悪玉菌がふえると腸がやせて動かなくなる
私は、大腸内視鏡の専門医で、これまでに4万人以上の大腸を診てきました。そこで、気づいたのが、高齢の女性で、長く便秘を患っている人の多くは、腸がペラペラに薄いということです。
内視鏡で見ると、大腸の右上の角部分(肝弯曲)が青く透けています。これが健康な腸の人なら、肉厚できれいなピンク色をしているのです(下の写真参照)。
筋肉は使わないと、衰えて細くなるように、腸の筋肉も使わないと、やせていきます。このような腸を、私は「ペラペラ腸」と呼んでいます。
腸がやせて薄くなると、便を押し進める力が弱くなります。また、薄い腸は伸びて、ねじれや下垂を起こしやすくなります。それも、腸に便が滞る大きな原因になります。
高齢の女性は、約8割の人が便秘です。その中でも、ペラペラ腸の人は、薬を飲むだけではなかなか便秘が改善しにくくなっています。
ところで、便秘と関係が深いといわれているのが大腸ガン。現在、女性のガンによる死亡率のトップです。大腸ガンを防ぐには、まず便秘にならないことです。そのためにも、便秘の原因となるペラペラ腸は早急に改善しなくてはなりません。
ペラペラ腸になる原因には、腸内環境も関係しています。
腸の中には、人に有用な働きをする善玉菌と、害を及ぼす悪玉菌がいます。善玉菌が優位だと、善玉菌が出す乳酸や酢酸などの有機酸がふえて、腸内が酸性に傾きます。その影響で、悪玉菌の増殖がおさえられたり、腸の運動が活発になったりして、健康的な腸を維持できます。
「健康な腸」と「ペラペラ腸」の違い(画像)
10回くらい転がると便が動きやすくなる!
私は、このようなペラペラ腸の人に、腸を元気にする「腸トレ」を指導しています。筋肉を鍛えて太くするように、やせた腸も腸トレで鍛えると、適切な筋肉量に戻すことができます。
腸トレには、体の内側から腸を鍛えるものと、外側から鍛えるものがあります。
内側からの腸トレは、水溶性の食物繊維と、乳酸菌を意識してとることで、腸の動きを促進するものです。
食物繊維には、水溶性と不溶性がありますが、ペラペラ腸の人がいきなり不溶性をとるのはよくありません。不溶性は便のカサをふやすので、腸の動きの悪い人には、腸への負担が大きくなりすぎるからです。
一方、水溶性は便の水分を保持し、便に粘着を持たせることで、腸を動かしやすくします。ですから、ペラペラ腸の人は、最初は水溶性の食物繊維を多く含むリンゴやキウイなどの果物、納豆やオクラ、海藻類などを積極的にとるようにしましょう。
腸が動くようになり、お通じがよくなってきたら、不溶性の食物繊維もとって、便のカサをふやすようにしてください。
ペラペラ腸の人は、悪玉菌が多いので、善玉菌(乳酸菌)を優位にして腸の動きを活発にしてやることも重要です。乳酸菌の仲間のビフィズス菌は、比較的長く大腸に棲めますから、ビフィズス菌を多く含むヨーグルトや飲料水などを選んでとるとよいでしょう。
外からの腸トレは、散歩がいちばんです。1万歩歩くと、便秘しないといわれています。歩くことによって腸が動き、便が進みやすくなるのです。
ゴロ寝体操のやり方

腸の運動は、自律神経の一つであり、休息時に働く副交感神経に支配されています。副交感神経を高めるには、「ゆっくり散歩」がいいでしょう。反対に、激しいスポーツは、腸の動きをとめてしまうので、ペラペラ腸の人には不向きです。
しかし、ひざや腰が悪くて、歩けないという人には、「腸のゴロ寝運動」をお勧めします。
床や布団の上にあおむけになり、ゴロンゴロンと左右に転がるだけです。寝る前に、左右に10回くらい転がるといいでしょう。できる範囲で体を左右に傾けるだけでもかまいません。
ゴロゴロ転がると、滞留した便が動きやすくなり、ペラペラ腸のいい運動になります。
解説者のプロフィール

後藤利夫先生
1988年、東京大学医学部卒業。専門は大腸内視鏡検査で、無痛検査「水浸法」という独自の検査法を考案。全国20以上の病院で大腸内視鏡検査を実践・指導。4万人以上を検査し無事故の実績を持つ。
新宿大腸クリニック
http://www.shinjuku-clinic.com/
ところが、悪玉菌が優位になると、腸内には悪玉菌が作る毒性ガスがふえます。これが腸壁に作用して、腸は動きが鈍くなり、腸壁が薄くなっていきます。腸壁が薄くなると、ますます腸が動かず、便秘がひどくなるという悪循環に陥ってしまいます。
高齢になると、ビフィズス菌などの善玉菌が急激にへり、ウェルシュ菌などの悪玉菌が急増してくるため、ペラペラ腸になりやすいのです。
それに加えて、運動不足や過度のストレス、偏った食事などがあると、悪玉菌がふえ、ペラペラ腸が悪化します。