解説者のプロフィール

高橋洋子
1985年、東京女子医科大学卒業。86年、東京慈恵会医科大学眼科学講座に入局後、同助手、東急病院眼科医長、南青山アイクリニック勤務、米国ハーバード大留学、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター准教授、品川近視クリニック勤務などを経て、みたにアイクリニックを2011年に開設。医学博士。日本眼科学会認定専門医。
目を温めることの効果を多くの実験で確認
見たいものにピントを合わせる「目の調節力」は25歳を過ぎる頃からどんどん低下し、30代後半から近くが見えづらくなる老眼になってきます。
目の疲れや調節力の低下を改善するためにお勧めなのが、目の周囲を温める「温熱療法」です。私は、温熱療法の効果を多くの実験で確認しています。

実験では、老眼の症状を自覚し始める30代後半から50代の20名に参加してもらい、市販の使い捨てカイロを水蒸気が出るように改良したアイマスクで、目の周りを10分間温めてもらいました。そして、ただ目を閉じただけの場合との比較を行いました。
すると、目を温めることの効果が明らかに現れ、その効果は目を温めた直後はもちろん、90分後も持続していることがわかりました。
具体的には、50歳代(平均年齢54.2歳)のグループでは、平均で0.4D(ジオプター)の調節力改善が見られました。ジオプターは屈折力を表す単位で、焦点の合う距離をmで表したものの逆数です。
例えば、2.5Dから2.9Dへ0.4Dの改善をした人ならば、目から40cm離さないと焦点が合わなかった老眼の状態が、約34cmでピントが合うようになったということです。
30〜40歳代(平均年齢39.3歳)のグループでは、平均で0.5Dの改善がみられました。こちらも、例えば2.5Dから3.0Dに変化したケースで考えると、40cmの距離から約33cmまで近づけても、ピントが合った状態で見えるようになったことを意味します。
この実験で、0.5Dの調節力の改善が現れた人の割合は、30〜40歳代で約6割、50歳代でも約3割にのぼりました。
毎日就寝前に目を温めて目の調節力の低下を防止
目を一度温めただけでも、先の実験のような効果が期待できますが、温熱療法を毎日の習慣にすると、目の調節力の改善にいっそう効果的です。
40歳前後(平均年齢39.7歳)の10名に、毎晩寝る前にアイマスクで目を10分間温めてもらい、翌日の夕方4時に視力の調節力を測定する実験を行いました。その結果、開始後2週間目から夕方の調整力が改善し始め、その効果は8週間目まで継続しました。
つまり、毎日目を温めていれば、その効果は翌日まで持続して、夕方の目の疲れや視力の低下を防ぐことができるのです。こうした目の温熱療法を皆さんがご自宅で行うには、蒸しタオルを利用するといいでしょう。誰でも簡単に実践できます。
また、目の温熱療法は、眼精疲労やドライアイの改善にも有効です。温熱刺激によって副交感神経が優位になると、目の周囲もリラックスします。そのため、毛様体筋の血流が改善したり、〝緊張してこり固まった状態〟だった毛様体筋が働きやすくなったりします。
すると、近くが見えやすくなるなどの調節力の回復がなされたり、目の疲労感が取れたりするわけです。また、蒸しタオルなどで目を温めると、まぶたの中にある脂腺(マイボーム腺)から脂が分泌されやすくなります。この脂分が、眼球の表面で涙の上を覆うように膜を形成し、涙の蒸発を防ぐので、ドライアイが改善するわけです。
最後に、目の疲労感については、1つお伝えしたいことがあります。最近、メガネやコンタクトレンズの過矯正が原因で、目の疲れを訴える人が増えています。ひとことで言えば、「度が強すぎる」ということです。
過矯正は、強制的にピントを遠方に合わせた状態にしていることになります。ですから、日常生活でよく見る近距離をはっきり見るためには必要以上の調節力を要することになり、目の負担が大きくなります。
蒸しタオルの温熱療法とともに、メガネやコンタクトの度数のチェックも忘れないようにしましょう。
蒸しタオルを使った目の温め方

❶フェイスタオルを濡らして、軽く絞る

❷①を電子レンジで入れ、1〜2分温める。温めすぎによるヤケドには要注意

❸あおむけになって目を閉じ、②を目の上に乗せる。タオルが冷えてきたら再度温め、合計10分ほど、目の周りを温める