解説者のプロフィール

長田夏哉(おさだ・なつや)
●田園調布長田整形外科
東京都大田区田園調布2-41-2 NTT田園調布ビル1F
03-5483-7070
http://www.osada-seikei.com/
田園調布長田整形外科院長。
日本医科大学卒業。慶應義塾大学整形外科学教室入局。慶應義塾大学病院、川崎市立川崎病院などを経て、2005年、田園調布長田整形外科を開院。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医。体、心、意識へアプローチした自発的治癒力を高めるための医療を実践する。『体に語りかけると病気は治る』(サンマーク出版)ほか著書多数。
脳の疲れが不調や病気の原因に!
当院には腰やひざ、股関節が痛いと、多くの患者さんがいらっしゃいます。
腰痛、ひざ痛など、体の痛みは「ここをこれ以上動かすと危険」とか、「これをしてはいけない」などの体からのサインで、それを脳で「痛み」として自覚するのです。これは生きていくために必要な「生体アラーム」と言えます。
人間の脳は、ほかの動物と異なり、生命活動をつかさどる脳幹などよりも、大脳新皮質が占める割合が多いのが特徴です。大脳新皮質が大きくなることで、ただ生きるのではなく、運動や感覚、そしてそれらを処理して、思考、認知、記憶など、高次な機能を得てきました。これらは「人間らしさ」と呼ばれるものであり、「生きがい」を持った真の健康を感じることができます。
ところが、人間は社会を生き抜くため、生きがいを得るために痛みや不調など、体が発する少々のサインなら無視して、我慢して生きようとします。こうして体と脳との間にズレが生じていきます。
そして、大事な生体アラームに「疲労」があります。最近では疲労の正体は、脳にある自律神経の働きをコントロールしている視床下部などの神経細胞の疲弊、つまり「脳の疲労」であると言われています。この脳の疲労を大脳新皮質の眼窩前頭野で「疲労感」として自覚していると言われているのです。
ただ、自分の脳の疲労を「疲労感」として受け取れていないかたがとても多いです。脳の疲労に無自覚のままだと、体の「神経系」「内分泌系」「免疫系」からなるホメオスタシス(生体などを一定の状態に保ち続けようとする傾向)が「神経系」から乱れ、内分泌系・免疫系に影響し、さまざまな不調、生活習慣病などの病気の原因となります。

