解説者のプロフィール

浅川賢(あさかわ・けん)
北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専任講師。2003年北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻卒業、2010年北里大学大学院医療系研究科眼科学修了、医学博士取得。北里大学医療衛生学部視覚機能療法学助教をへて、2016年より現職。視覚情報科学、形態機能学(視覚器)分野の研究に従事。
目の血流がピント調節にかかわる
私は、視能訓練士(眼科で目の検査や視機能訓練を行う国家資格の必要な医療従事者)を目指す学生に、目の検査法や小児の視力発達に関する訓練法を教えています。
一方で、所属する視覚機能療法学の研究室では、「生活習慣による視機能の向上法」についての研究を続けてきました。
なかでも、「咀嚼(食べ物をよくかみ砕き味わうこと)による目への影響」を評価する実験は、くり返し続けてきた重要なテーマの一つです。
実験では、すでに眼科以外の分野の研究で、脳や口腔内の血流量を増やすことが確認されていたガム(市販の一般的なもの)を使いました。
まず私たちは、ガムをかみ続けた後に、眼圧(眼球内の圧力)が低下することを確認。その後、ガムをかんだ後の白目(眼球の白い部分)の血流の変化を評価する実験を行いました。
目の血流は、目の健康に深くかかわっています。白目の血流がよい状態に維持されていることは、ピントや明るさを調節する目の筋肉の機能も間接的に保たれていることを意味します。
実験は、平均年齢21歳の健康な学生10名(男性3名・女性7名)に協力してもらいました。
ガムをかむ前と、かんだ後の血流変化を、専用の計測装置で測ります。白目の表層に安全な光を照射し、血液中の酸化ヘモグロビン相対濃度(赤血球のたんぱく質濃度による血流変化)を測定するのです。
1.7倍も血流が上がった!
実験で使用したガムは、市販のミント味です。それを10分間、毎分80回という平均的なスピードでかんでもらうことにしました。咀嚼ではなく、味覚による影響も考えられるため、ガム以外にも、アメでも血流変化を測定しました。
①何も口に入れていない状態
②アメをなめた後
③ガムをかんだ後
以上の三つの条件下で、10人の血流変化を測り、1人ずつその差を比較しました。
結果は、ガムをかむことで9人の酸化ヘモグロビン相対濃度が上がったのです。つまり、血流に有意な変化が見られたというわけです。
白目の血流の変化をわかりやすくするために、ガムをかむ前の酸化ヘモグロビン濃度を100%としましょう。アメをなめた後は、平均で105.7%ですが、ガムをかんだ後は167.6%になります。かむ前の約1.7倍も血流が上がったことになり、グラフにすると、その差は一目瞭然です。

何も口に入れていない状態の酸化ヘモグロビン相対濃度と、アメをなめた後の酸化ヘモグロビン相対濃度はほとんど差が見られず、これにより、味覚の影響ではなく、咀嚼が白目の血流をよくすることが証明されました。
この実験結果から、ガムをかむと、白目の血流が上がるということがわかります。ガムをかむことが目の機能を活性化させ、目の疲れを改善させたり、ピント合わせ機能を向上させたりする効果が期待できそうです。
1日1回10分間でよい
白目のすぐ近くには、目のレンズの役割をする水晶体を調節する、毛様体筋という筋肉があります。ガムをかむことが、この毛様体筋にもよい影響を及ぼすことが考えられます。
加齢により、毛様体筋が弱り、近くにピントが合わせづらくなっている状態の目(いわゆる老眼)にも、ガムをかむことが一定の効果を発揮しそうです。
今回はガムを使って実験をしましたが、以前にスルメを使って実験をしても結果は同じでした。あくまでも、咀嚼という「かむ」行為によって、目の血流がよくなるということが判明したのです。
もちろん、皆さんの普段の生活にも、「ガムをかむ効果」を役立てることができます。その場合は、1日に1回、10分間を目安にかむといいでしょう。食後に、仕事をしたり、テレビを見たりしながらガムをかんでください。
長くかみ過ぎて味がなくなったガムでは、かむことが苦痛になって逆効果です。自分の好みの、おいしく感じるガムを選ぶようにしてください。
なかには、ガムが苦手だったり、入れ歯でできなかったりする人もいると思います。その場合は、普段の食事をできるだけかんで食べることを心掛け、歯ごたえのある食材を積極的に選ぶようにするとよいでしょう。

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