解説者のプロフィール

北西剛(きたにし・つよし)
●きたにし耳鼻咽喉科
大阪市守口市淀江町3-7 メディトピア守口2F
06-6902-4133
http://www.kitanishi-ent.jp/
きたにし耳鼻咽喉科院長。
1966年、大阪府生まれ。滋賀医科大学卒業。病院勤務を経たのち、大阪府守口市で「きたにし耳鼻咽喉科」を開業。2014年に医学博士号を取得。日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本気管食道科学会専門医、日本アーユルヴェーダ学会理事。著書に『耳鼻咽喉科医だからわかる意外な病気、治せる病気』(現代書林)がある。
聴力だけでなく認知機能も向上する
私は耳の専門医の立場から、加齢に伴う耳鳴りや難聴に悩む患者さんに対し、食事の指導を行っています。
「えっ、耳なのに食べ物!?」と思われるかたが多いかもしれません。食事に気をつけなければならないのは、高血圧や糖尿病、腎臓病を患った人というイメージがあるのでしょう。しかし最近の研究によって、耳の不調に対しても、日々の食生活が大きな影響を与えると明らかになりました。
この観点から私は、食養生を治療の大きな柱の一つとしてとらえています。栄養状態を良好に保つことは、加齢性難聴を中心とした耳の病気の発症に大きくかかわるだけでなく、症状を改善に導くために欠かせません。ここで具体的に、耳鳴りや難聴に効く食事とはどのようなものか、ご説明しましょう。
私がまず勧めているのは、大豆食品や卵です。大豆や卵黄には、レシチンというリン脂質(リンを含んだ脂質の総称)の一種が豊富に含まれています。このレシチンは、耳から知覚した音を脳に伝えるための神経伝達物質である、アセチルコリンの産生に欠かせません。
私たちは、外部から音を感受すると、それを内耳にある蝸牛という聴覚器官によって電気信号へと変換し、聴神経を通じて脳へ届けます。この経路によって脳が音を認知するのですが、このとき神経伝達物質が不足していると、脳へ信号が正しく伝わりません。これが、聴力の低下=難聴につながると考えられるのです。
神経伝達物質としては、グルタミン酸やアスパラギン酸などがよく知られていますが、アセチルコリンも重要な神経伝達物質の一つであることが、私の研究グループが行った実験によって明らかになりました。
アセチルコリンの材料となるレシチンが豊富な大豆食品や卵を摂取することで、神経の伝達がスムーズになり、聴力だけでなく認知機能の向上にもつながるでしょう。卵料理や豆料理をはじめとして、みそや豆腐、納豆、厚揚げといった大豆の加工食品をよく食べることをお勧めします。

大豆は耳の神経伝達を活性化する
悪玉菌のえさとなる白砂糖は控えよう
ビタミンB群も日ごろから意識して摂取するといいでしょう。ビタミンB1は豚肉や魚介類、ビタミンB2は納豆やレバー、ビタミンB6はマグロやナッツ類、ビタミンB12はアサリや青魚などに多く含まれています。
これらのビタミンB群は、相互に補いながら作用するのが特徴です。そのため、個別にとるのではなく、ビタミンB群をいくつか同時に摂取することで、より効果的に働きます。
これ以外にも、マグネシウムやカルニチン、タウリンといった栄養素も摂取するようにしましょう。マグネシウムはゴマや魚の煮干し、カルニチンは牛肉や羊肉、タウリンはタコやイカに多く含まれます。
次は、とらざるべき食品の紹介です。最も控えたほうがいいのは、精製された糖質です。白砂糖を多く使ったお菓子やジュース類は腸内の悪玉菌のえさにもなるため、なるべく避けるようにしましょう。
そして、精白米よりも、ビタミンやミネラルを多く含む玄米のほうがいいでしょう。パンやパスタ、うどんなども急激に血糖値を上昇させるため控えるべき食材です。なお、野菜などはなるべく加熱せずに、生のままとるようにしましょう。
これらに加えて、いつも食べ過ぎないことを心がけてください。腹六分が理想ですが、腹八分ぐらいに抑えられればいいと思います。
そして、神経細胞を浄化し働きを高めることを目的に、ときには断食をして腸を休ませてあげることも効果的です。
一般的に耳鳴りや難聴は、「死なない病気」と思われています。しかし、死には直結しなくても、当人にとっては、その苦しみが他人に理解してもらえない、「死ぬほどつらい病気」かもしれません。
日々の食事で症状が少しでも快方へ向かい、心身の負担が軽減することを願っています。