解説者のプロフィール

辨野義己(べんの・よしみ)
国立研究開発法人理化学研究所辨野特別研究室特別招聘研究員。農学博士。
1948年、大阪府生まれ。専門領域は腸内環境学、微生物分類学。DNA解析により腸内細菌を多数発見。腸内細菌と健康や病気との関係を45年にわたり研究し、文部科学大臣表彰・科学技術賞ほか数々の学会賞を受賞。著書に『大便革命 腐敗から発酵へ』(幻冬舎)などがある。
健康長寿地域の食卓は野菜や海藻、キノコが豊富
群馬県の南牧村、大分県の姫島、鹿児島県の徳之島、沖縄県の南大東島など、日本には90~100歳を超える超高齢者が元気に暮らす健康長寿地域があります。
こうした地域では、90歳を超えるおばあさんやおじいさんが、山道を元気に散歩したり、スイスイと自転車をこいだり、畑仕事に勤しんだりと、現役バリバリに暮らしている姿が珍しくありません。
私は、45年以上にわたり日本の健康長寿地域を訪れ、元気な高齢者たちの生活を観察してきました。そこから得た私の結論は、「長生きする人は食事が違う」ということです。
健康長寿地域の食卓には、次のような共通点がありました。
・畑でとれた多種の野菜やイモ
・ヒジキ、アオサなどの海藻
・キノコや山菜・豆類や雑穀
ひとことで言えば「食物繊維だらけの食事」が共通点でした。肉や魚は少なく、葉野菜や根菜、海藻やキノコといった、高繊維なものばかり食べていました。
腸内細菌学の専門家である私は、健康長寿地域の高齢者たちから大便を提供してもらい、彼らの食事と腸内細菌の関係を調べました。
ヒトの腸には1000種類以上、糞便1ℊあたり約1兆個以上の細菌が棲んでいます。総重量はひとり当たり1~1.5㎏。ひとつの臓器を形成するほど膨大な腸内細菌は、私たちの健康と深く結びついています。
普段から豊富な食物繊維をとっている長寿者の腸内細菌には共通点が見られました。平均よりもはるかに「長寿菌」が多かったのです。
長寿菌とは、長寿をもたらす腸内細菌の総称で、①ビフィズス菌 ②酪酸産生菌の2つをまとめて、私がつけた呼び名です。①のビフィズス菌は皆さん聞き覚えがあるでしょう。今、世界的に注目されているのが②の酪酸産生菌です。
実は、酪酸産生菌が作る「酪酸」に、脂肪の蓄積を抑えることや腸粘膜の正常化(腸内免疫のアップ)など、多くの健康効果があることが明らかになり始めています。
話を戻すと、たっぷりの食物繊維をとっている元気なお年寄りたちの腸内細菌では、ビフィズス菌や酪酸産生菌といった長寿菌が、全体の60%前後を占めていました。
南大東島の101歳のおじいさんに至っては、全体の80%が長寿菌というとんでもない数値でした。
南牧村の97歳のおばあさんからは、糞便1gあたり約100億個の酪酸産生菌が検出。通常は約10億個ですから圧倒的な数字です。
これらの結果から「長寿菌が40~60%を占めれば健康長寿は達成される」と私は結論づけました。

健康長寿者の腸内細菌の約60%が「長寿菌」だった
肥満やガンを抑える物質が増える
長寿菌の中でも注目の酪酸産生菌は、実は、食物繊維が大好物です。彼らは食物繊維を利用することで増え、酪酸を生み出しています。
そのため、野菜や海藻、キノコといった食物繊維をどっさり腸に送り込めば、おのずと酪酸産生菌が増えて、酪酸も増えるのです。健康長寿地域のお年寄りに長寿菌が多い理由は、食物繊維が多い食事のために、酪酸産生菌が豊富だからでしょう。
そして、酪酸産生菌が作り出す酪酸こそ、健康長寿のカギを握っていると言っても過言ではありません。
例えば酪酸には、次の機能があることがわかっています。
①便秘改善:酪酸が増えると腸管運動が活発になりお通じがよくなる
②肥満抑制:余ったエネルギー源が脂肪細胞に蓄積されるのを抑える
③ガン細胞の抑制:酪酸には大腸ガン細胞の増殖を抑える作用がある
④免疫機能の正常化:腸の粘膜を補修し免疫機能を正常化する
こんなにすばらしい機能があるなら、どんどん腸に酪酸を増やしたいものです。そのためには、健康長寿者のように食物繊維をたくさん食べ、酪酸産生菌を増やすことです。
また、食物繊維には血糖値の上昇をゆるやかにする作用があるので、糖尿病の予防も期待できます。

