました。1群と4群の身体活動量はほとんど変わらないことから、レモンによって疲労感が下がったものと考えられます。
「レモンをとると疲れが取れる」。私たちが日常、体感している感覚を初めて数値で表すことができたのです。
これらの結果を受け、レモンの成分が体に及ぼす作用をさらに詳しく調べることになりました。大島上島町民800人を対象に今後5年間、骨密度の変化などレモンの健康効果の追跡調査を行います。
これだけ大規模な疫学調査は、レモンの介入試験では初の試みで、私自身も、調査結果を非常に期待しています。

メタボの改善にもレモンが有効
また、これまでの当大学での調査では、レモンの摂取量が多い人ほど、最大血圧が下がり、血管の柔軟性が高い傾向が出ています(堂本時夫元県立広島大学教授らによる横断研究)。
もう一つ、この調査で注目されたのは、アディポネクチンという生理活性物質の血中濃度が、レモン摂取量に比例して増えていたことです。
アディポネクチンは、脂肪組織から作られ、体内でホルモンのように働いて、
●動脈硬化を抑える
●炎症を抑える
●インスリンの働きを高め糖尿病を防ぐ
などの作用があることで、注目されている物質です。
レモンの摂取量が増えるとアディポネクチンも増えることから、レモンを取り入れた食生活が、肥満、高血圧、糖尿病から動脈硬化が進行するメタボリックシンドロームを予防する可能性があることが示されたのです。
レモンの健康効果ベスト10

最後に、レモンの持つ成分とその健康効果を見ていきましょう。
◎ビタミンC
レモンといえばビタミンCを連想する人も多いでしょう。皮、果肉ともに豊富に含んでいます。ビタミンCは、代表的な抗酸化物質です。老化や病気の原因となる活性酸素を消去する働きがあり、健康維持に欠かせません。
カゼの予防や疲労回復に役立ち、肌や骨の形成に必要なコラーゲンの生成を助ける働きがあります。メラニン色素の沈着を防いでシミを防ぐなど、美肌作りにも必須の成分です。
◎クエン酸
レモンの酸味のもとになるクエン酸は、果肉に多く含まれています。キレート作用により、カルシウムの吸収が高まるので、骨密度を高める効果が期待できます。牛乳やヨーグルトなどの乳製品とレモン果汁を組み合わせるのがお勧めです。
◎リモネン
レモンの爽やかな香り成分であるリモネンは皮に含まれています。香りによる効果として、心身を活動的にする交感神経を刺激することが知られています。心理学的調査では、緊張・不安、抑うつ・落ち込みの程度を軽減する効果が報告されています。
◎レモンポリフェノール
ポリフェノールとは、植物の色や香り、苦味などの元になっている成分で、活性酸素の害を防ぐ抗酸化作用を持っています。
エリオシトリンは、柑橘類の皮の白い部分に多いポリフェノールで、レモンには、他の柑橘類の30~100倍含まれています。
エリオシトリンの特徴は、きわめて強い抗酸化力があることです。動脈硬化の原因となるLDLコレステロールの酸化を遅くする働きや、肝臓での脂質の蓄積を抑える働きが報告されています。
動物実験では、中性脂肪の増加を抑え、血液中のコレステロールや血糖を低下させる働きが確認されています。
もう1種、ヘスペリジンは、皮の白い部分や果実の袋、スジに豊富なポリフェノールです。血流を促す働きや毛細血管を強くする働きが報告されており、動脈硬化の進行を抑える効果が期待できます。動物実験では、中性脂肪を下げる働きが報告されています。
皮ごと食べられるレモンのハチミツ漬け
このようにレモンは皮の部分にも多くの成分が含まれているため、できれば皮も丸ごと食べるのがお勧めです。
私が気に入っているのが、レモンのハチミツ漬けです。レモンを薄くスライスして、一晩ハチミツに漬けて皮が軟らかくなったら出来上がりです。ぜひ広島産のレモンで作ってみてください(笑)。
これからやってくる猛暑を乗り切り、秋に疲労感を残さないためにも、レモンを上手に活用しましょう。

甘酸っぱくておいしいレモンのハチミツ漬け。
皮ごと薄く輪切りにしたレモンにかぶるくらいのハチミツを加えて一晩漬ければ出来上がり。そのまま食べても漬け汁ごと水で割って飲んでも爽やか