解説者のプロフィール

難波宏彰(なんば・ひろあき)
神戸薬科大学名誉教授・鹿児島大学大学院医歯学総合研究科客員教授。1942年生まれ。京都大学農学部で「ウイルスの増殖抑制」を学ぶ。神戸女子薬科大学(現神戸薬科大学)でマイタケの研究を始め、免疫活性化物質「MDフラクション」の抽出に成功。この功績により1995年、米国代替がん治療学会特別賞を受賞。ライナス・ポーリンググランプリ賞を受賞。マイタケ研究の第一人者の評価を受けている。『体においしい煮出しまいたけ』(監修。サンマーク出版刊)など著書・監修書多数。
免疫を活性化するMDフラクション
私がマイタケの研究を始めたのは、マイタケの人工栽培が安定して行えるようになった1980年代の初め頃です。
それ以前から、キノコ類に含まれるβグルカンという成分が、がんの増殖を抑制するのではないかと注目されていました。しかし、それまで天然物しかなかったマイタケは、研究材料としては非常に使いにくい素材だったのです。
私たちの研究室では、動物実験で36種のキノコの抗腫瘍性を調べました。その結果、マイタケが、がん細胞の増殖を最も強力に抑える作用を持つことがわかったのです。
しかも、実験に用いたマウスのコレステロール値や血糖値まで下がることが判明しました。
マイタケの有効成分は、先にも述べたとおり、子実体(マイタケ本体)に含まれるβグルカンという多糖類です。βグルカンをさらに精製したところ、さまざまな物質が得られました。
それを順にA、B、C……と名付けて実験をくり返したところ、4番目に得られた物質に最も強い抗腫瘍性が認められたのです。そこで、この物質をマイタケ(M)のD小片、「MDフラクション」と命名しました。
このMDフラクションは、現在では、アメリカなどの医療現場で用いられています。一定期間患者さんに投与した臨床実験では、乳がん、肺がん、肝臓がんなどで、腫瘍が縮小する例が認められています。
そのほか、エイズや急性白血病の改善例も報告され、がん患者の化学療法薬の副作用を緩和させ、末期がんの痛みを取るといった効用があることもわかっています。
こうした効果は、MDフラクションに、私たちの体に備わっている免疫細胞を活性化させ、正常な細胞を守る働きがあるからだと考えられます。
生活習慣病を改善するMXフラクション
ところで、マウスを使った実験では、抗腫瘍効果とともに、糖尿病や高血圧などの生活習慣病が改善したり、体重が減少したりする結果が得られました。
これはどうしてなのだろうと思い、βグルカンの精製をさらに進めたところ、それまでの物質とはまったく別の物質を発見しました。これが「MXフラクション」で、今のところ、マイタケからしか発見されていない成分です。
このMXフラクションについて調べると、インスリンレセプター(受容体)の感受性を高め、肝臓における糖の合成を抑制する働きが確認できました。
インスリンは、血液中のブドウ糖を細胞内にエネルギーとして取り込む働きを持つホルモンです。しかし、こうした働きは、細胞内でレセプターがインスリンを受け入れる働きがしっかり機能していてこそ成立します。つまり、インスリンを受け取るレセプターの働きが悪いと、インスリンが大量に分泌されないと、血糖値が下がらなくなってしまうのです。
また、肝臓は、さまざまな物質を、体の各部位で吸収されやすいように代謝(合成)して形を変化させる働きがあります。MXフラクションは、代謝にかかわる酵素に働きかけ、肝臓での糖やコレステロールの合成を抑制する作用があったのです。
さらに、臓器や血液中の余分な脂質の分解を促進し、便と一緒に排出しやすくする作用もありました。
つまり、MXフラクションは、インスリンの効きをよくし、過剰な糖、中性脂肪、LDL(悪玉)コレステロールを減らすという、糖尿病や高血圧、脂質異常症、動脈硬化といった生活習慣病の改善に非常に役立つ成分なのです。
ほかにもマイタケには、代謝を助け肌や粘膜を保護するビタミンB群や、骨を強化するビタミンD、食物繊維も豊富に含まれています。
このようにぜひ積極的に食べていただきたいマイタケですが、実は食べ方にちょっとしたコツがあります。
実は、MDフラクションもMXフラクションも、「キチン」という成分でできた強固な細胞壁の中に入っています。残念ながら私たちの腸にはキチン分解酵素がありません。そのため、調理のさいに細胞壁をしっかり壊しておかないと、せっかくの成分を吸収することができず、便とともに排出されてしまいます。
十分にこれらの有効成分の効果を得たければ、マイタケと水を入れて30分以上時間をかけてコトコトと煮込むか、圧力鍋で10分以上加圧加熱を行いましょう。
そして、必ず煮汁と具の両方を食べてください。MDフラクションもMXフラクションも、水溶性の成分です。煮出したスープの中にこそたっぷりと溶け出しています。
ただし、MDフラクション、MXフラクションとも、すべての人に必ず同様の効果が得られるわけではありません。個人の免疫反応性や病態、進行度合によって効果の出方は異なり、無効の場合もあります。
補完療法の一つとして、主治医と相談しながら、活用されることをお勧めいたします。

圧力鍋で加圧加熱すると有効成分がよく出る