【最新リハビリ】脳の機能が回復する「手の指体操」は認知症の予防にも効果

【最新リハビリ】脳の機能が回復する「手の指体操」は認知症の予防にも効果

脳を効率よく活性化させるには、指先をよく使う精密把握と、手のひらで握る強制把握の両方を鍛える必要があります。特に重要なのが精密把握で、認知症や脳機能障害のリハビリで改善を期待するには、とりわけ重要になります。【解説】久保田競(京都大学名誉教授)


ヒトは手を使うことで脳が発達してきた

 人間を含めてサルやチンパンジーなどの霊長類は、手でものをつかめます。しかし、霊長類の中で人間を際立たせているのは、ものをつかむだけでなく、手の指を使って精巧な道具を作ったり、自分の意志を他の人に伝えたりできることです。

 これが人間の脳で最もたいせつな「前頭連合野」の働きと重なっていることが研究でわかってきました。つまり、人は手を使うこと、特に指を使うことで前頭連合野を鍛えることができるのです。その意味で「指は第2の脳」と言えるでしょう。

 前頭連合野は大脳の前側で、私たちの思考・意欲・情動などを実際の行動に変換する場所です。例えば、手を使って何かをする場合、前頭連合野から脳の中央に位置する「運動野」に指令が届き、そこが手の関節や筋肉を動かして、はじめてその行動ができます。

 こうした行動のための記憶を「ワーキングメモリー」といい、前頭連合野の重要な働きの1つとなっています。今現在のことを覚えておく能力で「短期記憶」ともいわれます。

 サルで30秒、チンパンジーでも3分しかワーキングメモリーが保持できません。人間だけが数日、ときにはそれ以上、ワーキングメモリーを保つことができます。人間が「未来」という概念を持ち、手を使って物事を計画的に遂行できるのは、この能力があるからです。

 中でも、ワーキングメモリーの要となる部位が、前頭連合野の前の部分にある「10野」です。この10野こそ、人間の脳でだけ肥大化が著しい部位です。つまり、ここに人間の頭のよさの根源があると言えるでしょう。知能の高いチンパンジーですら、10野はほとんどないくらい小さなものです。

指先を使わないと脳は活性化しない

 人間の脳は手を使うことによって進化してきました。手をよく使えば、手からの信号が多くなり、それを受け取る脳の領域が発達し、脳の神経細胞の連絡網であるシナプスが増えたり、強靭になったりします。そうしたことを繰り返すことによって、著しく発達してきたのが10野だと考えられます。

 ただし、脳の活性化にはコツがあります。手の握り方には、指先で小さなものをつまむ精密把握(プレシジョングリップ)
と、手のひらで重いものや硬いものを握る強制把握(パワーグリップ)の2種類があります。このうち、ワーキングメモリーがよく使われるのは、指先をよく使う精密把握なのです。

 前頭連合野が「手を動かせ」という指令を発すると、古くから知られている脳の中央部にある運動野が働くと記しました。ところが最近、脳の中央にある中心溝の奥深くに、新しい運動野が発見されました。しかも、強制把握は古い運動野、精密把握は新しい運動野が担当していることがわかってきました。

 脳を効率よく活性化させるには、指先をよく使う精密把握と、手のひらで握る強制把握の両方を鍛える必要があります。
 特に重要なのが精密把握で、認知症や脳機能障害のリハビリで改善を期待するには、とりわけ重要になります。

脳を活性化させる「指の握り方」

脳に障害を受けた患者がリハビリで回復

 以前、リハビリ療法で有名な大阪の病院で患者を診察・治療する機会がありました。そして今説明したことを治療に応用したところ、リハビリに大きな進展が見られたのです。

 交通事故で頭を打った高校生がいました。普通に話ができますし、見た目は健常者と同じですが、朝起こそうとしても起きないし、よく聞くと話す内容は支離滅裂。じっと座ることができず暴れるので、高校にも通えなくなっていました。「こんなに脳が壊れていたら、もう治せない」と多くの医師がさじを投げたために、私が診ることになりました。

 彼は、交通事故で脳の10野の付近が機能しなくなっていたのです。そこで作業療法の1つとして指先を使う精密把握などのリハビリを繰り返させたところ、徐々に回復し、高校も、大学も無事に卒業できました。

 これは人ごとではありません。中高年になると日常生活で指先を使う精密把握の機会が少なくなり、油断していると脳の老化が進みやすくなると考えていいでしょう。ぜひ、いつでもどこでも簡単にできる「手の指体操」で脳を鍛えてください。

解説者のプロフィール

くぼた きそう
1932年生まれ。57年東京大学医学部卒業、同大学院に進み、脳神経生理学を学ぶ。その後、米国留学を経て、京都大学霊長類研究所教授、所長を歴任。世界で最も権威がある脳学会「米国神経科学会」で行った研究発表は、100点以上と日本人としては圧倒的に多く、現代日本における「脳科学」の最高権威である。著書は『手と脳』(紀伊國屋書店)など多数。

脳を活性化する食品 クルミで記憶力が改善

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

この健康情報のエディター

関連するキーワード


リハビリ 認知症

関連する投稿


40代で始まっている!?認知症を起こす「脳の糖尿病」チェックリストと対策

40代で始まっている!?認知症を起こす「脳の糖尿病」チェックリストと対策

認知症というと高齢者の病気、と考える人も多いでしょう。近年、認知症は「脳の糖尿病」で生活習慣の改善で予防できることがわかりました。認知症は20~30代の頃の生活習慣、特に食習慣の結果でもあります。ですから早めに対処することが認知症予防には欠かせません。【解説】熊谷賴佳(脳神経外科専門医・認知症サポート医・京浜病院院長)


