脳外科医が勧める「瞑想」の効果 脳機能低下によるストレスを取り除く方法

脳外科医が勧める「瞑想」の効果 脳機能低下によるストレスを取り除く方法

人間の脳の機能は、大まかに分けて三層の構造からなっています。一層目は「生命脳」、二層目は「動物脳」、三層目を「人間脳」と呼びます。ストレスを受けると、自らを守ろうとして動物脳が反射的に作動するのです。そして動物脳が暴走すると、脳の働きにさまざまな不具合が生じてしまうのです。【解説】篠浦伸禎(都立駒込病院脳神経外科部長)


解説者のプロフィール

篠浦伸禎(しのうら・のぶさだ)
都立駒込病院脳神経外科部長。
1958年生まれ。東京大学医学部卒業後、富士脳障害研究所、都立荏原病院、国立国際医療センター勤務、シンシナティ大学分子生物学部留学等を経て2009年より現職。脳の覚醒下手術で世界トップクラスの実績を誇る。著書に『脳にいい5つの習慣』(マキノ出版)、『脳腫瘍 機能温存のための治療と手術』(主婦の友インフォス情報社)などがある。

記憶力にかかわる脳の海馬はストレスで萎縮

脳は、私たちの心と体をつかさどり、生きていく上で非常に重要な部分です。その脳の働きを低下させる最大の原因は、実はストレスなのです。

人間の脳の機能は、大まかに分けて三層の構造からなっています(下の図参照)。

一層目にあるのは脳幹です。これらは脳のいちばん奥に位置し、体温や呼吸、血圧の調整など生命維持にかかわっています。そのため、ここを「生命脳」と呼びます。

二層目は、生命脳を取り囲むようにある「動物脳」の大脳辺縁系です。食欲や性欲、快感や恐れといった、本能に基づく情動をつかさどります。

三層目が、大脳新皮質です。創造力や理性、思想といった高度な思考や感情に基づく判断や行動をつかさどるので、「人間脳」と呼びます。

私たちが精神的にも肉体的にも健康に生きていくには、生命脳が生き生きと働き、なおかつ動物脳と人間脳をバランスよく働かせることが欠かせません。

ところが、ストレスは動物脳に重大な影響を及ぼします。脳にとってストレスは、自らの存在や生存を脅かす強敵と同じです。ですから、ストレスを受けると、自らを守ろうとして動物脳が反射的に作動するのです。

具体的には、ストレスがかかると、動物脳からさまざまな「神経伝達物質」が分泌されます。怒りや興奮、不安や恐怖といった感情を伝達するノルアドレナリンや、快感や意欲を伝達するドーパミンなどが、その代表例です。

ストレスの影響でノルアドレナリンが過剰に分泌されると、動物脳の一部である扁桃核という部位が異常に反応し、不安と恐怖感が強くなり、パニック状態に陥ったり、精神的な活力が失われてうつ状態になったりします。

ドーパミンが過剰に分泌されると、同じく動物脳の一部である側坐核という部位が異常に反応し、より強い快感をもたらす刺激を求めて、依存症になることもあります。

また、ストレスがかかると、コルチゾールというホルモンも分泌されます。持続的に大量のコルチゾールが分泌されると、短期記憶をつかさどる海馬という部分が萎縮したり、機能が低下したりすることがわかっています。

このように、動物脳が暴走すると、脳の働きにさまざまな不具合が生じてしまうのです。

動物脳の暴走を抑えることが重要

さらに、ストレスは生命脳の一部である視床下部にも悪影響を及ぼします。視床下部は、自律神経をコントロールする中枢です。

自律神経は、鼓動や血圧など無意識のうちに行われる生命活動を調整し、体を活動の方向に導く交感神経と、休息の方向に導く副交感神経の2つからなります。この2つがバランスよく働くことで、心身の健康が保たれています。

しかし、過剰なストレスが持続的にかかると、交感神経ばかりが刺激され、体は興奮・緊張状態が続きます。先に述べたストレスホルモンのコルチゾールも、交感神経を刺激します。その結果、自律神経のバランスがくずれて、原因不明の頭痛やふらつき、不眠など、いわゆる自律神経失調症を招きます。

したがって、脳機能を守り、さらに活性化するには、ストレスを解消し、動物脳の暴走を防ぐことが重要になります。そのために効果的なのは、「動的」なものと「静的」なものを行うことです。

