解説者のプロフィール

内村直尚(うちむら・なおひさ)
医学博士。久留米大学医学部神経精神医学講座教授。
久留米大医学部神経精神医学講座の助手、講師、助教授を経て、2007年4月から同講座教授。国内トップレベルの睡眠医療チームを率いる睡眠研究の第一人者。日本睡眠学会の理事も務める。久留米大学で開発した『3次元型睡眠尺度マニュアル〜はたらく現代人のための睡眠チェックシート〜』(丸善プラネット)を監修。母校の明善高校に、日本で初めて「午睡タイム」を導入して14年になる。
睡眠専門医も使う最新のチェックシート
私は4年前に、睡眠の「位相」「質」「量」を自己診断して、自分の睡眠状態を知る「3次元型睡眠尺度」を、同じ大学の松本悠貴先生と作成しました。下の表がそれです。
このシートは睡眠の専門医も患者さんの診断に活用しているものですが、読者の皆さんも気軽にチェックできる内容になっています。
なかでも「位相」というのは、聞きなれない言葉かもしれません。位相は、夜型か朝型か、睡眠習慣の規則正しさの度合いをチェックするものです。24時間型社会で、夜型が多くなった現代人には、この位相のチェックは欠かせません。「3次元型睡眠尺度」は、世界初の位相による睡眠の評価ができるものです。
「質」は、深く眠って良質な睡眠がとれているかどうかを見ます。質の低下はうつ病や睡眠時無呼吸症候群とも関連があります。
「量」は、じゅうぶんな睡眠時間が確保できているかを調べます。睡眠時間が足りないと、健康面で不調が多くなるほか、集中力の低下や、感情のコントロールができなくなる、といったことも起こります。
この位相、質、量のそれぞれが、【良】【注意】【警戒】の3つのどれかに診断されます。その結果、自分がどこを改善すればいいのかがわかりやすくなっており、皆さんの睡眠の問題点が明らかになるのです。
睡眠状態が悪いと、生活習慣病や認知症になりやすいこともわかっています。自分の睡眠状態を知ることは、健康に生活するうえでとても大事なことなのです。
ぜひ、皆さんもこの「3次元型睡眠尺度」で、ご自身の睡眠状態を診断してみてください。
睡眠の専門医も活用する「睡眠自己診断シート」

読者の睡眠には質と量が足りていない
さらに、今回は1000名以上の『ゆほびか』読者のかたが、チェックシートで自己診断し、アンケートに答えてくださいました。
まず、「位相」はまずまずの結果で、就寝時間や起床時間は決まっている人が多いことがわかります。
ただ、20代以下の人は、休日は平日よりも遅くまで寝ている人が多く、夜遅くまで遊んで起きている人も多いので、リズムが乱れがちです。
「質」と「量」は、どの年代も【注意】レベルで、寝つけなかったり、朝早く目が覚めたり、睡眠時間が足りていないことを表しています。
特に50代の男性は、多忙で朝早く、夜が遅い仕事スタイルが影響しています。40代〜50代の女性は、受験で遅くまで勉強する子どもにつきあったり、朝早く起きてお弁当を作るケースも多いでしょう。さらに共働き家庭だと、女性の睡眠時間はもっと少なくなります。
■アンケート調査の概要

『ゆほびか』読者メルマガ会員にアンケートを実施、1010名から回答を得た。アンケート項目は、「睡眠自己診断シート」の質問1〜15(選択式)と、「あなたの実践している快眠のコツを教えてください」(自由記述式)。
アンケート参加者の回答を集計してみると

20代以下の男性は、休日は平日よりも遅く起きる人が多く、睡眠のリズムが乱れがちです。仕事が忙しい40代男性は、残業で夜が遅くなって、夜型に傾いてしまう人が増えます。