酪酸産生菌は、野菜やキノコといった食物繊維をエサにして、酪酸を作り出している。酪酸には、便秘改善や肥満抑制など多くの健康効果がある
日本人の腸内細菌を覚醒させる食物繊維
酪酸産生菌にも多くの種類があり、例えば、フィーカリバクテリウムという酪酸産生菌の代表選手は、大半の日本人の腸に存在します。
以前便秘症に悩む60名の女性の腸内細菌を調べたところ、全員から糞便1ℊあたり1億個以上のフィーカリバクテリウムが見つかりました。決して特別な菌ではないのです。
ただ、せっかく酪酸産生菌といういい菌を持っていても、力を生かし切れなければ宝の持ち腐れです。
酪酸産生菌の力を覚醒させるにはやはり、野菜や海藻に多く含まれる食物繊維をしっかりとることです。
厚生労働省によれば、18歳以上の食物繊維の摂取目安量は、1日あたり女性18ℊ、男性20ℊ。下項では、食物繊維がたっぷり取れるご飯とおかずのレシピを紹介しています。こちらを参考に、ぜひ食物繊維の多い食生活を過ごしてください。
「長寿菌」が激増する!食物繊維の作り置きご飯&おかずレシピ
【料理・スタイリング】古澤靖子【栄養価計算】金丸絵里加

この数字を目標に、いつもの献立に不足しがちな食物繊維のレシピを追加していきましょう。
もちろん、1食7ℊ以上、食物繊維を摂取してもかまいません。
昆布ご飯
海藻は全般的に食物繊維が豊富ですが、食物繊維をどっさりとるなら、昆布を干して細切りにした「きざみ昆布」がお勧めです(辨野)

ごはん茶碗1杯分あたり
食物繊維量…1.3g カロリー…222kcal 塩分…0.8g
【材料】
白米…2合、しょうゆ…大さじ1、きざみ昆布(乾燥)…大さじ4
【作り方】
といだ米としょうゆを炊飯釜に入れて、水を2合の目盛りまで入れ軽く混ぜ、きざみ昆布を散らして炊く
切り干し大根のみそ汁
切り干し大根は、100ℊあたり21ℊもの食物繊維を含みます。水で戻すとカサが増えるので、一度にこれだけの量を食べるのは大変ですが、手早く食物繊維を補える食品です(辨野)

1杯分あたり
食物繊維量…2.5g カロリー…73kcal 塩分…1.4g
【材料】
切り干し大根…大さじ2、タマネギ…1/8個、油揚げ…1/8枚、だし汁…200㏄、味噌…大さじ1/2
【作り方】
切り干し大根を少量の水でもみ洗いし、ざるにあげ、しんなりしたらざく切りに。タマネギと油揚げは一口大に切る。鍋にだし汁と、切り干し大根、タマネギ、油揚げを入れ、タマネギが柔らかくなるまで煮たら味噌を溶いて完成
キノコの常備菜

●冷蔵保存で3〜4日
キノコ類も食物繊維の代表選手です。シメジ、エノキ、シイタケ、マイタケなどには、ゆでたもので100ℊ中、3~7ℊの食物繊維が含まれています(辨野)

小鉢1杯分あたり
食物繊維量…4.6g カロリー…74kcal 塩分…1.0g
【材料】
シメジ・エノキ・エリンギなど…500g、しょうゆ…大さじ1半、みりん…大さじ1半、ゴマ油…大さじ1
【作り方】
食べやすく切ったキノコを、ゴマ油を引いたフライパンで強火で炒める。しんなりしたら、しょうゆ、みりんを加えてよく炒めて完成
根菜のピクルス

●冷蔵保存で3〜4日
食物繊維ときいてゴボウを思い浮かべるかたは多いのではないでしょうか。水溶性と不溶性の食物繊維、両方を豊富に含むゴボウは積極的にとりたい野菜です(辨野)

小鉢1杯分あたり
食物繊維量…1.8g 塩分…0.5g カロリー…36kcal
【材料】
ゴボウ…100g(1/2本)、ニンジン…50g(1/3本)、ショウガ…ひとかけら、塩…小さじ1/2、砂糖…大さじ2、お酢…大さじ5、水…大さじ5
【作り方】
切り干し大根を少量の水でもみ洗いし、ざるにあげ、しんなりしたらざく切りに。タマネギと油揚げは一口大に切る。鍋にだし汁と、切り干し大根、タマネギ、油揚げを入れ、タマネギが柔らかくなるまで煮たら味噌を溶いて完成
オクラのおひたし