動的なものとは、武道や登山、自然の中で行う運動です。これらは、「今ここ」に集中することで、ストレスを消して右脳を活性化します。

左脳と右脳は働きが違い、左脳は言語を使って思考する機能が集中しているのに対し、右脳はより動物脳に近い存在です。注意力や集中力、空間の認知や体のバランスを取る機能など、今起こっていることに対処する機能が集中しています。

自律神経失調症や、うつ病の人など、脳機能が低下している人の脳血流を調べると、右脳の血流が悪くなっています。武道や運動は右脳を刺激して脳血流を増やすので、左脳と右脳のバランスが整っていきます。

たった2つのポイントで瞑想はできる

脳機能を活性化する静的な方法として、お勧めしたいのが瞑想です。私自身も毎日、朝晩5分~10分程度の瞑想を習慣にしています。

瞑想には、右脳の活性化に加え、心身をリラックスさせたり、神経伝達物質のドーパミンを増やす効果などがあることがわかっています。

中でも私が注目する効果は、瞑想を行うと動物脳の一部である、帯状回という部位が活性化することです(下の画像参照)。

帯状回を中心とする領域は、「私が私である」という脳の「自我の領域」です。動物脳と人間脳をつなぐ役割を果たすとともに、恐怖や不安に反応する扁桃核をコントロールする働きがあると考えられています。

瞑想を長年続けている人は帯状回が発達し、厚くなっていくことがわかっています。帯状回が厚くなると、脳のコントロール力が高まります。すると、いわゆる身心一如となり、ストレスに負けない脳に鍛えられるのです。

瞑想により、帯状回が活性化した例。瞑想を2年半続けた女性のfMRI(脳のどの部位が働いている画像で見る検査法)。左の後部帯状回(矢印部分)が活性化しているとわかる



実証されている瞑想の効果

❶副交感神経が優位になる→リラックスする

❷右脳が活性化する→集中力が増す

❸ドーパミンが増える→快感や意欲が増す

❹帯状回が活性化する→恐怖や不安をコントロールする

瞑想と言うと、特殊な訓練や修行が必要と思われるかもしれませんが、時間や場所を選ばず、誰でも簡単にできます。ポイントは「目を閉じて周りの情報を遮断すること」と、「呼吸は腹式呼吸で、意識的にゆっくり行うこと」の2つだけです。

目を閉じて鼻から息を吸い、口からゆっくりと細く長く息を吐き、意識は呼吸に向けます。途中で雑念が湧いても、かまいません。次の呼吸から、また意識を呼吸に戻し、吐く息や吸う息に注意を向けます。最初は5分くらいを目安に行い、慣れてきたら10分、15分と時間を延ばしていきましょう。

ストレスは、必ずしも悪ではありません。適度なストレスは脳への刺激となり、状況に応じて脳の使い方を再統合し、脳機能をレベルアップさせることにもつながります。そこで重要なのは、動物脳の暴走を防ぎ、人間脳が主体の脳の使い方をしていくことです。

瞑想は深い呼吸を通して自律神経に働きかけ、副交感神経を活性化し、リラックス状態に導きます。瞑想を行えば、動物脳の暴走をその場で抑えられ、習慣にすれば、人間脳が動物脳をうまくコントロールできるようになっていくのです。

瞑想のやり方

❶目を閉じて、周りの情報を遮断する
❷息を鼻から吸い、口からゆっくりと長く吐く
❸5分くらいを目安に行う。慣れたら10分、15分と時間を延ばす

脳機能を向上させることは魂を磨くこと

最後に、脳を活性化する究極の方法をお教えしましょう。
それは、瞑想や運動、食事(記事【ニンニクとオリーブ油】の効果参照)のほかに、脳全体を使えるような高い志を持つことです。自分の魂に響くことに打ち込む、とも言えます。

脳機能をよくしたいのは、なんのためでしょうか。認知症になりたくないから、頭がよくなりたいからでしょうか。もちろん、それらも大切な理由です。しかし、それだけでは脳機能の低下を予防できないと私は感じています。

魂に響くことをしたい、という志があってこそ脳が活性化するのだと思います。

私は、脳の中心、いわゆる魂は脳幹に含まれる視床下部にあると考えています。視床下部には、意識をつかさどる覚醒中枢が存在しているからです。自分がほんとうにやりたいこと、心から喜びを感じることをやっていれば、脳は疲れやストレスを感じず、視床下部が生き生きと働きます。

それは「魂を磨くこと」であり、脳の機能を最大限に発揮し、生命力を輝かせることにつながると思います。

この記事は『ゆほびか』2018年10月号に掲載されています
 

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

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