日和見菌を善玉化させることが重要
私たちの健康を守るうえで非常に重要な役割をしている腸内細菌叢とは、どのようにして形作られるのでしょうか。
赤ちゃんは、お母さんの胎内にいるときは無菌状態で、腸内細菌もいません。
しかし、産道を通って生まれるとき、お母さんの体についている膣液や排泄物などに含まれる、さまざまな細菌類を体に取り込みます。
生まれたのちには、赤ちゃんは手にふれるものをなんでも舐めたがります。舐めることで、菌を次々取り込んでいるのです。
これは、バランスのとれた腸内細菌叢を作り上げるために必要な行動です。まず、これらの菌がふえて、それを土台に、母乳から摂取した善玉菌が繁殖していきます。
ですから、赤ちゃんのふれるものをみんな消毒してしまうと、赤ちゃんが菌を取り込めず、貧弱な腸内細菌叢しか作れない恐れがあります。
すると、免疫力も弱くなり、アレルギー疾患などを起こしやすくなります。こうして現代の清潔志向の社会が、免疫力の弱い人間を作りだしてしまうのです。
生後1年間で、どれだけ多種多様な細菌を取り込んだかで、その人が一生にわたって持ち続ける腸内細菌叢の基本的な組成が決まります。その組成は一人ひとりで違いますから、この生後1年がとても大事なのです。
では、すでにその組成が決まってしまっている大人はどうしたらよいでしょうか。
腸内細菌の最大勢力は、善玉菌でも悪玉菌でもなく、日和見菌です。最初の1年で個人の菌の組成は決まりますが、その後も、善玉菌と悪玉菌が拮抗し、その数は変動をくり返します。その変動に応じて日和見菌が善玉になったり、悪玉になったりします。
つまり、私たちは善玉菌をふやすよう心がけて、最大勢力の日和見菌を善玉化させることが重要です。そのためには、どんなことを心がければよいでしょうか。
腸の健康を保つには「育菌」に注目せよ!
乳酸菌が善玉菌であることはご存じでしょう。乳酸菌とは、菌の種類の総称で、その仲間には、ビフィズス菌やカゼイ菌など、多種多様な菌がいます。しかも、これらの乳酸菌のうち、どの菌が自分の腸に合うかは、人によって違うのです。
腸内細菌叢の組成は、人によって違うとお話ししましたが、乳酸菌についても、自分の腸内細菌叢と相性が合う乳酸菌と、合わないものがあるのです。合わない乳酸菌は腸に棲みつけず、3〜7日で排泄されてしまいます。
では、毎朝ヨーグルトを食べても、合わない乳酸菌だったら、無駄なのでしょうか。決して無駄にはなりません。たとえ乳酸菌が相性が合わず排除されてしまっても、あるいはまた、胃酸で乳酸菌が死んでしまっても、それらは、腸内で生息している乳酸菌のえさとなり、繁殖に大きく役立つからです。
ただ、私は今後、腸の健康を保つ方法は、育菌(自分の乳酸菌を育てること)に重点が移っていくと考えています。善玉菌を新たに腸に入れるよりも、赤ちゃんのころから腸に棲んでいるマイ乳酸菌をふやすほうが、腸の健康のためには効率的なのです。
こうした点から考えると、日本人の腸には、日本の発酵食品が最適といえるでしょう。
みそやしょうゆ、酢、納豆、ぬか漬けなど、日本人が昔から食べ継いできた発酵食品には、たっぷりと乳酸菌が含まれています。
私たちの腸にいる乳酸菌は、親から子へ、養育環境の中で受け継がれてきたものです。当然ながら、日本人のマイ乳酸菌との相性を考えれば、日本の発酵食品に含まれる乳酸菌のほうが、欧米の乳酸菌より相性がいいはずです。
しかも、日本の発酵食品は多くが植物性です。植物性乳酸菌は、動物性乳酸菌よりも胃酸に強く、生きて腸に届きやすいことが知られています。
育菌で腸を元気にするためには、納豆やみそ、しょうゆなどの日本古来の発酵食品をぜひ毎日の食卓に乗せるように心がけてください。
この際、私が特にお勧めしているメニューの一つが、「食前みそキャベツ」です。
食前みそキャベツは、1日3回、食事の前に、小さなお皿一杯分(約100g)のキャベツに、みそをつけて食べるというものです。生のキャベツを食べやすい大きさに切って、よくかんで食べてください。
100gのキャベツには約2gの食物繊維が含まれていますから、これによって1日6gの食物繊維をとることができます。日本人の食物繊維の目標値は、19gです。ところが、平均摂取量は14gなので、食前にみそキャベツをとれば、目標値を超えるわけです。
食物繊維の豊富な食事を続けていると、腸内のバランスが最良の状態に保たれ、腸内細菌は数をふやし、その働きが活性化してきます。
しかも、みそは日本人の体に合った乳酸菌のほか、麹菌や酵母菌などの善玉菌も含んでいます。ですから、食前みそキャベツは、腸の健康のために一石二鳥どころか、一石三鳥にもなるメニューなのです。
日本人の腸を元気にするお勧め食品

解説者のプロフィール

藤田紘一郎先生
1939年、旧満州ハルビン生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学医学系大学院博士課程修了。医学博士。金沢医科大学教授、長崎大学教授、東京医科歯科大学大学院教授を経て現職。
免疫や腸内細菌、伝染病の研究の第一人者。
著書に『50歳からは肉を食べ始めなさい』(フォレスト出版)など多数。