食物繊維の摂取がへり腸内細菌が激減!
近年、日本人のウンコが、驚くほど小さくなっています。戦前の日本人は、1日約400gを排便していましたが、戦後は徐々に量がへり、現在では、150〜200g程度しかないのです。
ウンコの内訳は、水分を除けば、約半分が腸壁の細胞と、食べ物の残りカス、そして、残りの約半分が死んだ腸内細菌と、生きた腸内細菌です。つまり、大きいウンコには腸内細菌も多いのです。
ウンコが小さくなった原因は、腸内細菌のえさになる食物繊維の摂取量が激減したことです。1950年の日本人の食物繊維の1日当たりの摂取量は27gでしたが、今は12gと半分以下になっています。
こうして、私たちの腸内細菌が激減しているわけです。これが、私たちの体にどう影響するのでしょうか。
腸内細菌は、私たちの健康を保つうえで、非常に大切な働きをしています。病原菌を排除し、消化を助け、ビタミンBやCなどを合成するのです。
人が幸せを感じるとき、脳内にはドーパミンやセロトニンといった「幸せ物質」が分泌されます。その前駆物質はまず腸で作られます。それを脳に送っているのも、腸内細菌です。
また、人が病気にならないために、体内では免疫(病気から身を守るシステム)が常に機能しています。その免疫の働きの約70%を、腸内細菌が築いています。腸内細菌のバランスが乱れて、腸の調子が悪くなれば、免疫がうまく働かなくなります。
このシステムが低下すると、カゼやインフルエンザにかかりやすくなるだけでなく、ガンや生活習慣病など、さまざまな病気を招いてしまいます。
戦後以降にやってきたことの逆を行え!
現代では、うつになる人がふえています。昔はほとんどなかったうつがこれほどにふえてしまったのは、日本人の腸内細菌がへってきたことが主な原因と私は考えています。食物繊維の摂取量の激減に反比例するように、うつの患者は激増してきたのです(下のグラフ参照)。
うつは、脳内の幸せ物質の一つであるセロトニンの量が少なくなると、発症することがわかっています。腸内細菌は、脳内の幸せ物質となる前駆物質を合成していますから、腸内細菌の不足が、まさに直接、脳に影響を及ぼしています。私たちが幸せで元気に暮らすためには、腸が健康でなくてはなりません。
また、50年前には、日本にアレルギー性疾患はほとんどありませんでした。日本人のスギ花粉症第一例は、1963年、日光市で見つかりました。
ぜんそく、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患が日本人に出現するようになったのは、1965年ごろからです。その後、アレルギー体質の日本人は1970年代に生まれた人に急増し、現在では三人に一人がアレルギー症状を持っています。ことに子供に多く、特に都市部では、アレルギー症状を示す子供の割合が、二人に一人といいます。
こうしたアレルギー増加の背景に、現代社会の清潔志向があると私は考えています。現代社会が、私たちの体を守っている皮膚常在菌や腸内細菌などの微生物を「キタナイもの」として排除してきたことが、結果としてアレルギーが多発する状況を招き寄せてしまったのです。
アレルギーに悩む人の腸では、腸内細菌がへり、腸内環境が悪化していることはいうまでもありません。

では、こうした状況を変え、私たちがかつての健康な腸を取り戻すためには、どうしたらよいでしょうか。
わかりやすくいえば、再び、大きなウンコができるようになることを目指してください。そのためには、戦後以降、私たちがやってきたことの逆を行うことが大原則となります。
まず、野菜や海藻類、豆類、果物類をしっかりとって、腸内細菌のえさとなる食物繊維の摂取量をふやします。極端な清潔志向をやめて、落ちた物も拾って食べる心意気も肝心です。
こうして腸内環境がアップすれば、NK細胞を代表とする免疫細胞も活性化しますから、ガン予防にも役立つでしょう。腸内環境が整えば、老化や生活習慣病の原因物質である活性酸素を消す力も高まりますから、生活習慣病の予防・改善になります。
理想のウンコは、「バナナ1〜2本分」「黄褐色」「においが少ない」「練り歯磨きの硬さ」「スパッと切れがよい」ものです。日々、こうした理想のでっかいウンコを出すことを目指してください。
解説者のプロフィール

藤田紘一郎先生
1939年、旧満州ハルビン生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学医学系大学院博士課程修了。医学博士。金沢医科大学教授、長崎大学教授、東京医科歯科大学大学院教授を経て現職。
免疫や腸内細菌、伝染病の研究の第一人者。
著書に『50歳からは肉を食べ始めなさい』(フォレスト出版)など多数。