解説者のプロフィール

玉川秀泰(たまがわ・ひでやす)
●永覚歯科クリニック
愛知県豊田市永覚新町1-49-1
0565-27-9711
https://www.ekaku-shika.com/
永覚歯科クリニック院長・日本生体咬合研究所副所長。
愛知学院大学歯学部 卒業。日本全身咬合学会認定医・指導医。日本頭痛学会会員。
左右均等に物を噛めている人はほとんどいない!

物を食べるとき、きちんと左右均等に歯を使って噛んでいますか」と聞かれたら、皆さんはどう答えるでしょうか。たいていのかたは、「均等に噛んでいる」と答えるでしょう。
しかし、私の経験からいえば、きちんと左右均等に噛むことができるかたは、非常に少ないのです。知らず知らずのうちに、どちらか片方の歯で噛むクセがついているかたがほとんどです。
そして、こうしたクセが長年にわたって続くと、どうなるでしょうか。
例えば、右側の歯ばかりで噛んでいると、右側の筋肉だけが使われて発達します。筋肉は、鍛えると、太く短くなる性質があるため、下あごは右側に引っ張られます。そして、右側の歯は、最もよく当たる歯からすり減っていきます。
一方、あまり使われない左側の筋力は弱り、特に左奥の歯が伸びてきます。すると、噛み合わせが悪くなって噛みにくくなるため、ますます右側ばかりで噛むようになります。
その結果、下あごはさらに右側に引っ張られ、あごのズレが大きくなっていきます。当然、噛み合わせもより悪くなります。
このようなあごのズレ、噛み合わせの悪さが体にさまざまな悪影響を及ぼします。筋肉が右側に引っ張られることで、頭部右側の筋肉に異常な緊張が起こります。これこそが、多くの不定愁訴を生み出すのです。
こうして起こる不定愁訴のうち、最も典型的なものは頭痛です。ほかにも、肩こり、腰痛、耳鳴りといった症状のほかに、不眠を引き起こします。「熟睡できない」「寝起きが悪い」「起床時に疲れを感じる」「夢をよく見る」といった症状です。
また、右側の歯がすり減って左側の歯が伸びると、噛み合わせが悪くなります。すると、正しい噛み合わせを求めて、無意識のうちに歯をすり合わせるようになります。これが歯ぎしりです。
私の歯科医院に来られた患者さんには、歯と関係のない不定愁訴についても確認しています。そのうえで、噛み合わせを調整したり、あごのズレを直すセルフケアを患者さんに実践してもらいます。すると、今まで悩まされてきた症状が、軽快していくケースがあるのです。
噛みグセを直すとさらに効果が上がる!
今回は、歯ぎしりがひどくて熟睡できないというかたに、「ベロ回し」をお勧めします(やり方は下図参照)。
まず、舌の先を上の前歯と上唇の裏の間に差し入れます。
次に、舌先で、唇と歯ぐきの間をなめていきます。右周りにぐるりと一周して、スタート地点まで戻りましょう。できるだけ、大きな円を描くようなイメージで行ってください。
この右回りを20回くり返します。同様に、左回りも20回行いましょう。これで1セットです。
1セットを行っても、せいぜい2~3分程度しかかからないはずです。このベロ回しは、寝る前に行うのがベストです。
ベロ回しのやり方

❶舌の先を上の前歯と上唇の裏の間に差し入れる

❷舌先で、唇と歯ぐきの間をなめていく。右周りにぐるりと1周して、①のスタート地点まで戻る。できるだけ、大きな円を描くようなイメージで行う。
※右回りを20回くり返し、同様に、左回りも20回行う。
※寝る前に行うのがベスト。

「両側同時咀嚼法」も行うとさらに効果的!
粒状のガムを2つ口の中に入れ、左右の奥歯でそれぞれ噛み、両方の奥歯でバランスよ<噛むようにする。
口内環境を整え口臭予防にも役立つ
ベロ回しは、私の知人である中国人医師の、蘇川博先生が考案したものです。舌をこのように大きく回すことによって、多くの筋肉が使われます。それは、舌を直接動かす筋肉ばかりではなく、口周辺の多くの筋肉も含まれます。ベロ回しをすれば、噛みグセによって、過緊張を起していた筋肉をほぐすことができるのです。
また、口の中で舌を大きく回すことによって、唾液の分泌を促します。ベロ回しは口内環境を整え、口臭予防にも役立つのです。
さらに、ベロ回しと併せて、噛みグセを直すトレーニング「両側同時咀嚼法」も行うと、さらに効果的です(下図参照)。
これは、粒状のガムを二つ口の中に入れ、左右の奥歯でそれぞれ噛み、両噛みの練習をするものです。力強く噛み締めず、両方の奥歯でバランスよく噛むようにしてください。
ベロ回しと、両側同時咀嚼法を行っていけば、不眠などの不定愁訴の予防・改善に役立てることができるでしょう。
なお、長年にわたって、こうした不定愁訴に悩まされてきたかたは、一度歯科医院で検診を受けて、噛み合わせの不具合が起こっていないかどうかチェックしてもらうことをお勧めします。