朝イチで飲む抹茶レモンで脳が活性化!記憶力が改善する効果

朝イチで飲む抹茶レモンで脳が活性化!記憶力が改善する効果

抹茶に含まれるカテキンなどのポリフェノールは、抗酸化力の強い物質であることがわかっています。さらに、レモンの皮に含まれる「ノビレチン」というポリフェノールには、認知症の原因の1つとされている、アミロイドβという物質の脳への沈着を減らす働きがあるという研究結果が出ているのです。【解説】丁宗鐵(医学博士・日本薬科大学学長)


【集中力がアップ】片側の鼻で呼吸するとイライラが消え記憶力が向上する!

【集中力がアップ】片側の鼻で呼吸するとイライラが消え記憶力が向上する!

片鼻呼吸法とは、文字どおり、片側の鼻だけで呼吸する方法で、ヨガなどでもよく行われています。片鼻呼吸法を毎日行うことで、記憶力を向上させ、ボケを防いで、さらにさまざまな健康効果を得ることを期待できるのです。【解説】高田明和(浜松医科大学名誉教授)


脳を鍛える【足の使い方】脳の専門家おすすめは「足指の小指刺激」

脳を鍛える【足の使い方】脳の専門家おすすめは「足指の小指刺激」

ほとんどの人は、両足10本の指のうちに何本か、意識があまり通じていない指があるはずです。足には多くの筋肉があり、5本の指それぞれで、使う筋肉も異なります。指1本1本を動かしたり刺激したりすれば、それだけで、脳に多彩な刺激が行き渡り、脳が喜びます。【解説】加藤俊徳(加藤プラチナクリニック院長・「脳の学校」代表)


認知症や脳卒中の予防に期待 シソ酢に含まれる「ロスマリン酸」の効果

認知症や脳卒中の予防に期待 シソ酢に含まれる「ロスマリン酸」の効果

近年、青ジソや赤ジソに含まれる「ロスマリン酸」に注目が集まっています。ロスマリン酸は、認知症を引き起こす脳へのたんぱく質の凝集を防ぐと期待されています。脳の酸化を抑えることは、脳の病気を予防することに直結するといってもいいでしょう。【解説】阿部康二(岡山大学医学部脳神経内科学教授)


最新の投稿


自律神経が整うと睡眠の質がよくなった!頭皮セラピーのリラックス効果

自律神経が整うと睡眠の質がよくなった!頭皮セラピーのリラックス効果

私の場合、いろいろなプログラムを受けた後、交感神経の数値は下がっても、副交感神経にはほとんど変化がありません。施術直後でこの状態なのですから、普段はもっと緊張しているのだと思います。施術を受けた後、あくびが何度も出たのは、交感神経の緊張が取れ、リラックスした証拠だと思います。【体験談】西野博子(仮名・主婦・53歳)


起床時の「キーン」という耳鳴りが「昆布水」で改善し、高かった血圧も落ち着いた!

起床時の「キーン」という耳鳴りが「昆布水」で改善し、高かった血圧も落ち着いた!

病院での検査の結果、メニエール病と診断され、難聴になっていることもわかりました。めまいは、処方してもらった薬を飲んだら、なんとか治まりました。耳鳴りはその後も続きました。いちばん気になるのは、朝起きたときです。いつも耳の中で、キーンという音がしていました。【体験談】岩佐優(料理店経営・66歳)


【脳の疲労を解消するコツ】睡眠時間は長すぎもNG!寝る姿勢はあおむけ?うつぶせ?

【脳の疲労を解消するコツ】睡眠時間は長すぎもNG!寝る姿勢はあおむけ?うつぶせ?

あまりに寝過ぎると、レム睡眠が急激に増え、ノンレム睡眠がほとんど起こらなくなります。睡眠中は、十分な酸素供給が行われないため、脳は酸素不足の状態です。そんな状態のところに、脳が活発に働くレム催眠が増えると、脳は疲労回復どころか、かえって疲労してしまいます。【解説】保坂隆(保坂サイコオンコロジー・クリニック院長)


夜間頻尿改善のために食べた「干しブドウ酢」トイレの回数が減って効果を実感

夜間頻尿改善のために食べた「干しブドウ酢」トイレの回数が減って効果を実感

効果はすぐに実感しました。食べ始めて2~3日で、夜のトイレの回数が2回に、1~2週間で1回に減ったのです。この変化には、自分でも驚きました。私は、毎朝職場で重機をチェックし、点検表をつけています。今は、老眼鏡を使うのは薄暗い曇りの日だけで、晴れた日は老眼鏡を使っていません。【体験談】佐藤徳雄(重機オペレーター・71歳)


歪んだ体を正す「正座あおむけ」でひざ痛が軽減!過剰な食欲も正常に

歪んだ体を正す「正座あおむけ」でひざ痛が軽減!過剰な食欲も正常に

15秒ですらきつかった姿勢の維持も、1分以上維持できるようになりました。徐々に、しかし確実に、体は変わっていきました。腰痛はすっかり消え、右ひざの痛みもいつの間にか消えていたのです。おなかの冷えからくる腰痛もなくなりました。【体験談】朝倉啓貴(派遣インストラクター・49歳)