解説者のプロフィール

本田宏(ほんだ・ひろし)
外科医・前栗橋病院院長補佐。
1979年、弘前大学医学部を卒業。腎移植、肝移植の研究に携わったのち、埼玉県済生会栗橋病院に外科部長として赴任。2015年に外科医を引退し、現在は医療制度改革の活動に従事している。
脳の興奮を鎮めて心身をリラックスさせる
私は外科医として36年勤務したのち、現在は医療現場の労働環境や医療制度を改革する活動に従事しています。講演会や執筆などで非常に多忙ですが、埼玉県の栗橋病院で、月に1〜2回の外来診療と、週に1回の呼吸法教室を行っています。
呼吸法教室は、25年続いています。私が担当したガン患者さんのストレスコントロールと、免疫力向上を目的に始めました。なかには、20年以上継続して参加しているかたもいらっしゃいます。朝の30分という短い時間ですが、終了後の皆さんの表情は穏やかで、いきいきとしています。
教室では、いくつかの呼吸法を行いますが、基本となるのが「4・7・8呼吸」です。
これは元来ヨガの呼吸法で、気持ちを鎮め、ストレスを緩和するとされます。ですから当然、不眠に悩むかたにもお勧めです。就寝前に行うと、速やかに入眠できるでしょう。
不眠の原因はさまざまですが、最近多いのは「昼間のストレスを解消しきれず、なかなか寝つけない」というタイプです。布団に入ってから、昼間の出来事を思い出してイライラしたり、ネガティブ(否定的)な考えが止まらなくなったり、不安になったりして、眠れなくなるようです。
そんなとき、脳の興奮を鎮め、心身をリラックスさせるのが、4・7・8呼吸です。詳しいやり方は、下記の写真図解を参照してください。
鼻から息を吸って、いったん止め、口から吐くだけです。入浴中や寝室に入る前、布団に入ってから行ってもけっこうです。何回行ってもいいのですが、だいたい3~4回で気持ちが落ち着き、心身がくつろいでくるでしょう。布団の中で行っていて眠気を催したら、そのまま眠ってかまいません。
よく眠れるようになって気持ちが安定する!
なぜ、4・7・8呼吸を行うと、気持ちが安らいで眠れるのでしょうか。それは、自律神経のバランスが整うからです。
自律神経とは、意志とは無関係に血管や内臓、ホルモン分泌を調整する神経です。心臓や胃腸の動きは、自分で止めようと思っても止められません。これらは、自律神経がつかさどっているからです。
では、呼吸はどうでしょう。睡眠中も呼吸ができるのは、自律神経がコントロールしているからです。睡眠中の呼吸は、大きく深くなりますが、これは自律神経が心身を休息させるために、呼吸を調整しているのです。
目覚めた状態では、自分の意志である程度、息を止めたり、速度や深度を変えたり、という調整ができます。焦っているときや緊張しているとき、大きく深く呼吸をすると、気持ちが落ち着くという経験は、皆さんもお持ちでしょう。これはつまり、呼吸をコントロールすることで、心身を調整しているのです。
自律神経は、心身を活動的にする交感神経と、心身を休息に導く副交感神経が、バランスを取って働いています。昼間の活動中は交感神経が優位になり、夕方から明け方にかけては副交感神経が優位になります。
この二つの神経の切り換えがうまくいけば、明け方までは休息モードで、ぐっすり眠れるはずです。
ところが、昼間の緊張やストレスを引きずっていたり、イライラが鎮まらず興奮状態が続いたりすると、交感神経から副交感神経への切り換えができません。そのため、眠れなくなるのです。
このような状態のときに、心身の調整に効果を発揮するのが、4・7・8呼吸です。
実際に行ってみるとわかりますが、4・7・8呼吸は、吸う息よりも、吐く息のほうが2倍長く、呼吸が非常にゆっくりになります。呼吸を意識的に遅くすることで、副交感神経が優位になり、体が休息モードになるのです。具体的には、血管が拡張して血流がよくなり、筋肉の緊張が緩んでリラックスします。
呼吸法教室に参加する患者さんたちからも、「よく眠れるようになった」「気持ちが安定する」「心が明るくなる」「イライラが鎮まる」との声が上がっています。
また、副交感神経が優位になると、血液中の白血球のうち、ウイルスなどの外敵や、腫瘍などの異物を攻撃するリンパ球が増加します。つまり、副交感神経を優位にする4・7・8呼吸には、病気から身を守る免疫力を高める作用も期待できるのです。そういえば、呼吸法教室に参加している皆さんは、あまりカゼをひきません。
健康で豊かな生活を送るために、就寝前だけでなく、時間が空いたときに、4・7・8呼吸を行ってください。
快眠できる「4・7・8呼吸」のやり方

❶肩の力を抜いて4秒かけて鼻から息を吸う。

❷7秒間息を止める。

❸8秒かけて、口からゆっくり息を吐く。このとき、舌の先端を上の前歯の裏側につける。