解説者のプロフィール

田中勝(たなか・まさる)
●田中鍼灸指圧治療院
東京都港区南青山2-25-10 エスト南青山2階
03-3475-4631
http://tan-aka.server-shared.com/
田中鍼灸指圧治療院院長。
北海道生まれ。治療のかたわら、鍼温灸や経絡あん摩、関節運動法講習会を開催するなど、精力的に活動。経絡を用いたあん摩・指圧の実技を解説したDVD『よくある症状への手技治療』(医道の日本社)が好評発売中。
慢性のめまいによく効くツボ
皆さんは、ふとしたときに起こるめまいや、さまざまな理由で起こる吐き気、乗り物酔いで困ったことはありませんか。
そんな場合にお勧めしたいセルフケア法があります。それは、手首にある「内関」というツボを指圧する方法です。
ただし、めまいについては、この方法が効果的な場合と、そうでない場合があるので、まずはその説明をしましょう。
めまいの原因を、現代医学では、中枢性と末梢性に分けています。
中枢性のめまいは、脳幹や小脳などの異常が原因で、よろめくようなふらつき感が起こります。末梢性のめまいは、平衡感覚をつかさどる耳の三半規管などの異常によって、ぐるぐる目が回るような回転性のめまいが起こるものです。内関が効果的なのは、末梢性のめまいです。
この場合、直接的な原因は三半規管などの異常ですが、東洋医学的な見方では、その奥に「飲食の不摂生」という根本原因があることが多いのです。特に、過度の飲酒や油の取りすぎが、大きな要因になります。
このような場合に、内関の指圧は高い効果を発揮します。
実は、めまいは肝臓の働きと深く関係しています。だからこそ、過度の飲酒や油の取りすぎが原因になるわけです。
内関は、心包経という経絡(東洋医学でいう生命エネルギーの通り道。その上に点々とツボがある)の重要なツボです。
心包経の「心包」は、西洋医学でいう臓器とは対応するものがないとされています。そのため「心臓を包む袋」などと解釈されていますが、私は、心包は胸腺(心臓の上にある免疫関係の器官)に当たると考えています。
そして、肝臓と心包(胸腺)は、東洋医学の理論上も、私の経験上も深い関係があります。そのため、心包経のツボである内関が、めまいに優れた効果をもたらすのです。
また、心包経は、三焦経という経絡と陰陽の関係にあります。心包経が陰、三焦経が陽で、いわば裏表の関係です。三焦経は、耳の周囲を通っていてめまいに効きますが、慢性的な症状には、陰の経絡を使うほうが効果的です。そこで、慢性のめまいには、対応する陰の経絡にある心包経の内関が、高い効果を示すのです。

5分でめまいが軽くなった!
内関の指圧で、がんこなめまいが改善・解消できた実例は、多数あります。
たとえば、ある50代の男性は、ある朝、目覚めて立ち上がったときにめまいに襲われました。
それ以来、毎朝めまいを感じるようになり、困って来院されました。特に、あおむけで首を左右に傾けるとめまいが起こると言います。
油っこい料理が好きで、昼食はたいてい、トンカツかラーメンとのことでした。
調べたところ、右の内関の圧痛(押して感じる痛み)が強いことがわかりました。
そこで、右の内関を中心に、いくつかのツボを用いて治療したところ、2週間かけて4回の治療で、めまいが消えました。この場合は、いくつかのツボを用いましたが、セルフケアでは、内関の指圧だけでも効果的です。
また、たまたま居酒屋で一緒に飲んでいた女性が、「めまいがする」と言うので、圧痛のある側の内関を押したところ、5分ほどで軽くなったこともあります。このときは内関だけの刺激でした。
めまいについて重点的にお話ししましたが、吐き気や乗り物酔い、原因のはっきりしない息苦しさや胸苦しさなどの改善・解消にも、内関の指圧が効果的です。
手首を挟んで刺激するとより効果的
内関の探し方は、下記にあるとおりです。
左右の内関を押してみて、圧痛の強いほうを押しましょう。左右差がわからなければ、両方押します。
続けているうち、症状がよくなるにつれて左右差が出てくることもあるので、そうしたら、圧痛の強いほうだけを押してください。
押すときは、内関に親指の先を当て、手首を挟むようにして、手首の甲側に人さし指を当てます。手首の親指側から挟むと刺激しやすいでしょう。
手首の甲側の指は、内関の真裏に当てましょう。すると、刺激しやすいうえ、効果を高めるのにも役立ちます。
実は、内関の真裏には、外関というツボがあります。これは三焦経のツボで、内関とともに押すことで、めまいをはじめとする、前述のような症状への効果が高まるのです。
このように手首の裏表から、しっかり挟んだら、押すだけでもよいのですが、押した部分を、押されている手の指先方向に向かってキュッと引っ張ると、さらに高い効果を得やすくなります。
手首の甲側に当てる指は、人さし指より中指のほうがやりやすければ、それでもけっこうです。なお、行う前には、爪をきちんと切っておきましょう。
この方法だと指が疲れてしまう人は、指圧したい側の手首を太ももやテーブルに置いた状態で、反対側の手を軽く握り、人さし指の第2関節(指の真ん中の関節)で内関を押す方法もあります。
めまいが起こっているときに、内関の指圧を行うと、その場でめまいが治まることが多いものです。めまいの起こりやすい体勢がわかっていれば、あえてその体勢を取ってから行ってみて、効果を確かめてみるのもよいでしょう。
吐き気に対しても即効性が期待できますが、ごくまれに、いったん吐き気が強まる場合もあります。これは、体から悪い物を出す反応で、嘔吐の後は、すっきりして吐き気が消えます。
内関の指圧は、めまいや乗り物酔いに対しては、予防にも役立ちます。ぜひお役立てください。
内関指圧のやり方

内関の探し方

手のひら側の手首のシワの中央に、反対側の手の薬指の先を当てる。そのまま、薬指・中指・人さし指をそろえて当てたとき、人さし指の先が当たるところ。両手首にある。
ポイント
●両手の内関をそれぞれ指圧してみて、圧痛の強い方を刺激する。左右差がわからなければ、両方指圧するとよい。
●めまいが起こっているとき、もしくはめまいが起こりそうなときに行うと効果的。
●持続的な症状の改善や予防のためには、やりやすい時間帯に、1日1~2回行う。
●めまいなどに即効性を得たいときは、目安の時間や回数にこだわらず、症状が治まるまで指圧を続けてもよい。
●爪は短く切っておく。
●痛気持ちいい程度の力で押す。
指圧のしかた

❶圧痛の強いほうの内関に、反対側の手の親指の先を当てる。人さし指(または中指)を、手首の親指側から回して内関の真裏に当て、親指と人さし指でギュッと挟むようにして手首を押す。

❷押しながら、指先の方に向けてキュッと引っ張る。そのまま1分ほど押したら、押した箇所を少しもむ。これを3回ほどくり返す。

親指で指圧しづらい場合は、太ももやテーブルなどに手首を置き、反対側の手の人さし指を曲げて、第2関節(指の真ん中の関節)の尖ったところで押してもよい。