●冷蔵保存で3〜4日
食物繊維だけでなく、免疫を高めるといわれる多糖類も含まれる優秀な食品です。ネバネバ成分が糖分やコレステロールの吸収を抑制します(辨野)

小鉢1杯分あたり
食物繊維量…2.5g 塩分…0.4g カロリー…34kcal
【材料】
オクラ…2パック、めんつゆ…大さじ4、水…大さじ4、油…少々
【作り方】
フライパンに油を引いて温めたらオクラを入れ、両面をこんがり焼く。フライパンをあまりゆすらないこと。めんつゆを入れた容器にオクラを漬けて完成
ブロッコリーのおひたし

●冷蔵保存で3〜4日
ブロッコリーは100ℊ(約1/2個)あたり、4.4ℊの食物繊維を含むだけでなく、ビタミンCも豊富で免疫力の強化に優秀な野菜です(辨野)

小鉢1杯分あたり
食物繊維量…2.8g 塩分…0.5g カロリー…26kcal
【材料】
ブロッコリー…1個、めんつゆ…大さじ4、水…大さじ4
【作り方】
ブロッコリーを小房に分ける。水100㏄(分量外)をフライパンに入れ沸騰させたらブロッコリーを入れ2~3分蒸す。ブロッコリーを取り出し粗熱が取れたら、めんつゆと水を入れた容器に漬けて完成
ポン酢ツナワカメ

●冷蔵保存で3〜4日
ワカメなど海藻類にある独特のぬめりの正体は、水溶性の食物繊維で、腸の老廃物を取り除き、便秘解消や大腸ガンの予防に役立ちます(辨野)

小鉢1杯分あたり
食物繊維量…1.2g 塩分…0.9g カロリー…72kcal
【材料】
乾燥ワカメ…10g、ツナ缶…1缶、ポン酢…大さじ1/1/2、ゴマ油…少々
【作り方】
乾燥ワカメを水で戻したら、水気をよく切りボウルへ。油を切ったツナをボウルに入れ、ポン酢とゴマ油を加えて混ぜたら完成
ペペロンインゲン

●冷蔵保存で3〜4日
サヤインゲンは100ℊ(中サイズ10本)あたり、2.4ℊの食物繊維を含みます。同じく食物繊維を豊富に含む炒りごまを和えてもいいでしょう(辨野)

小鉢1杯分あたり
食物繊維量…1.8g 塩分…0.3g カロリー…75kcal
【材料】
サヤインゲン…200g、にんにく…1片、オリーブ油…大さじ1半、塩…適量、一味…適量
【作り方】
にんにくはスライスし、インゲンは3分の1に切る。フライパンにオリーブ油、にんにく、インゲンを入れ、強めの中火でフタをして3分炒め焼く。フライパンはゆすらない。途中、インゲンに焦げ目がついたら軽く混ぜる。塩で味を整えて一味をかけて完成
冷やし芋

●冷蔵保存で3〜4日
サツマイモの腸内環境改善効果は、複数の研究でも明らかです。また、焼いたり蒸したりした後に冷やすと、でんぷん質が変化して、食物繊維のような働きをすることがわかっています(辨野)

サツマイモ1/2本あたり
食物繊維量…3.5g 塩分…0.1g カロリー…175kcal
【材料】
サツマイモ…好きなだけ、水…適量
【作り方】
皮付きのサツマイモを半分に切って炊飯器に入れる。サツマイモが隠れるくらいの量の水を入れスイッチオン。箸がスッと通るくらいになったら完成。ラップでくるみ粗熱が取れたら冷蔵庫で保存する
手軽に食物繊維をチョイ足しできるお勧め食材
■ご飯に足すなら納豆か海苔
大豆と海苔、どちらも食物繊維が豊富な食品です。納豆は、食物繊維と発酵食品の相乗効果で、腸内環境の改善を期待できます(辨野)

納豆1パックあたり
食物繊維量…2.7ℊ
味つけ海苔1食分(約5枚)あたり
食物繊維量…0.8ℊ
■果物を足すならキウイ
キウイの食物繊維量は果物の中ではトップクラスです(辨野)

1個あたり
食物繊維量…2.5ℊ
■ヨーグルトに足すならおからパウダー
おからは豆乳をこしたカスにもかかわらず、とても多くの食物繊維を含んでいます(辨野)

大さじ1杯あたり
食物繊維量…2.6ℊ