解説者のプロフィール

齋藤真理子(さいとう・まりこ)
●山本メディカルセンター
神奈川県逗子市桜山3-16-1
046-872-0009
http://www.yamamedi-spa.com/
山本メディカルセンター院長。
昭和大学医学部卒。形成外科学会専門医。分子栄養学認定医。医学博士。2010年より山本メディカルセンターに勤務。形成外科と皮膚科を立ち上げ、副院長を経て、16年より現職。内科、人間ドック、訪問看護ステーション、皮膚科・形成外科外来、美容皮膚科・外科を統括している。
炭酸の有効性は古くから証明されている!
近年、炭酸水の美容健康効果がひときわ注目されています。しかし、私にとって炭酸は、目新しい物ではありません。
形成外科や皮膚科などの医療現場では、実際の治療に炭酸が大いに活用されています。例えば、寝たきりの患者さんに見られる褥瘡(床ずれ)や、血行不良による潰瘍、糖尿病による壊疽などに特に有効です。
炭酸が医療に用いられるようになったのは、日本では数十年前からですが、ヨーロッパではもっと古く、18世紀にさかのぼるといわれています。炭酸の有効性は、長い歴史のなかで、数多くのエビデンス(根拠)により証明されているのです。
私の専門は形成外科で、主にケガや病気などにより欠損した部位の、修復や再建手術を行います。炭酸を治療に取り入れ始めたのは、15年ほど前です。
例えば、糖尿病による壊疽のため、足先を切断せざるをえない患者さんがいたとします。その場合、手術に踏み切る前に、炭酸を活用する炭酸泉の足浴を家庭で行うよう指導します。
具体的には、お湯を張ったバケツに市販の炭酸入浴剤を入れて、1日2回、15分間ずつ、足をつけてもらうのです。
たったこれだけですが、血行がよくなり、壊死しかけた患部の血流障害が回復します。その結果、組織が盛り上がってきて皮膚が再生。多少の時間はかかりますが、こうした足浴を続けると、2ヵ月ほどで、足先を切断せずに残せるくらいまで改善する人もいます。
最近の症例では、92歳の男性の患者さんがいらっしゃいました。足首に慢性潰瘍があり、切断も検討していたのですが、炭酸泉による足浴を続けてもらったところ、潰瘍自体がどんどん縮小。最終的には、切断を免れました。
下記の足先の壊疽の写真は、また別の患者さんの例です。写真左は2014年2月時点。右は2017年9月時点です。
このかたには切断も考慮して大きな病院を紹介しましたが、ご本人の意向で、当院での治療を継続。炭酸泉による足浴を根気よく続けた結果、3年半ほどでここまで改善して、足を切断せずに済んだのです。
■褥瘡や潰瘍、壊疽の治療にも有効!

左:2014年2月。壊疽で切断の可能性もあった。
右:2017年9月。炭酸泉の足浴で切断を回避!
炭酸入浴剤を使った足浴や手浴で血流改善!
訪問診療で患者さんのお宅に伺うことがありますが、こうした際にも、私たちがビニール袋と炭酸入浴剤を持参し、患者さんに足浴をしてもらいます。
たった15分でも肌の色がよくなり、血流が改善したのがわかります。手に血流障害がある場合には、同様に、手浴をしてもらいます。
地道なようですが、炭酸水によるこのような足浴や手浴が、褥瘡や潰瘍、壊疽などの治療に大いに役立っているのです。
では、炭酸水によるこうした優れた治療効果は、どのような作用によるものでしょうか。
炭酸水は、炭酸、つまり二酸化炭素が水に溶けたものです。炭酸は、水に溶けると皮膚から吸収されやすくなります。
炭酸水につかると、その部位の毛穴から炭酸が浸透。体内で毛細血管に入り、血管内の酸素を細胞に送り出します。これを体が察知すると「酸素が足りていない」と勘違い。炭酸水につかっている部位に酸素を供給しようと、血液がドッと流れてきます。こうして血管が拡張され血流が改善するのです。
血液は心臓から末端へと送り込まれるため、血流がよくなるのは炭酸水につかっている部分に限りません。全身の細胞に、酸素や栄養が行き渡ります。一方で、不要な二酸化炭素や老廃物は排出されます。
その結果、皮膚の細胞分裂、つまりターンオーバーが活性化し、褥瘡や壊疽などで損傷した部位が修復されるのです。
実は私自身も、炭酸に救われた経験があり、その効果を実感しています。それについては、次項でお話ししましょう。
前後写真がテレビで大反響!炭酸パックで吹き出物がキレイに
私がこれまで、褥瘡や潰瘍、壊疽といった皮膚疾患の改善に炭酸を活用してきたのは、前項でお話ししたとおりです。
そして私自身、「炭酸オタク」を自認するほどの炭酸好き。入浴は炭酸風呂に炭酸シャワー、顔には炭酸パック、うがいには炭酸水、料理にも炭酸水を加えるほど、積極的に日常生活で炭酸を取り入れています。
炭酸の魅力に取りつかれたのは、10年ほど前です。きっかけは、自分の顔にできた吹き出物でした。
勤務医として5年ほど経験を積んでいた私は、皮膚の損傷に炭酸による治療が有効であることは、十分認識していました。しかしまさか、自分が炭酸のお世話になるとは、夢にも思っていなかったのです。
当時の私は、月に14回ほどの当直勤務をこなしていたため、生活リズムは不規則そのもの。ホルモンバランスも乱れ、多忙さゆえ食事に気を配ることもできず、手軽な加工品ばかりを口にしていました。
まさに、「医者の不養生」を地でいく生活が、影響したのでしょう。あるとき、吹き出物が現れたと思ったら、みるみるうちにほお全体に広がってしまったのです。化粧もままならず、隠すこともできないため、患者さんから「先生、大丈夫?」と心配されるほどでした。
もちろん、レーザーなどの光照射による治療や、薬物治療、ピーリング(角質を除去する施術)、ニキビや吹き出物用のスキンケア製品など、思いつく限りの方法を試しました。
効果が感じられないと、より強力な処方を求め、そのくり返しで、いつしか数ヵ月が経過。しかし肌の状態は、よくなるどころか、赤みが増すなど、悪くなる一方でした。あらゆる治療法に手を伸ばしたあまり、症状を逆に悪化させていたのです。
これに気づいた私は、それまで試した手段をすべてやめ、一つ一つの方法にしぼって試すことで、経過を観察しました。
そのなかで唯一、手ごたえを感じたのが炭酸パックです。試した翌日にほおの赤みが引き、状態が格段によくなりました。
そこで、スキンケアを1日1回の炭酸パックだけにしたところ、1ヵ月ほどで、吹き出物が改善。3ヵ月で、すっかり元どおりの肌に戻り、ようやく悪夢から解放されたのです。この体験は、NHKの情報番組『あさイチ』でも取り上げられ反響を呼びました。
■齋藤先生の吹き出物が炭酸パックで大改善!

