解説者のプロフィール

西村弘行(にしむら・ひろゆき)
1945年横浜市生まれ。北翔大学・北翔大学短期大学部学長。東海大学名誉教授。農学博士。名古屋大学大学院農学研究科修士課程修了。北海道大学助教授、北海道東海大学教授・学長を歴任し、現職。40年以上にわたりタマネギや行者ニンニクの機能性を研究。著書に『北の健康野菜』(北海道新聞社)など多数。タマネギのことなら何でもご存じの、タマネギ博士として有名。
血液がサラサラ、悪玉コレステロールも抑制
「タマネギで血液がサラサラになる」という話を、聞いたことがある人は多いでしょう。
私は、これまで40年以上、タマネギをはじめとする、ネギ属の機能性成分(栄養以外のなんらかの生理作用を持つ成分)を研究してきました。そこでタマネギには、確かに血液をサラサラにする働きがあるということが明らかになったのです。
その働きの秘密こそ、タマネギに豊富に含まれる、含硫アミノ酸(硫黄を含む化合物)や、調理・加工によって生じる含硫化合物。
これらの成分は、タマネギの可食部(白い部分)に多く含まれます。
さて、タマネギというと、独特のにおいや辛味、切ったときに目に染みる、といったことを思い浮かべるでしょう。しかし、切る前のタマネギには、こうした刺激はありません。
こうした変化は、調理の段階で、タマネギの白い部分に含まれる含硫アミノ酸と、アリナーゼという酵素が化学変化を起こすことで生じます。
例えば、タマネギを切ると、細胞内の含硫アミノ酸とアリナーゼが化学変化を起こし、辛味成分であるチオスルフィネートに変化します。
さらに、それを加熱したり、室温で放置したりすると、におい成分である脂溶性含硫化合物のトルスルフィドやセパエン類へと変化します。
これらの成分は、血小板(血液を固めて出血を止める働きをする血液成分)の凝縮を抑制する働きがあるのです。
さらに、悪玉(LDL)コレステロールの酸化を強力に抑制する作用もあり、動脈硬化が原因の脳梗塞や心筋梗塞(脳や心臓の血管が詰まって起こる病気)の予防にも役立ちます。
また、私が行った臨床試験では、血流改善効果や血圧上昇の抑制作用も確認できました。また、マウスでの実験では、記憶障害の改善効果も認められたのです。
以上のことから、タマネギには、血栓(血液の塊)の形成や動脈硬化を防ぐ、つまり、血液をサラサラにする効果があるといえるのです。
さらに見逃せないのが、タマネギには、ケルセチン類というフラボノイド(植物に含まれるポリフェノールの一種)が豊富に含まれることでしょう。
ケルセチンは、タマネギの皮の色素の元になっており、過食部にはケルセチン配糖体という形で多く含まれます。このケルセチン及び、その配合体には、優れた抗酸化作用があることがわかっています。
さらに、前述した含硫化合物も、抗酸化作用を持つことが判明しているのです。つまり、老化や病気の原因となる活性酸素を除去し、さまざまな健康効果が期待できるでしょう。
切った後は室温で放置するのがコツ
さて、このように有効成分が豊富なタマネギですが、その力を十分に引き出すには、調理のさいにコツがあります。
それは、切ったタマネギを、室温で30分~1時間ほど放置することです(時間がないときは、タマネギを切った後、電子レンジで15秒ほど加熱)。
こうすることで、アリナーゼが働き、先に上げたような含硫化合物が増えます。切った後、すぐに調理すると、酵素反応が十分ではないため、含硫化合物が生成されにくくなってしまうのです。
また、生で食べるときは、水にさらさないようにしましょう。水にさらすことで、含硫化合物やケルセチンが流れ出てしまうからです。水にさらしたオニオンスライスは、おいしいかもしれませんが、健康効果を考えると有効成分がほとんど残っていません。
また、加熱調理するときは、酵素を壊さないように、ゆっくりと加熱しましょう。
さて、私がお勧めしたい調理法が、「酢タマネギ」です。私自身、もう10年以上、毎日欠かさず食べています。理想は、大さじ3~5を毎日食べることです。そのまま食べても構いませんし、サラダなど、ほかの料理に加えて食べてもよいでしょう。
タマネギには、ケルセチン類や含硫アミノ酸だけでなく、整腸作用のある食物繊維やオリゴ糖も含まれています。
さらに、脂肪の燃焼を促したり、血糖値や中性脂肪値を低下させたりする成分も豊富です。
タマネギを酢に漬けることで、これらの有効成分が酢に溶け出し、体内に吸収されやすくなります。また、ご存じのように、酢自体にも、高血圧の改善や疲労回復効果など、優れた健康効果があるのです。
酢は、穀物酢でも米酢でも黒酢でも構いません。重要なのは、継続して食べることです。ぜひ、酢タマネギを毎日の習慣にしてください。

サラダなどほかの料理に加えても◎!