解説者のプロフィール

曽根淳史
宮津康生会宮津武田病院院長
1982年、川崎医科大学卒業。
88年、同大学大学院修了。
同大学泌尿器科講師、興生総合病院泌尿器科部長、宮津武田病院泌尿器科部長等を経て、2010年より現職。
日本泌尿器学会専門医・指導医。
日本排尿機能学会代議員。
専門領域は、高齢者の排尿障害、夜間頻尿、尿路管理、男性性機能障害など。
●医療法人財団 宮津康生会 宮津武田病院
http://www.takedahp.or.jp/group/medical/miyazu/about.html
高齢者の夜間頻尿や尿もれに効果的
夜間頻尿は、現在の日本の高齢化社会を反映している症状の一つです。日ごろ治療に当たっている外来にも連日、ご高齢の患者さんが訪れています。
日常生活に支障をきたし、心臓病や高血圧のために日中に下肢にむくみが生じ、それが原因で夜間頻尿になっている患者さんも少なくありません。
私は、こうした夜間頻尿の患者さんのセルフケアとして、日中に着用する「弾性ストッキング」を勧めています。
当初は、就寝の3~4時間前に、寝た状態で足を高く上げる姿勢(下肢挙上姿勢)を勧めていました。しかし、高齢で運動機能の低下した人には、その姿勢を長く続けることは難しいということがわかりました。
そこで3年ほど前から、体力のない高齢者でもできる方法として、日中にひざ下までの弾性ストッキングの着用を勧めるようになりました。
使用するのは、血管外科などで下肢静脈瘤の治療に使われる、ひざ下までの弾性ストッキングです。
弾性ストッキングは、はきにくいというデメリットがありますが、それを少しでもカバーするために、起床後から着用してもらうようにしています。朝が最もむくみが少ない時間帯で、それだけはきやすいからです。そのまま日中を過ごし、夜の入浴時に脱ぐというサイクルで続けてもらっています。
患者さんの中には、弾性ストッキングを着用することに難色を示す人もおられます。
しかし、足がらくになるのが実感できるのか、着用を始めると一変。2~3週間もすると、多くの患者さんが足の軽さを実感し、さらには夜間の尿量が減少するため、夜間排尿の回数が減って、体調がよくなり、手放せなくなるようです。これは、弾性ストッキングを着用すると、足のむくみが解消されることと密接に関係しています。

夜間頻尿とともに睡眠時無呼吸も改善
ではなぜ、日中に足がむくむと夜間頻尿になるのでしょう。
夜間頻尿の主な原因は三つあります。水の飲み過ぎとむくみによるもの、膀胱の機能障害によるもの、睡眠障害によるものです。
なかでも高齢者に最も多くみられる原因が、日中の足のむくみによる夜間多尿です。
高齢になると足がむくむのは、下肢の筋力が衰えるためです。ふくらはぎの筋肉によるポンプ作用(血液を心臓に戻す働き)が衰え、ふくらはぎの筋肉が弱ることで、間質(細胞の結合組織)にすき間を作ってしまうのです。その間質のすき間に、体液の水分がもれやすくなるので、高齢者の足がむくみやすくなるわけです。
足のむくみは、立位や座位の姿勢を取る昼間に生じ、就寝時に体が横になることで、下肢にたまった体液が一気に血中に戻るため、夜間の尿量が増加して夜間頻尿が起こるのです。
ここで役立つのが、弾性ストッキングです。日中に弾性ストッキングを着けていると、日中はふくらはぎが常に締めつけられた状態となり、それが、足のむくみの予防につながります。
実際に弾性ストッキングを着用して、夜間頻尿や足のむくみをコントロールしている患者さんの例をお話ししましょう。
80代の男性の患者さんは、心不全と夜間頻尿がありました。
弾性ストッキング着用後から夜間の尿量が減り、数ヵ月後にはトイレに起きなくなり、夜間頻尿が解消しています。
70代の男性の患者さんは、着用してから足のむくみが解消。最終的には夜間頻尿と睡眠時無呼吸症候群が改善しています。
ほかにも、弾性ストッキングを着用して歩行能力がアップした70代の女性や、夜間頻尿が改善してから心臓肥大が改善した男性の患者さんもいます。
これらの症例は、学会で発表しています(第28回老年泌尿器科学会・第22回排尿機能学会・第81回日本泌尿器科学会東部総会)。
現在、夜間頻尿の治療法として、弾性ストッキングを指導している病院は多くなく、当院をはじめ、神戸(神戸医療センター)と沖縄(北上中央病院)など数ヵ所です。
今回の記事を読み、夜間頻尿に弾性ストッキングを活用したいと思われた人は、先述の病院をはじめ、夜間頻尿の治療に対応する泌尿器科を受診するとよいでしょう。近くに対応の病院がない方は、かかりつけ医に相談のうえ、医療用の弾性ストッキングをお買い求めください。