解説者のプロフィール

平田雅彦(ひらた・まさひこ)
●平田肛門科医院
東京都港区南青山5-15-1
03-3400-3685
http://www.dr-hips.com/
平田肛門科医院院長。1981年筑波大学医学専門学群卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室、社会保険中央総合病院大腸肛門病センターを経て、平田肛門科医院の3代目院長に就任。「患者さん本位の医療」をモットーに、最新の医療技術と心身両面の生活指導で治療に当たる。著書に『痔の9割は自分で治せる カリスマ専門医が教える33の極意』(マキノ出版)がある。
寒天を入院食に採用し患者の便秘改善に成果!
私は、医院を訪れる患者さんには必ず、「痔は、生活習慣病なんですよ」と、お話ししています。
日常生活のなかで、痔の原因となるものは、
①便通の異常 ②肉体疲労 ③ストレス ④冷え ⑤飲酒 ⑥生理 ⑦座りっぱなしの姿勢
の七つがあります。
なかでも①の便通の異常、特に便秘は痔の最大の原因です。
便秘になると、便がかたくなり、そのかたい便が肛門を通るときに周囲を傷つけます。ついた傷に、便の細菌が入って感染すると、炎症が発生。それが、裂肛(切れ痔)や内痔核(イボ痔の一種)を発症させる要因になるのです。
また、便秘でいきむと、肛門でクッションのような役目をしている組織に、大きな腹圧がかかります。このクッション組織は繊細で、痔になりやすい部位です。ここに負荷がかかると、組織が肥大化したり、結合が弱まったりして、やはり痔の発症につながります。
このように、痔は便秘と密接に関係しています。ですから、痔の予防・改善には、便秘対策が欠かせません。そして、便秘を治すには、腸内環境をよくすることがなにより肝心です。
そこで、腸内環境の改善に特にお勧めの食品を、ご紹介しましょう。甘酒と寒天です。
まず、寒天の機能について、お話しします。
便秘を食事で改善しようとする際に、重要なのが、食物繊維です。食物繊維には、水溶性と不溶性の二つがあります。水溶性の特長は、便に水を含ませてやわらかくする作用。不溶性の特長は、便のかさを増して腸を刺激し、腸のぜん動運動(便を送り出す動き)を促進する作用です。
いずれの作用も、腸から便を出すためは欠かせません。寒天は、水溶性と不溶性、両方の食物繊維を含むため、機能性食品として、大変理想的です。
実際に、私の医院では入院患者さんたちに、毎日必ず寒天を食べてもらっています。昼食のあとのデザートとして、お出ししているのです。寒天を入院食に取り入れるようになったのは10年ほど前からですが、患者さんの便秘の改善に、大いに貢献しています。
通院の患者さんにも、もちろん寒天を勧めています。ある高齢の男性は、毎晩ところてんを食べて、便秘が解消しました。
ところてんも、原料は寒天と同じテングサです。この男性は甘くないところてんのほうが、好みだったようですね。
甘酒や寒天には昔の人の知恵が詰まっている!
一方で甘酒も、寒天同様、便秘の改善に大変役立ちます。
私たちの腸内には、体にいい影響を及ぼす善玉菌と、悪い影響を及ぼす悪玉菌、そして、状況によりいずれにもなりうる、日和見菌が存在しています。
このうち悪玉菌が増えると、腸内の環境が悪化。腸の活動が低下するため、便秘や下痢を招きやすくなります。
そこで、甘酒の出番です。甘酒は発酵食品ですから、まさに微生物のかたまりです。腸内に入ると、乳酸菌などの善玉菌を増やします。
すると、日和見菌が善玉菌に加勢して、形勢が逆転。悪玉菌が撃退された結果、腸内環境が良好になり、便秘や下痢が改善するのです。
これまで、多くの患者さんに甘酒を継続してとるよう勧めていますが、きちんと続けている人からは、以前より便通がよくなったと報告を受けています。もちろん、痔の改善にも、いい効果が上がっています。
思うに、甘酒も寒天も、昔から日本人が慣れ親しんできた食品です。ヨーグルトやチーズが庶民の口に入らなかった江戸時代から、脈々と続いてきた歴史があり、昔の人の知恵が詰まっています。遺伝子レベルで日本人の体に合うのは、こうした伝統食なのではないでしょうか。
甘酒の米こうじも、寒天も、安価で入手しやすいものです。ぜひ甘酒寒天を習慣にして、腸から健康になりましょう。

甘酒は痔の改善にも有効!