飲み始めて2週間で血圧が下がり始めた
お酢は、単なる調味料ではなく、健康に役立つ優れもの─。
こうした見識が、ここ20年ほどで、広く知られるようになりました。もはや常識といってもいいでしょう。
一般に市販されている食酢の酸の濃度は、約4〜5%。そのうちの95%を占める成分で、独特のツンとしたにおいのもとである「酢酸」が、酢の健康パワーの主役です。
この酢酸には、多くの健康効果があることがわかっていますが、その中でも代表的といえるのが、血圧の降下作用です。
酢酸には、「レニン・アンジオテンシン系」と呼ばれる、血圧上昇にかかわるホルモンの調節機構を、穏やかに抑制する働きがあります。このホルモン系が活性化すると、血圧が上がるしくみなので、それを抑制することが、血圧の安定につながるというわけです。
ここで、下のグラフをご覧ください。高血圧の人に、毎日酢を含んだ飲料をとってもらい、血圧の推移を記録したものです。
2週間ごとに血圧を測る実験で、飲用期間は8週間。ところが、最初の2週間で、早くも血圧の降下が見られます。
それも、大さじ1杯(15mL)の酢をとった人よりも、大さじ2杯(30mL)とった人のほうが、さらに早期の段階で、顕著に効果が現れたのです。平均すると、最大血圧で15mmHg程度、最小血圧で6mmHg程度、血圧が下がりました。
カルシウムの吸収を促し骨粗鬆症を防ぐ
ただし、こうした血圧降下作用も、酢を毎日摂取してこそ期待できるものです。継続しなければ効果は得られません。
そこで、私がお勧めしているのが、「酢牛乳」。リンゴ酢大さじ1杯と、ハチミツ大さじ1杯に、牛乳を120mL加えて、よく混ぜたサワードリンクです。
酢の種類はなんでもよいのですが、さわやかでフルーティーな香りのリンゴ酢が、特にお勧めです。
1日に大さじ2杯の摂取を心がけるかたは、朝と晩にコップ1杯ずつ作って飲むのもよいでしょう。しかし、多く摂取しようとして、単に酢だけを倍量にしてはいけません。
酢酸は、のどや胃の粘膜を傷めるおそれがあるので、必ず5倍以上に薄めてください。
牛乳に酢を加えると、酸によるたんぱく変性が起こり、ヨーグルトのようなドロッとした食感に変わります。ハチミツの甘みも加わって、まるでデザートのようにおいしいのです。
また、お酢にはカルシウムの吸収を促進する働きがあります。牛乳と組み合わせることで、カルシウムを効率よく体内に吸収でき、骨粗鬆症の予防にもなるというわけです。
酸っぱいものを口に含むと、唾液がたくさん出ますが、唾液に含まれる酵素は食物の消化を助けます。よって、酢牛乳を飲むタイミングは、食事といっしょがベストでしょう。
私自身、酢牛乳を毎日愛飲しているおかげで、健康体で過ごせています。今年62歳になりますが、めったにカゼをひきません。肌ツヤがいいので、同年代の友人や、教え子たちから、「なぜそんなに若々しいのか」と、しばしば聞かれるほどです。
お酢には、血圧降下作用のほかにも、内臓脂肪の減少、血糖値上昇の緩和、疲労回復、便秘解消など、さまざまな効果があります。毎日続ければ、「一石五鳥」ほどの効果が得られるでしょう。ぜひお試しください。
解説者のプロフィール

小泉幸道
東京農業大学応用生物科学部醸造科学科教授。専門は発酵食品学。発酵食品の科学的な成分変化と機能性に関する研究を行う。1987年、日本缶詰協会逸見賞受賞。2001年および2009年に日本農芸化学会論文賞受賞。食と農の博物館館長。テレビや雑誌などで、「お酢博士」として活躍中。著書に、『NHKあさイチ 驚きの効果 ハチミツ&酢のパワー』(NHK出版)などがある。
では、大さじ3杯なら、もっと効果が得られるかというと、さすがにそれはとりすぎです。1日の摂取量は、多くても大さじ2杯程度にとどめてください。
そして、グラフのとおり、酢の摂取をやめると、血圧はまた上がります。とはいえ、実験終了から4週間たっても、開始2週間前に測定した値より、まだ低いままなのです。これもまた、注目すべき点でしょう。
ちなみに、血圧が正常な人が酢をとることで、低血圧になる心配はありません。