体の調整力を高めれば、めまいは軽減できる!
めまいは、西洋医学的には、天井がグルグル回る回転性めまい、体がふらつく浮動性めまい、立ちくらみを起こす起立性めまいなどに分類されます。
しかし、東洋医学ではそういう分け方はしていません。
めまいは、体の調整力が低下して起こる症状群の一つとしてとらえられています。ですから、体の調整力を高めれば、軽減できると考えられています。
では、体の調整力とはなんでしょうか。
その基本にあるのは、自律神経です。自律神経は、意志とは無関係に体の諸機能を調節している神経です。心身を活動状態にする交感神経と、休息状態にする副交感神経で成り立っており、この二つがバランスを取りながら働いています。
人間は強いストレスを受けると、ストレスに反応して交感神経が高まり、副交感神経が抑制されます。通常、ストレスがなくなれば、自律神経のバランスも元に戻ります。しかし、人によっては、交感神経が緊張したまま、戻らなくなってしまうことがあります。
すると、体の調整力や治癒力が低下して、めまいをはじめとする、さまざまな自律神経の失調症状が起こってくるのです。
そこで、自律神経のバランスを安定的に保つことが大事になります。そのとき、私が最もよく使うツボが、手首にある外関です。手首を反らせると、手首の甲側にシワができます。そのシワのほぼ真ん中から、指の横幅2本分ひじ寄りにあるのが外関です。
その外関を優しくさする「手首さすり」を行うと自律神経が整って、体の調整力や治癒力が高まるのです。
息を吐くときにだけ手首をさする
手首さすりをするとき、次の三つの条件がそろうと、その効果は最大限に発揮されます。
●軽い皮膚刺激
皮膚表面を優しくさする皮膚刺激は、副交感神経の働きを高めます。逆に筋肉を押すような強い刺激は、副交感神経の働きを制御してしまいます。
●息を吐きながらの刺激
副交感神経の働きは、息を吐いたときに高まり、吸ったときに抑制されます。
●座った姿勢での刺激
座った姿勢は、これから活動を始める「スタンバイ」の姿勢で、交感神経の働きを高めます。
自律神経のバランスを整えるとき、一般的には、抑制された副交感神経を高める刺激を行います。しかし、手首さすりでは、息を吐きながら皮膚刺激をすることで、副交感神経を相乗的に高めるとともに、座った姿勢で行うことで、交感神経の働きも高めます。
なぜかといえば、両方の神経が高まることによって、強い緊張度を持った自律神経をつくることができるからです。
自律神経は、交感神経と副交感神経がバラバラに働いているわけではありません。二つの神経は同時に高くなったり低くなったりしながら緊張関係を保ち、生命活動を営んでいます。
健康な人は、交感神経も副交感神経も高く、なおかつ両者が強い緊張度でバランスを保っています。ですから、強いストレスを受けても、揺らぐことのない安定感で、強い調節力を保てるのです。
では、手首さすりのやり方を紹介しましょう。
❶ 楽な姿勢で座り、反対側の手の人差し指、中指を外関に当てます。
❷ 息をゆっくり吐きながら、外関を軽くさすります。息を吸うときは、さするのをやめてください。これを20呼吸ほどの回数続けます。
「さあやるぞ」などと気負うと、効果は半減します。気楽に、リラックスした状態で行ってください。行う腕は、どちらか一方でかまいませんが、痛みやしびれなどのない側に行ってください。
手首さすりは、めまいだけでなく、不眠や耳鳴り、のぼせ、頭痛、食欲不振、手足のしびれなど、自律神経失調症に伴うあらゆる症状に効果が期待できます。
手首さすりのやり方

解説者のプロフィール

西條一止
1938年、新潟県生まれ。65年、東京教育大学教育学部理療科教員養成施設卒業。
71年、同大学同学部同学科教員養成施設助手。76年、筑波大学講師。77年、医学博士(東京大学)。86年、筑波大学教授。87年、筑波技術短期大学教授。学長。
2003年、同大学名誉教授。06年、日本伝統医療科学大学院大学長。
08年に退職。主な専攻分野は「自律神経機能からの鍼灸の科学化」。
自然鍼灸治療の権威として、多くの治療家を育てている。
●自然鍼灸学・自律神経臨床研究所
http://nishijokazushi.com/