酵素を補給すれば体内の流れがスムーズに
今、手作りの「フルーツ酵素ジュース」が人気になっているようです。栄養価の高い旬の果実を白砂糖とともに発酵させ、できたシロップを少量ずつ水で薄めて飲むのが基本的な楽しみ方です。
このジュースを飲むメリットは2つ。1つめは、「酵素を補給できること」。2つめは、「発酵エキスを摂取できること」です。順に説明しましょう。
❶「酵素の補給」
消化力がアップ!
酵素は、さまざまな化学反応を促す物質です。体内の酵素は、食べ物を消化する「消化酵素」と、必要な物質やエネルギーをつくる「代謝酵素」に大別されます。
でんぷんを分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するプロテアーゼなど、消化酵素は比較的おなじみでしょう。同様に、代謝酵素にもさまざまな種類があります。例えば、細胞内でブドウ糖を分解してエネルギーをつくるのも酵素の働きです。
また、生の食べ物に含まれている「食物酵素」も、体内の酵素の働きを補ってくれます。例えば、ダイコンのジアスターゼはアミラーゼと同様の酵素、パパイアに含まれるパパインはプロテアーゼの仲間です。
体内では、多くの酵素がバトンを受け渡すように働き、必要な物質やエネルギーをつくっています。そこにさまざまな酵素を補うと、消化など、体内での物の流れがスムーズになることが期待されます。
また、栄養の偏りや疲労などで、特定の酵素が不足したとき、別の酵素が代わりをしてくれれば、再びバトンがつながり、流れがスムーズになります。
このように、酵素を補給して体内の反応をパワーアップしたり、不足をカバーしたりということが、酵素ジュースの第1のメリットです。

発酵エキスは善玉菌のエサになる
❷「発酵エキスの摂取」
腸内環境が改善
第2のメリットは、発酵によってできる有用成分が摂れることです。私自身は、「フルーツ酵素ジュース」の最大の特長は発酵にあると考えています。
ヨーグルト、味噌、お酒などの発酵食品は、素晴らしい自然の恵みです。発酵によってできる成分は何千種類にも上ります。未知の有用成分も多数あります。フルーツ酵素ジュースは、さまざまな果実や野菜を使うので、発酵から得られる有用成分も極めて多彩だと考えられます。
フルーツ酵素ジュースを毎日飲んでいると、食事だけからは摂れない、発酵エキスの有用成分を体に取り入れることになります。また、発酵エキスが腸に届いて善玉菌のエサになり、腸内環境を改善する働きもしていると考えられます。
フルーツ酵素ジュース作りを指導している睦美先生の教室の生徒さんは、便秘がちだったケースが多く、そのほとんどの人が、このジュースを飲んで便通がよくなったということです。
私は、睦美先生の生徒さんたち約20人に協力していただき、血液検査を行って、このジュースの「効果判定テスト」を実施しました。フルーツ酵素ジュースを飲む前と、飲み始めてから3〜4カ月後の血液を調べたところ、血中脂質の値や肝機能値などに問題があった人のほとんどが、検査値が改善していました。
テストに協力いただいた皆さんの血清は、将来の研究のために冷凍保存してあります。これは、発酵でできた体によい成分が、腸から吸収され、血液中に入ってきているのではないかと推測しているからです。
どんな成分が働いているのか、今のところはわかりませんが、発酵によってできるアミノ酸や糖などが、細胞の働きを活発にするような、無視しえない働きをしているはずだと感じています。
実際に口に入る砂糖の量は多くない
フルーツ酵素ジュース作りには、白砂糖を大量に使います。そのために「血糖値が上がるのでは?」と心配する人も実際にいらっしゃいます。
しかし、砂糖が分解されてできるブドウ糖は、発酵の過程でエネルギーとして使われ、違う物質になっています。ブドウ糖としてこのジュースの中に残っている量はごくわずかです。1杯のジュースに、そんなに多くの量が入るわけではないので、心配ありません。
むしろ、発酵をスムーズにさせるためには、発酵にかかわる菌が取り込みやすいブドウ糖をたっぷり与えるほうがよいのです。このジュースに白砂糖を使うのはそのためです。
なお、発酵のしかたによってはアルコールができ、お酒に弱い人は酔う可能性があります。そのような人は、ジュースをあまり長期間、保管しないほうがよいでしょう。
また、腸内の細菌のパターンが変わる際に、一時的におなかがゆるくなる人もいるかもしれません。それは、体がいったん腸の状態をリセットして、あらためて善玉菌優位の環境を作り直そうとするためです。私自身は、まだそういう訴えを聞いたことはありませんが、体質に合うかどうか、1週間ぐらい様子を見て判断してもよいと思います。
解説者のプロフィール

白川太郎
1983年、京都大学医学部卒業。
大阪大学医学部で予防医学を研究し、95年に医学博士号を取得。91年より英国留学、95年、オックスフォード大学医学部呼吸器科講師、99年、ウェールズ大学医学部大学院実験医学部門助教授などを歴任。
2000年より京都大学大学院医学研究科教授を務めた後、06年に臨床現場に復帰。
08年、長崎県諫早市にユニバーサルクリニック、13年、東京銀座に東京中央メディカルクリニックを開設。