解説者のプロフィール

伊藤明子(いとう・みつこ)
●赤坂ファミリークリニック
東京都港区赤坂二丁目15-15 赤坂プラザビル3階
03-5562-8825
https://www.afc.tokyo/
赤坂ファミリークリニック院長。東京大学医学部附属病院医師。
東京外国語大学卒業。帝京大学医学部卒業。東京大学大学院卒業。東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学・健康医療政策学教室非常勤講師。専門は小児科と公衆衛生。一般診療に加え、栄養・食事療法、ストレス管理、障害のある小児の診療を中心に行う。同時通訳者・翻訳者。2児の母。
コレステロール値や中性脂肪値の降下に有効
私たちの体は、食べた物で作られています。だからこそ、いかに選び、どう食べるかが、健康の決め手となります。
そこで、私が重視しているのが、常備菜です。現代人は忙しく、仕事や家事などに追われ、料理に手間ひまをかける余裕がなかなかありません。しかし、加工食品や外食に頼ってばかりでは、栄養が不足したり、偏ったりしてしまいます。
忙しさにかまけて健康を犠牲にしないためにも、栄養価の高い常備菜を、冷蔵庫に一品、用意しておくと安心です。
実際に私も、常備菜を活用して健康を維持しています。私は小児科医と並行して同時通訳の仕事を請け負う一方で、2児の母としても奮闘してきました。多忙ななかでも元気でいられるのは、日々の食生活に気を配ってきたおかげでしょう。
ちなみに、私の冷蔵庫に入っている常備菜のうち、ひときわ大きな存在感を放っているのが野菜や根菜、豆類などの、酢漬けです。
酢には高い防腐・抗菌作用があるので、酢漬けにすることで長期保存が可能になるという利点があります。加えて、酢そのものの健康機能性が高いので、組み合わせる食材によっては大変優秀な常備菜となるのです。
そこで今回は、ニンジンの酢漬け「酢ニンジン」の、優れた健康効果について説明します。
酢の主成分は酢酸で、健康作用は多岐にわたります。しかもその効果は、国内外の多くの研究により、分子レベルで実証されています。
疲労回復や食欲増進への効果は、おそらく皆さんも実感したことがあるでしょう。
とりわけ注目されるのが、血圧や血糖値、コレステロール値、中性脂肪値などを降下させる作用です。また、酢の摂取は代謝を高めるため、疲労回復や肥満解消、アンチエイジングにも効果が期待できます。
酢ニンジンのココがすごい!

⃝血圧・血糖値・コレステロール値・中性脂肪値などを下げる!
⃝疲労回復、肥満解消、老化防止に役立つ!
⃝皮膚・粘膜・骨・歯・髪の健やかな発育を促す!
⃝体の抵抗力・免疫力を高める!
⃝目の機能を維持する!
⃝便秘を解消し腸内環境を改善する!
ニンジンは抗酸化力も抗糖化力も高い!
生活習慣病や老化の原因は、体内の「酸化」と「糖化」です。酸化とは、体内で発生した活性酸素が細胞を傷つける現象。糖化とは、体内の過剰な糖質がたんぱく質と結合し、AGE(糖化最終生成物)が蓄積していくことを指します。
生物は皆、酸化と糖化から逃れることはできません。しかし抗酸化力や抗糖化力の高い食品をとることで、その進行を遅らせ、抑制することが可能です。
そして、酢は高い抗酸化力を持っていることから、生活習慣病や老化防止に役立つのです。
ニンジンも、また同様です。ニンジンの強力な抗酸化力のもとは、主にβカロテンです。
βカロテンはカロテノイド色素の一種で、体内でビタミンAに変換されます。豊富なビタミンは体の糖化を防ぐので、ニンジンは、抗酸化力も抗糖化力も高い食材といえます。
ビタミンAは、その名が示すとおり、最初に発見されたビタミン。古くからさかんに研究されています。皮膚や粘膜、骨や歯、髪の新陳代謝を促進し、健やかな発育を促します。
丈夫な皮膚バリアの形成に役立つことから、体の抵抗力を高めます。目の機能維持とも深いかかわりがあり、ビタミンAが不足すると夜盲症になるのは、よく知られているところです。
ビタミンAは、動物性食品やサプリメントからも摂取できますが、とり過ぎは頭痛などのビタミンA過剰症を引き起こす可能性があります。とはいえ、野菜からβカロテンという形でとるぶんには、必要量だけ体内でビタミンAに変換されるため、毎日毎食、多量に食べるのでなければ、心配はいりません。
また、ニンジンに豊富に含まれる食物繊維にも、重要な役割があります。
食物繊維は、腸のぜん動運動(便を送り出す動き)を促すことで、便秘を改善に導きます。さらに注目すべきは、腸内で善玉菌のエサとなり腸内環境を改善する働きです。
腸は消化管ですが、人体最大の免疫器官でもあります。「腸管免疫」といい、体の免疫機能の6~7割を、腸が担っているのです。つまり、腸内環境を整えることは、全身の免疫機能の向上に直結します。
加えて、近年新しく出てきた考え方に「腸皮膚相関」というものがあります。腸内環境のよしあしは、皮膚とも密接な関連があるとして、研究が進められているのです。ニンジンを食べることで、食物繊維の腸内環境改善作用と、βカロテンの代謝促進作用が相乗し、肌状態の改善に、大いに貢献するでしょう。
こうして見てきたように、酢にもニンジンにも、強力な健康作用があります。もちろん私もふだんから、組み合わせて食べるよう意識しています。
忙しい現代人の健康を支える常備菜・酢ニンジン。皆さんもぜひ、お試しください。
基本の酢ニンジンの作り方
監修◎金丸絵里加(料理研究家・管理栄養士・女子栄養大学講師)

エネルギー:362kcal 塩分:3.4g(全量)
【材料】(作りやすい分量)
・ニンジン…大2本(400g)
・塩…小さじ1/2
・酢…400~600ml(容器の大きさにより調整)
※穀物酢、米酢、黒酢、リンゴ酢、ワインビネガーなど、お好みの物でOK。
・ハチミツ…大さじ2

❶ニンジンをせん切りにする。

❷ボウルに①を入れて塩を振り、よくもみ込む。

❸②を煮沸消毒した容器(ジッパーつきの保存袋でも可)に入れ、よく混ぜた酢とハチミツを、ひたひたになるまで注ぐ。ふたをして、冷蔵庫で保存する。

※漬けて30分ほどで食べられるが、時間をおいたほうが味がなじむ。2~3週間は日持ちする。
※取り出す際は清潔な箸などを使う。
※残った漬け酢は、ニンジンを漬けるのには再利用しない。