疲労がたまってくると周辺注意視野を狭めて、目から入ってくる情報を少なくし、脳を休ませようとする(視野が狭くなる、不注意になる)
体の不調は頭皮に現れる
私は、頭は「受信機・アンテナ」と位置づけています。健康な人の場合、頭は体からサインを受け取り、ホルモンバランスや自律神経を調整して、よい状態を保ちます。ところが、ストレスがたまったり、体調を崩したりすると、頭は体からのサインを受け取れなくなります。また、肉体周囲からの情報も受け取れなくなるのです。すると、その状態が頭皮に現れ、頭皮がむくんでブヨブヨになったり、過緊張による血行不良でカチカチになったりします。
私はこのことに以前から気づいていたので、患者さんの状態を知るために頭皮の状態を見て、治療に役立てることもよくありました。その後、臨床と研究を重ね、当院の頭皮セラピストである山本わか先生ほか、スタッフたちの協力を得て、当院オリジナルの頭皮セラピーを完成させました。
脳疲労を取ると視界が広くなる!
当院で施す頭皮セラピーは、頭へのマッサージのほか、鍼灸、アロマテラピー、サウンドヒーリング、音叉療法などと組み合わせ、自律神経を整え、体を調和のとれた状態に保つことを目指したものです。
今回その中から自宅でできるケア方法として、「頭皮ほぐし」をいくつか紹介します。特にお勧めするのが、「目の後ろを押す」と「後頭部ほぐし」です。
目は特に脳と関連が深い部位です。「眼精疲労」とは脳疲労の兆候の一つで、いわゆる疲れ目とは違います。人間は遠くを見たり、近くを見たりするとき、毛様体筋という筋肉で水晶体(レンズ)を引っ張ったり、緩めたりします。
本来、動物は、遠くを見ようとするとき、交感神経が働き、毛様体を緩めて、緊張状態になります。遠くに敵がいないか、または獲物がいないか、集中して見るためです。逆に近くを見るとき、副交感神経が働き、毛様体を引っ張って、レンズを厚くします。
ところが、現代人は逆に、パソコンやスマホ、テレビの画面など、近くを見るときに集中し、緊張状態になります。本来とは逆の動きのため、自律神経は混乱します。この状態が続くと自律神経が疲弊し、脳の疲れがたまっていきます。これが眼精疲労です。
眼精疲労は疲れ目とは異なり、脳の疲れなので、目を温めるなどの方法では簡単には取れません。
このとき、効果的なのが、「目の後ろを押す」です。後頭部の、ちょうど目の真後ろに当たる部分を指で押しながら、息を吐きます。「後頭部ほぐし」と合わせて行うと、目も頭もスッキリした感じになると思います。
頭皮セラピーを受けた患者さんからは、「視界が広くなった」「目の疲れが取れた」という感想がよく聞かれます。目から入ってくる大量の情報は、大脳が処理することを増やすので、脳疲労がたまると、脳は目から入る情報を少なくしようとします。
頭皮セラピーで脳疲労が取れると、脳に余裕ができるので、目から入る情報を処理できるようになり、視界も広くなるわけです。
疲労に自分で気づくことが肝要
頭皮セラピーで自律神経のバランスが整うこともデータが証明しています。数名の患者さんの頭皮セラピーを受ける前と受けた後の自律神経の状態を測定しました。すると、多くのかたの交感神経と副交感神経の活動が正常値に近づき、ストレス抵抗力を表すエネルギーの数値も回復していたのです。
また、頭には、体調や精神状態、病気、痛みだけでなく、生活習慣、その人の思考・感情パターンなどの生き様までもが現れます。
頭皮セラピーは、イライラやクヨクヨしやすい性格、ネガティブ思考や怒りなどの感情にも効果があるのです。
頭皮セラピーを受けたかたの多くは、日常的に頭皮を触って、固さをチェックするようになります。頭皮セラピーのいちばんの狙いは、自分で自分の疲れや、症状の根底にあるものに気がつくことにあります。
病気や痛みなどをその場で治しても、根本的な要因に気がつかなければ、また再発、もしくは新たな病気を生み出します。健康には、自分自身で自分の体の変化に気づくことが大事なのです。

「目の後ろを押す」「後頭部ほぐし」のやり方

【指導】山本わか(やまもと・わか)
田園調布長田整形外科頭皮セラピスト。
長年、自身が頭痛に悩まされていたが、長田夏哉医師の指導を受け、診療に関わるうちに、自身の手が持つ癒しの力に気づく。頭皮の奥深さに魅了され、頭皮セラピストとしての道を歩み始める。現在は頭痛も消失。指ヨガインストラクター、ロコモケアメイトとしても日々患者さんと向き合い、人間が本来持っている、自らの「生きる力」に気づけるようサポートしている。
「目の後ろを押す」

❶両手の5本の指で、後頭部の頭皮を細かくつまみほぐす。場所を変えながら、後頭部全体をほぐしていく

❷後頭部の、目の真裏に当たる場所に人さし指と中指を揃えて当て、息を吐きながら押しほぐす

横から見た写真。後頭部の目の真後ろに当たる部分を押す

❸頭のてっぺんより少し後ろにあるくぼみ(百会)に5本の指を揃えて当てる。頭の中にパンパンにたまった怒りを押し出すイメージで、息を吐きながら、百会を垂直に10秒くらい押す
「後頭部ほぐし」

❶自然な呼吸で頭を大きくゆっくり回す。左右に3回ずつ行う

❷鼻から息を吸いながら、頭をゆっくり後ろに倒す。倒しきった状態で、ゆっくり深呼吸を3回行う。息を吐きながら頭をゆっくり元に戻す

❸息を吐きながら、頭をゆっくり右に倒す

❹倒しきったらその位置から斜め後ろに頭を倒し、そのままの状態で左の肩を下げて胸鎖乳突筋をストレッチする。深呼吸を3回行う。左側も同様に行う