解説者のプロフィール

杤久保修(とちくぼ・おさむ)
●神奈川県予防医学協会中央診療所
神奈川県横浜市中区日本大通58 日本大通ビル
045-641-8501 (代表)
https://www.yobouigaku-kanagawa.or.jp
神奈川県予防医学協会中央診療所予防医療部部長。横浜市立大学特任教授・名誉教授。医学博士。
1968年、横浜市立大学医学部卒業。専門は予防医学、循環器病学、高血圧、医療情報システムなど。30年以上寒天療法の研究を続け、メタボ対策に活用。日本高血圧学会功労会員。日本循環器病予防学会名誉会員。著書多数。
寒天は食べ過ぎて太る心配が全くない!
私は、医学的見地から寒天の研究を続けて30年以上になります。予防医学の専門家として、生活習慣病予防に寒天の有効性を検討したのがきっかけです。
2004年には、次のような臨床実験を行いました。
76名の糖尿病患者さんに協力をお願いし、無作為で二つのグループに分けました。片方は従来の食事療法を実践するA群。もう片方は、従来の食事療法に寒天を加えたB群です。
いずれの群も同様にカロリー(エネルギー)制限をしたうえでB群は、毎日夕食前に200g弱の寒天(粉末寒天で2g相当)を摂取。3ヵ月後の変化を検証しました。
その結果、寒天を食べたB群はA群よりも、血圧、血糖値、コレステロール値、体脂肪率のすべてにおいて、数値が改善されていたのです。この実験結果を共著論文として発表したところ、2005年に、寒天ダイエットが大流行しました。
なぜ、寒天を摂取するだけでこれほどの健康効果を得られるのでしょうか。
秘密は、豊富な食物繊維と、その独自の性質にあります。
寒天の食物繊維含有量は、粉寒天100g当たり79g。これはコンニャクイモ粉79.9g、キクラゲの仲間のアラゲキクラゲ(乾)の79.5gに次いで、食品中トップ3に入ります。
しかも、寒天の食物繊維にはノンカロリーであるという、ほかにない特長があります。これは、大きな利点です。
というのも、食物繊維を含む食品は、多少なりともカロリーを含むからです。例えば、寒天とよく似た性質を持つコンニャクイモ粉由来のコンニャクマンナンでも、1g当たり2kcal程度あると推定されています。
食物繊維は腸管で吸収されにくいので、たくさん食べても大部分は便として排出されます。寒天であればノンカロリーですから、なおけっこう。食べ過ぎて太る心配は全くありません。
少し固めの甘酒寒天を夕食前にとるのがお勧め
加えて、寒天の食物繊維には独特の性質があります。食物繊維はメッシュ状の構造で、その網目に水分を保持することで、腸の中で多くの作用を生み出します。寒天はこの網目が、ほかの食物繊維よりもずっと細かいのです。寒天1gが保持する水分量は100g、つまり100倍の保水力を持ちます。ちなみにコンニャクは、約30倍です。
この圧倒的な保水力がどういう働きをするかというと、大量の水分を保持したまま腸に届くことで、寒天が腸の中で大幅な体積を占めます。かさ増し効果により膨満感が生まれ、食べ過ぎを防ぐことができます。
しかもこの食物繊維は、ドロドロのゲル状です。これが肥満はもとより、糖尿病や高血圧、コレステロール値の改善に効果を発揮するのです。
血糖値が上がると、膵臓からインスリンというホルモンが出て、調整に働きます。しかし、過剰な分泌は膵臓を疲弊させ、糖尿病や肥満を招きます。
寒天のゲル状の食物繊維は、腸内での糖の吸収を遅らせて、血糖値の急上昇を抑制します。血糖値のピークが下がれば、それだけインスリンの分泌を抑えて、膵臓の機能を守ることができます。これが結果的に、糖尿病の改善に役立つわけです。
食物繊維は、コレステロール値の降下にも貢献します。コレステロールは消化液の一種である胆汁酸の原料となりますが、腸内に食物繊維があると、食物繊維が胆汁酸の一部を吸着。便として排出します。この作用が体内のコレステロールを減らすことにつながるのです。
■寒天はミラクル食材!

❶豊富な食物繊維
❷ノンカロリー
❸抜群の保水力
甘酒と組み合わせれば腸内環境がさらに改善!健康効果も相乗!
今回の「甘酒寒天」ですが、寒天と甘酒の組み合わせは、なかなかの名案です。というのも、米こうじから手作りした甘酒には、生きている菌が豊富。腸内環境を改善するという点で寒天と共通するからです。
余談ですが、「寒天培地」をご存じですか。研究者が細菌を培養するのに使うシャーレの中身、あれは実は、寒天なのです。
寒天培地は、日本が誇る発明品です。コッホが発見した結核菌も、フレミングが見つけた世界初の抗生物質であるペニシリンも、寒天培地を用いて研究されたからこそ、発見できたと伝えられています。
寒天は、細菌を培養するのに最適な素材です。ということは甘酒といっしょに腸内に入れば善玉菌を増やす培地として機能する可能性が大いにあります。甘酒寒天は、腸内環境を劇的に変える手助けとなってくれるでしょう。
私は甘酒寒天を、少し固めに作って、夕食の前にとることをお勧めします。よく噛むことが満腹感につながるうえ、そのあとにとる食事の量を減らせるからです。食前に甘い物をとると血糖値の急上昇が懸念されますが、寒天といっしょなら、さほど心配はいりません。
ぜひ甘酒寒天を、生活習慣病対策の一助としてください。