すべての年代で「注意」となっており、なかでも50代男性の質が最も低いという結果に。
「眠れない」という悩みを持つ人が増え、健康面での問題も出てきやすい年代です。

60代男性の量が一気に増えるのは、仕事を辞めて、たっぷり眠れる時間がとれるようになるから。働き盛りで、子どもの受験などもある40・50代の睡眠時間は短いのが特徴です。
快眠できない理由は労働時間が長いから
データを見ると、日本人の睡眠状態は、仕事による環境要因の影響が多いことがわかります。
40代・50代は、労働時間が長いことが、睡眠時間の短さに影響しているのです。
また、深い睡眠が得られるゴールデンタイムは、午後10時〜午前3時頃までですが、この時間にたっぷり眠れている人は少ないでしょう。
就寝時間が遅くなると、深い睡眠を得られにくくなるため、睡眠の質が下がり、「量」も「質」も【注意】という状態になってしまうのです。
現在は「働き方改革」が進められていますが、生産性を上げるためにも、大事なのは労働時間ではなく、睡眠です。月に100時間以上残業すると、1日の睡眠時間が5時間を切ってしまいがち。すると、睡眠の「量」と「質」が低下し、業務でも健康面でも問題が起こりやすくなってしまいます。
一方で、仕事から解放された60代男女の「量」はぐんと上がっています。定年退職で仕事をしなくなったり、子どもが独立して自分のリズムで眠れるようになった、といったことがデータから読み取れます。
読者が実践する「快眠のコツ」を 睡眠専門医がズバリ診断
アンケート参加者に聞きました「快眠のために工夫していることを教えてください!」
アンケートに回答した1010名の「快眠のコツ」を、内容別に集計した上位リスト(複数回答)。
●快眠を誘う音楽・自然音を流す……122名 ●お風呂でリラックス・温まる……78名 ●寝る前にストレッチ・体操・ヨガで体をほぐす……74名 ●日中から運動・ウオーキングなど体を動かす・疲れさせる……60名 ●スマホ・パソコンは見ない……49名 ●アロマ・お香など香りでリラックスする……46名 ●眠くなったらすぐ寝床につく……44名 ●寝床についたら何も考えない……38名 ●枕にこだわる……36名 ●部屋は暗くする……35名 ●深呼吸や腹式呼吸をする……31名 ●ミルク・ハーブティー・ココアなど就寝前に温かい飲み物を飲む……31名 ●夕食は控えめにして、寝る前には食べないようにする……30名 ●季節に合わせて寝具を工夫する……29名 ●寝床についたら楽しいこと・よかったことを考える……29名 ●就寝時間を決めて、それまでに寝るようにする……28名 ●寝床についたら読書をして眠くなるのを待つ……23名 ●足湯やマッサージ・ツボ押しなどで足を温める……21名 ●寝る前に瞑想・マインドフルネスを行う……18名 ●睡眠薬を飲む……18名 ●起床時間を決める、その時間に起きる……15名 ●お酒を飲む……14名 ●寝床についたら感謝の気持ちを持つ……14名 ●抱き枕などを利用して横向きで寝る……12名 ●寝る前にマッサージやツボ押しをする……11名 ●パジャマにこだわる……9名 ●日中、短時間のお昼寝をする……7名 ●快適に寝られるよう部屋の温度を調節する……7名
リラックスできる工夫をし正しい快眠法を実践している
アンケートを見ると、正しい快眠法を実践されている人が多く、驚きました。
最も回答が多かった「快眠を誘う音楽・自然音を流す」ですが、リラックスできる音楽は、副交感神経を優位にしてくれ、お勧めです。
また、眠れないときには、睡眠以外のことに注意を向けることで眠りやすくなるため、静かな音楽を聴くのは有効なのです。
人間は、体を温めた後、深部体温(※)が下がったときに眠くなるので、入浴、寝る前に「ストレッチなど軽い運動をする」「日中に体を動かす」は、良質な睡眠に役立ちます。
なかでも、寝る前に「スマホ・パソコンを見ない」という工夫は、すべての人に行っていただきたいことです。明るい光は睡眠の質を低下させるので、寝る前から部屋を暗くし、スマホ、パソコン、テレビを見るのは控えましょう。
日本人は、世界で最も「寝酒」の習慣がありますが、これはNG。アルコールは飲んで3〜4時間たつと覚醒物質に変わり、寝つきはよくても、睡眠が浅くなってしまいます。
「抱き枕」で横向きに寝ることは、気道が広がって、イビキが軽減するのでお勧めです。「枕」は寝返りが打てるよう、肩幅よりも広く、沈み込まないものを選び、立っているときの姿勢を、横になった寝姿勢で保てる高さが理想です。
※:脳や内臓などの体の内部の温度
◎こんな回答もありました◎

子どもと寝るのは睡眠の視点ではNG
回答の中の「裸で寝る」は、NGです。寝ているときは汗をかきますが、裸だと蒸発しにくく、冷えも起こります。暑くても通気性、吸収性のいいパジャマを着ましょう。
また、「子どもと寝る」という回答も、実はNGです。子どもでも夫婦でも、誰かといっしょに寝ると、相手の寝返りで目が覚めます。肌の温もりで安心感は得られますが、睡眠全体としては、一人で寝るのが良質な睡眠を得るための基本です。
「悩みを抱え込まない」「眠れなくても深刻にならない」というのは、快眠のためには大事な姿勢ですが、これがなかなかできないために、睡眠に悩む人が多くなっています。
まずは、明るさ(30ルクス以下・月明かり程度)、音(40フォン以下・図書館程度)、室温(夏25℃、春秋20℃、冬15℃)、湿度(50〜60%)という「4つの睡眠環境」を整えることから始めるのもお勧めです。