解説者のプロフィール

西野精治(にしの・せいじ)
スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体リズム研究所(SCNラボ)所長。
医師、医学博士。
1955年、大阪府出身。1987年、当時在籍していた大阪医科大学大学院からスタンフォード大学医学部精神科睡眠研究所に留学。突然眠りに落ちてしまう過眠症「ナルコレプシー」をはじめ、睡眠・覚醒のメカニズムを分子・遺伝子レベルから個体レベルまで幅広い視野で研究。初の著書『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)がベストセラーに。
最初の90分を深く眠れば認知症予防にもなる
皆さんの中には、日頃の睡眠不足を解消するために、週末の寝だめを行っている人もいるかもしれません。しかし、週末の寝だめでは、「睡眠負債」は解決しないことがわかっています。
実験によると、自分に必要な睡眠時間が毎日40分不足する生活を長く続けていた場合、この睡眠負債を返すためには、毎日14時間ベッドにいるのを3週間続けなくてはいけません。このような返済法は、現実には難しいので、睡眠時間を確保できない場合は、いかに睡眠の質を高めるかが重要となってきます。
そのためには、寝始めの90分で、いかに深い眠りが得られるかがポイントになります。
私たちの睡眠のリズムは、入眠から約90分間ノンレム睡眠が続き、90分後、最初のレム睡眠が現れます。
ノンレム睡眠の深さは、レベル1〜4がありますが、下のグラフでもわかるように、1回目のノンレム睡眠が最も深くなっています。
6〜7時間眠る場合は、90〜120分のスリープサイクルを第4周期まで4回ほど繰り返すのですが、その質は、最も深い第1周期の質で決まります。つまり、何時間寝ても、最初の90分が崩れれば、眠りも総崩れになってしまうのです。
また、成長ホルモンの7〜8割が分泌されるのが、この最初の90分のノンレム睡眠時です。
成長ホルモンは、細胞の成長、骨の増殖、アンチエイジングなど、子どもだけでなく、大人の健康維持にも味方になってくれる物質です。
免疫力のアップや、脳の老廃物の排出にも、ノンレム睡眠が大きな役割を果たしており、最初の90分を深く眠ることは、病気やアルツハイマーの予防にも役立ちます。
ですから、皆さんには、最初の90分の眠りの質を高めてもらうために、次の4つの方法を実践していただきたいと思います。
入浴、寝具、朝の光などで睡眠の質を上げる
●まず1つめは、「入浴」です。
深い睡眠に効果的なのが、「深部体温」(※)を一時的に大きく上げて、大きく下げること。これができるのが入浴なのです。大きく下がるときが入眠のベストタイミングで、入浴後90分が目安になります。そのため、寝る90分前に入浴を済ませておくと、スムーズに入眠できます。
お風呂に入ってすぐ寝たいという人は、シャワーだけ、または40℃未満のぬるいお湯に15分以内で入り、深部体温の上げ下げの時間が短くなるようにします。
※ 脳や内臓などの体の内部の温度
■「入眠のカギは深部体温。いったん上げてスーッと落とす」

