解説者のプロフィール

倉島一浩(くらしま・かずひろ)
●山王病院
東京都港区赤坂 8-10-16
03-3402-3151(代表)
http://www.sannoclc.or.jp/hospital/
山王病院耳鼻咽喉科副部長。国際医療福祉大学准教授。
1990年、慶應義塾大学医学部卒業。専門は神経耳科学。患者さんと1対1の人間どうしとして触れ合うことをモットーに診療に当たっている。
運動不足がめまいの原因になることが多い!
私の勤務する病院の耳鼻咽喉科には、めまいを訴える患者さんが毎日のようにいらっしゃいます。さらに、受診には至らないまでも、潜在的にめまいに悩む人は多いと思います。
一口にめまいといっても、症状はいろいろです。
大別すると、急に自分や周囲がグルグル回っているように感じる「回転性めまい」、頭がフラフラして船酔いのような感覚が起こる「浮動性めまい」、目や頭はしっかりしているのに歩くときにフラフラする「平衡障害」、一時的な脳の虚血による「立ちくらみ」などがあります。
原因もさまざまです。内耳の不具合だったり、脳神経の不調だったり、心臓や血圧など循環器系の異常だったり、精神的なことだったりと、実に多岐にわたります。
当然、治療法や対処法も異なります。
ただ、急性期を除き、基本的に私は「めまいの多くは生活習慣病」と考えています。薬で治療すべき病気がある場合を除き、「投薬より生活習慣の改善」をモットーに、できるだけ体を動かすように指導しているのです。
一度めまいが起こると、治ったあとも「いつ、まためまいが起こるかわからない」という不安(予期不安)から引きこもりがちになります。運動を勧めても、「外出先でめまいが起こったら……」と腰が引けてしまうようです。
しかし、それは逆効果。再発の危険性が高まります。特に高齢者の場合、運動不足がめまいの原因になることが非常に多いのです。
「寝ながら何かをする」という習慣をやめよう
詳しく説明しましょう。
体の平衡を保ち、まっすぐ立って歩けるのは、視覚(周囲の景色や動きを見る)、前庭覚(内耳にある三半規管や耳石器が頭の動きや傾きを感知する)、深部感覚(足の裏や筋肉、関節などからの情報。固有知覚ともいう)の三つの感覚のおかげです。
これらはすべて、加齢により減退します。また、それらを統合する脳の機能や、姿勢の維持に必要な全身の筋力も衰えます。ですから、ある意味、めまいを「年のせい」「老化現象」というのは間違いではないのです。でも、それをいっては元も子もありません。
運動といっても、特別なことをする必要はなく、歩くだけでじゅうぶんです。外に出て歩くことが、めまいだけでなく、全身の機能改善にもつながります。
薬や安静がほんとうに必要なめまいは、実はあまり多くないのです。すでに抗めまい薬を処方されている患者さんにも、症状がひどいときだけ飲むように指導するなど、薬を減らす方向で治療に当たっています。実際、減薬と運動で症状が改善する患者さんは多く、悪くなった人を私はほとんど知りません。
めまいのなかには、耳鳴りや難聴を伴うものもあります。このような場合も、急性期を過ぎたら、できるだけ体を動かしたほうが早く快方に向かいます。
突発性難聴の急性期は、内耳の保護のため、大きな音も避けましょう。
めまいのなかで最も患者数が多いのが、良性発作性頭位めまい症です。寝返りを打ったり、顔の向きを変えたりすると、視界がグルグル回ります。頭を動かすとめまいがするので、運動は避けたくなりますが、このめまいにこそ運動が有効です。
良性発作性頭位めまい症は、内耳にある耳石器(頭の動きや傾き、加速度を感知する器官)にくっついている耳石(小さな結晶)がはがれて、三半規管の中に入り込むことで起こると考えられています。はがれた耳石は、頭を動かせば、三半規管の外に出ます。
ところが、安静にして頭を動かさないでいると、耳石が三半規管の中にとどまり、さらに、はがれた耳石が一ヵ所に集まって塊になり、より大きなめまいを起こします。

良性発作性頭位めまい症は、生活習慣を変えることで再発を防ぐことができます。
まず、「寝ながら何かをする」という習慣はやめましょう。例えば、「ソファに寝転がってテレビや雑誌を見る」「ベッドでスマートフォンを操作する」といった行為は、寝返りがなく、頭が長時間同じ向きになりがちです。こうした習慣を改めることで、めまいが解消する患者さんが多いのです。
「めまい」を改善する体操
また、朝、布団で目が覚めたら、すぐに体を起こすのではなく、ちょっとした動作をしてから起きるよう勧めています。左右に一往復寝返りを打ち、さらに、いったんうつぶせになってから起き上がるのです。こうして頭の向きを変えることで、めまいが起こりにくくなります。

❶目が覚めたら、すぐ起き上がらず、左右に一往復、寝返りを打つ。肩や腰が痛い場合は、首から上だけ横を向く。
❷最後にうつぶせになってから、起き上がる。
「ふらつき」を改善する体操
椎間板ヘルニアや糖尿病で、足の神経に障害が起こると、足の裏にしびれなどの感覚障害が生じます。それが原因でふらつく人も少なくありません。
そうした患者さんには、イスに座って足の裏でゴルフボールを転がすリハビリを指導します。足の裏の感覚を取り戻すことで、ふらつきを改善させるのです。

イスに座って足の裏でゴルフボールを転がし、足の裏の感覚を取り戻す。
「立ちくらみ」を改善する体操
「立ちくらみがひどくて、外出が怖い」という人も多く見られます。急に立ち上がったときに、脳の血流が低下して起こる現象です。
血流が悪いことが原因なので、これも安静は逆効果。できるだけ歩いて、下半身から上半身への血液を増やしてください。「起床時に立ちくらみがする」という人は、布団の上であおむけになり、自転車をこぐように空中で足を動かし、足の血液を心臓に戻してから立ち上がるといいでしょう。

あおむけで自転車をこぐように空中で足を動かしてから、起き上がる。