思いつく限りの治療を試しても数ヵ月間治らなかった吹き出物が改善し、3ヵ月で元どおり
肌のくすみやシミ、シワたるみやむくみも改善!
炭酸水に期待できる効果
⃝血流の改善 ⃝血圧の降下 ⃝傷の修復 ⃝筋肉痛の緩和 ⃝たるみ・シミ・シワ・くすみの改善 ⃝アトピー性皮膚炎の改善 ⃝ニキビ・吹き出物の改善 ⃝皮脂分泌の正常化 ⃝疲労回復 ⃝冷えの改善 ⃝免疫力の向上
炭酸のパワーを身を持って実感した私は、それ以降、自信を持って、美容への活用を勧めています。
炭酸が有効なのは、褥瘡や潰瘍などの深刻な皮膚疾患に限りません。
吹き出物はもちろん、ニキビ肌やアトピー性皮膚炎、感染症による発疹の痕や、ヤケド痕の修復にも、効果を発揮します。
ほかにも、肌のくすみや目の下のクマ、シミ、シワ、たるみ、毛穴の開き、むくみなど、肌のトラブルや老化現象全般の改善が見込めます。
これだけ多様な効果が期待できるのは、炭酸が、「何か特定の症状に効く」のではなく、血流をよくして新陳代謝をアップするという作用により、本来その人が持つ自然治癒力を底上げしてくれるからです。
炭酸を日常生活に取り入れるに当たっては、さまざまな方法があります。ペットボトルの炭酸水を利用する、炭酸効果をうたう美容化粧品を購入する、などが手近でしょう。
私が使っている炭酸パックは医療用グレードの市販品ですが選ぶ際の基準となるのが、含まれている炭酸の濃度です。ppmと表記され、水に溶けている二酸化炭素の量を表します。
この炭酸濃度が高いほど、血流改善や新陳代謝促進への効果が望めます。ちなみに、医療機関で皮膚疾患の治療などに使われる、人工の高濃度炭酸泉の炭酸濃度は、約1000ppm。これくらいの濃度だと治療用として認められる、ということです。参考になさってください。
炭酸の血流改善や新陳代謝促進作用は、どの部位にも、効果を現します。当然、頭皮にも有効です。私の病院では、炭酸を使った頭皮ケアを美容皮膚科の治療として提供しています。毛髪が増えてきた、生えてきたというかたは、男女問わず多くいらっしゃいます。
また、炭酸水でうがいをするのも、お勧めです。1分ほど口に含むことで、口の中の汚れが浮いて取れやすくなります。口内の血行がよくなるので、歯肉炎なども改善に導かれます。唾液の分泌も促し、口内環境の浄化に役立つでしょう。
このように、炭酸の可能性は広がるばかりです。ぜひ皆さんも、毎日の生活に炭酸を取り入れてみてください。