解説者のプロフィール

板谷隆義(いたや・たかよし)
●板谷耳鼻咽喉科
滋賀県草津市西大路町8-28-101
077-561-0618
http://www.itaya.or.jp/
板谷耳鼻咽喉科院長。医学博士。
1987年、高知医科大学医学部卒業。丹後中央病院、滋賀医科大学病院、神戸市立中央市民病院の耳鼻咽喉科勤務を経て、1998年に、板谷耳鼻咽喉科を開業。
原因はさまざまだが共通するのは生活習慣の乱れ

「立ち上がるとめまいに襲われる」「耳鳴りが響いてよく眠れない」「最近、人の声が聞き取りにくくなった」――。このような症状にお悩みのかたは、多いのではないでしょうか。
私たちの脳は、通常、視覚からの情報、耳のなかにある内耳からの情報、足の裏からの情報、といった感受した複数の情報を、統合的に処理します。それによって、全身のバランスが維持されているのです。しかし、なんらかの原因によってこの情報間に齟齬が生じると、脳は混乱を来して、めまいとなって現れます。
一方、耳鳴りの発生源は、内耳である場合が多いと考えられます。内耳のなかにある有毛細胞が弱ったり死滅したりしたという情報が脳に伝わり、それを耳鳴りとして知覚する、という考え方です。
また、老化などにより聴力が低下すると、脳へ伝わる情報は少なくなります。そのため、脳が音に対する感度を上げようとし、耳鳴りが大きくなることもあるでしょう。
私は耳鼻咽喉科医として、連日、耳鳴りやめまいに悩む多くの患者さんを診ていますが、根本的な原因はさまざまです。病気のメカニズムが体系化され、それに伴った治療法が確立されてきましたが、なかなか一般化しづらいのが現状です。実際のところ、耳鳴りやめまいは、複数の原因が複雑に絡み合って生じることが少なくありません。
ただ、どの症状に対しても多くの場合に共通しているのが、生活習慣の乱れです。基本的に私は、耳鳴りやめまい、難聴といった症状は「体からの悲鳴」だと考えています。生活習慣の乱れに対して体が悲鳴を上げ、耳鳴りやめまいという形で現れるのです。これらを治すためには、根本原因を突き止めて適切な治療を受けるとともに、自らも生活を正す努力をすることが重要です。
では、具体的に何を行えばいいのでしょうか。本来であれば、行うべきこと、正すべきことは多岐にわたりますが、多いほど続けるのは容易ではありません。そこで私は必ず行ってほしいことを
①睡眠
②水分
③ウォーキング
の三つにしぼり、患者さんに伝えています。
眠っている間に聴覚神経が修復する
まず、「睡眠」についてご説明しましょう。人間の体は、睡眠時に組織が修復されて、老廃物が除去されます。このとき重要なのが、成長ホルモンです。
成長ホルモンは文字どおり、体の成長に欠かせないホルモンですが、子供だけでなく大人も睡眠中に分泌されます。眠ると疲れが取れるのは、このホルモンのおかげといっていいでしょう。内耳の組織や脳の聴覚神経の修復にも働くため、健やかな耳を保つためには成長ホルモンの分泌が欠かせません。
また、体にはリンパと呼ばれる体液のシステムがあります。細胞間とリンパ管を伝わって老廃物を除去するシステムですが、今までは脳にはないといわれていました。しかし最近になって、脳でもグリア細胞と呼ばれる細胞を介して、脳内の老廃物を除去することが判明しました。グリア細胞のリンパは、グリンパと呼ばれ、睡眠中にグリア細胞が縮むことで流れやすくなるのです。老廃物が流れずに脳内にたまると脳の働きが悪くなり、聴覚にも悪影響を及ぼしかねません。
成長ホルモンの分泌を助け、グリンパの流れを促すには、質のよい睡眠が必要です。できる限り12時までに寝床について、6〜7時間を目標に睡眠をとるのが理想的です。なお、不眠にお困りの方は、睡眠外来や睡眠健康指導士にご相談ください。
脱水による内耳のむくみを予防する
次に、「水分」についてです。 内耳の蝸牛という器官には、常に一定量の内リンパ液が保たれており、新しい内リンパ液が産生されると、古い物は排出されます。この流れが滞ると、内リンパ水腫という内耳のむくみが引き起こされ、メニエール病などのめまいや、耳鳴り、難聴の一因となるのです。
内耳のむくみは、体が脱水を感じると起こりやすくなります。その予防のためには、こまめに水分を摂取することが有効です。日ごろから、水筒などを持ち歩くようにしましょう。コーヒーやお茶は利尿作用が強いため、とると逆効果になることがあります。水を1日に2ℓほど飲むように心がけてください。
ウォーキングでセロトニンが分泌
最後に、「ウォーキング」です。有酸素運動を行うと、全身の血流が促されます。特にウォーキングは、血液のポンプの役割を果たしている、ふくらはぎが刺激されるため、より効果的に血流が改善します。耳周辺の血流もよくなるでしょう。
また、歩くことで脳内に幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが分泌されます。耳鳴りは、うつ病などの精神疾患が引き金となることが少なくありません。その意味でも、ウォーキングは効果的といえます。
以上の「セルフケア3原則」を、ぜひ毎日実践してください。一定期間続けることで、改善効果を望めるでしょう。
耳鳴り・めまい・難聴に効く「セルフケア3原則」
