解説者のプロフィール

板倉弘重(いたくら・ひろしげ)
●品川イーストワンメディカルクリニック
東京都港区港南2丁目16-1 品川イーストワンタワー3階
03-6718-2898
品川イーストワンメディカルクリニック理事長・医師。医学博士。
1961年、東京大学医学部卒。同 第三内科講師、国立健康・栄養研究所臨床栄養部長、茨城キリスト教大学生活科学部食物健康科学科教授などを歴任。主な研究分野は、脂質代謝、動脈硬化、抗酸化物質。特に、赤ワイン、ココアのポリフェノールの抗酸化作用を明らかにした研究が有名。『あなたの血糖値はなぜ下がらないのか』(PHP出版)など著書も多い。
我慢するくらいなら少し飲んだほうがマシ
糖尿病になると、医師からは決まり文句として、「お酒はやめてください」といわれるはずです。とはいえ、お酒が大好きだった人にとって、長年続けてきた習慣をきっぱりとやめるのは、簡単なことではないでしょう。
また好きなものを我慢するということは、大きなストレスになります。
私たちの内臓の働きなどを、無意識のうちに調整している自律神経は、交感神経と副交感神経の二つがアクセルとブレーキのように拮抗して働いています。
ストレスは、この交感神経を緊張させ、ストレスホルモンを分泌させます。このホルモンが出ると、血糖値を高める結果となります。そこで私は、「好きなお酒を我慢するくらいなら、少し飲んだほうがマシです」と、アドバイスするようにしています。
ただし、これまでどおりに、好きなだけ飲んでいいわけではありません。お酒の飲み方が重要になってきます。
そこで、糖尿病の人がお酒を飲んでも、血糖値が上がりにくい、お酒とのつきあい方をお教えしましょう。
まず、どんなお酒を飲むかということです。
糖分が血糖値を上げるのですから、日本酒やビールなど糖質を含むお酒は、なるべくなら避けてください。そのかわり、焼酎、ウイスキー、ブランデーなど、糖質の入っていないお酒なら、飲んでもいいでしょう。
ちなみに、糖質を含むお酒の仲間でも、適量であれば赤ワインは大丈夫です。老化や病気の元凶物質といわれる活性酸素の働きを、赤ワインに含まれるポリフェノールがおさえ、血液をサラサラにしてくれるといわれます。
実際、フランスで行われた研究では、赤ワインをよく飲んでいる地域では、心臓病やアルツハイマー病が少ないというデータが出ました。
また、ウォッカと赤ワインの抗酸化作用を比較した実験もあります。飲んでから1時間後の血流を調べたところ、ウォッカは血流が悪くなり、赤ワインは血管が拡がって血流がよくなったのです。
これは、ポリフェノールが入っているか入っていないかによる顕著な違いでしょう。
もう一つの実験では、赤ワイン500mLを2週間飲み続けたのち、血液中の超悪玉コレステロール(酸化LDL)の量を調べました。すると、酸化LDLの量がへっていて、これもポリフェノールによる抗酸化作用のおかげだと考えられるのです。
このように健康効果が認められている赤ワインですから、健常な人であれば、ワイングラスに2〜3杯、糖尿病の人なら1杯くらいを常飲するのは、望ましいということになります。
実際に赤ワインを1杯飲む人は、糖尿病の発症率が4割低いというデータもあるぐらいです。
つまみは豚肉やチーズがおススメ
ところで、焼酎やウイスキーを好む人もいるでしょう。
これらのお酒は糖分が入っていないとはいえ、アルコール度数には気をつけないといけません。アルコール度数が高いと、アルコールを肝臓で分解するときに、活性酸素が発生して、血管の壁を傷つけるからです。
また、肝臓の機能が衰えると、糖分の代謝が悪くなるので要注意です。度数の高いお酒を飲むときには、必ず水やお湯で割って、飲むようにしてください。
大切なことは、どんなお酒であっても、適量を守ることです。どれくらいが適量かは難しいところですが、コップ1杯くらいの量であれば問題はないでしょう。糖分の入っている日本酒でも、1合以内なら許容範囲です。
それから、ぜひとも行っていただきたいのが、休肝日を作ることです。
糖尿病予備軍の人なら週に1〜2日。3日飲んで1日休むパターンを守っていただきたいところです。すでに糖尿病と診断されている人は、週に2〜3日は休肝日を作りましょう。可能であれば、2日続けて休む日を作れば効果が上がります。
ちなみに、お酒は、精神的な満足感を得るために飲むものです。ですから、ヤケ酒は絶対にやめてください。憂さ晴らしに飲むお酒は、精神的に逆効果です。それに、悪いお酒はつい飲みすぎてしまうので、病状改善の妨げになります。

もう一つ注意したいのは、空腹での飲酒は避けるということです。必ず、先に何かつまみを食べてから、飲むようにしてください。空腹で飲むと、肝臓に過大な負担をかけてしまいます。
つまみには、肝臓の保護に有用な、ビタミンやミネラルを摂取できるものがいいでしょう。特に、ビタミンB1はアルコールの分解に必要ですから、ビタミンB1が多く含まれる豚肉などは、つまみとして好適です。また、チーズなどの発酵食品もいいでしょう。
さて、飲酒直後に眠るとアルコールの分解が阻害されたり、睡眠が浅くなったりしがちです。飲酒は、就寝の2〜3時間前までにしてください。飲酒後の締めのラーメンは、血糖値を上げるので注意してください。
糖尿病の人は、健康な人よりも注意深くお酒とつきあって、楽しみましょう。