深部体温は、入浴により上がったぶんだけ下がろうとする。
その急降下が、入浴から90分後に始まり、眠くなる
●2つめは、眠くなったら「宿題は朝」にすること。眠気をこらえて作業をしても、その後、集中していた脳は興奮して入眠のタイミングを逃しており、最初の90分の深い睡眠が得られません。それならば思い切って寝てしまい、睡眠時間が短くなっても深い睡眠をとった後に起きて作業をするほうが、頭も冴え、翌日の疲労感もさほど感じないでしょう。
●3つめのポイントは、「寝具」です。睡眠中は脳を休めなければならず、休めるには温度を下げたほうがいいのです。通気性がいいと温度が下がるので、アレルギーの問題がなければ日本のそば殻枕はとてもいい枕と言えるでしょう。パジャマについては、私の愛用のものを下で詳しくお伝えいたします。
●4つめは、朝起きたときの行動です。覚醒のスイッチとなるのが光と体温。天気に関わらず「朝の光を浴びること」は、メラトニン(眠りを誘うホルモン)の分泌を抑制し、覚醒を促してくれます。
また、自然に上がっている深部体温と皮膚温度の差を広げることが覚醒につながるので、起きた後は裸足で歩いたり、冷たい水で手を洗ったりするのもいいでしょう。
これらの4つを実践して、ぜひ質のいい睡眠を手に入れてください。
10年長生き!西野式快眠パジャマ
私には長年愛用しているパジャマがあります。しかし、それはパジャマとして売られているものではありません。
実は私のパジャマは、モンベルという日本の世界的なアウトドアブランドの薄型ジャケット(下の写真参照)なのです。
これは、3Mという企業の「シンサレート」という高機能中綿素材でできていて、軽くて薄いのに、どれだけ寒くても着ていると暖かく、暑いときは汗を吸収してくれます。だから1年じゅう、これを愛用しているのです。
3M「シンサレート」は、スポーツウエアのほか、布団の素材としても使用されており、羽毛の2倍暖かいというデータもあります。
私がこのモンベルのジャケットを愛用するようになったきっかけは、10年ほど前に、吹雪で車が立ち往生したときでした。
アメリカでスキーに行ったとき、すごい吹雪にあって、通気口が凍り、車が雪道でオーバーヒートしてしまったんです。外は氷点下20度くらいでしたが、エンジンがかからなくなり、凍え死ぬかと思いました。
でも、そのときの私はこのジャケットを着ていたおかげで、極寒の中でも凍えることなく助けを求めにいくことができました。
まさにこのジャケットは命の恩人のような存在で、「こんなに薄くて軽いのに、寒い中でも熱を奪わずすごい!」と感動しました。
それから、このすごい素材に注目するようになったのです。
冬は、革のコートやジャンパーを着ていると暖かいですが、電車に乗ると暖房が効いていて、暑くなります。コートやジャンパーは脱いだらかさばるため、私は移動のときもこのジャケットを着ています。
汗をかいても臭くないので、夏も愛用し、洗濯機で丸洗いできるところも気にいっています。
こんなに優れているのに市場にないのが残念
旅行にも持っていきますし、飛行機の中でもずっと着ています。
人間は、寝ている間に体温が変動するので、何を着て寝るかというのはとても重要です。
寒い冬に厚着をして寝ると、だんだん熱がこもって暑くなり、不快になって、目を覚ましてしまうという経験はありませんか。
逆に、夏は暑いからと短パンやTシャツといった薄着で寝て、寝た後に体温が下がりすぎてカゼをひくというパターンもあります。
若くて健康な体だと、寒暖差に対してスムーズに体温調節が行えますが、年齢とともに体温調節機能が衰えてきます。
高齢になると、カゼから肺炎を起こして亡くなってしまうことがあるので、カゼを引かないことが大事です。そのため、寝ているときの体温調節がポイントになるのです。
その点、このジャケットは、寒いときは熱を奪わず、暑いときは熱を放出してくれる優れものです。
これをパジャマにしていると、朝まで気持ちよく眠れるので、寿命が10年くらい伸びたのではないかと思うほどです。
私は今、6着ほど持っていますが、気にいっている型番のものがもう売っていないので、ネットオークションで探すこともあります。
破れてしまったときは、モンベルに修理に出すことにしています。
「夏は暑いのでは?」と思われるかもしれませんが、冷房が効いている室内と暑い外の気温差も、このジャケットが調整してくれます。
こんなに優れているのに、パジャマとして市場にないのが残念です。いつの日か、製作されることを期待したいと思います。

★素材は3M「シンサレート」
★パジャマとしては市場にはない
★夏、暑くならず、冬は温かいので、1年じゅう愛用
★現在は、6着を着まわしている
★ニオイがない、臭くならない
★洗濯機で丸洗いできる
★たたむとかさばらないから、どこにでも持っていける
★この写真のジャケットは、数年前のモンベルの製品を、ネットオークションで購入したもの。
★「もうなかなか見つからなくなって困ってるんです」(西野)