いつでも、どこでも簡単にできる!
血管の品質管理こそ、健康長寿の鍵――。これは、私が長年、老化の原因について研究を重ねてたどりついた結論です。
血管は、全身に張り巡らされた運河のようなものです。長さは、10万㎞にも及びます。
心臓から押し出された血液は、動脈を経て、体の隅々にまで栄養や酸素を運びます。一方、体内で不要となった二酸化炭素や老廃物は、静脈を通して心臓へ回収されます。
このようなよどみない血液(水)の流れは、全身の約60兆個の細胞を若々しく保ってくれますが、それも、健康な血管(運河)があってこそです。
しかし、私たちの血管は年齢とともにしなやかさを失い、そこを流れる血液はスムーズに流れにくくなる運命にあります。
これが、糖尿病や高血圧、心筋梗塞や脳梗塞(心臓や脳の血管が詰まって起こる病気)などをはじめとする、多くの病気の原因となっているのです。
血管の老化を防ぐには、筋肉をよく動かすことが有効です。筋肉を動かせば、その周辺にある血管が適度にしごかれ、丈夫になるからです。
しかし、中高年者が継続的に筋力トレーニングを行うのは、時間的にも体力的にも難しいでしょう。
そこで私は、血管の老化が加速し始める中高年者が、「いつでも」「どこでも」「簡単に」できる健康法を勧めています。それが、「動脈マッサージ」です。
一方、私は岡山大学の大学院卒業後から、「活性酸素と病気の関係」を研究テーマにしてきました。
その中で、しなやかさを失った血管に刺激を与え、ほぐすことで、活性酸素(血管を傷つけ老化やガン化を促す物質)の増加が抑えられることを発見。血管をほぐすことこそが老化予防の近道となる、という結論に至ったのです。
別々の分野で研究を続けてきた師弟が、こうして、同様の結論に達したことを感慨深く思っています。
腰痛やひざ痛、不妊症にも効果!
2011年には、NHKの健康番組『ためしてガッテン』に出演し、動脈マッサージの効果を検証しました。
血圧が高めな参加者20人に協力してもらい、約3週間、毎日15分の動脈マッサージをするようしたところ、動脈マッサージをしたグループは、していないグループに比べて、平均8・6㎜Hgも下がっていることがわかったのです。
実際に、私が知る患者さんの中には、血圧が下がって降圧剤(血圧を下げる薬)が不要になったり、糖尿病が改善したり、腰痛やひざ痛が治ったりしている人が数多くいらっしゃいます。
また近年では、そけい部や下肢(足)への動脈マッサージが不妊症に効果がある、ということがわかってきました。
下肢の血流は、骨盤内の外腸骨動静脈という重要な血管とつながっていますが、その外腸骨動静脈は、赤ちゃんを産むための大切な臓器である、卵巣に接しています。
動脈マッサージを行うことで骨盤内の血流量が増え、適切な体温に保たれた卵巣は、その機能を正常化させていくのです。
いつでも、どこでも、誰にでも簡単にできる動脈マッサージ。いつまでも若々しく、健康でいられるための老化予防法です。ぜひとも、毎日の習慣にしてください。
解説者のプロフィール

井上正康
1945年生まれ。1974年、岡山大学大学院(病理学)終了。米国アルバード アインシュタイン医科大学客員準教授(内科学)、熊本大学医学部助教授(生化学)、米国タフト大学医学部客員教授(分子生理学)、大阪市立大学医学部教授を経て、2011年より現職。健康科学研究所所長。著書に『活性酸素と医食同源』(共立出版)、『血管ほぐし健康法』(角川SSC)などがある。
これは、体内の動脈を、体の「外」から直接マッサージする方法です。手のひらや指先を使って、皮膚や筋肉を押したりしごいたりして刺激します。
動脈マッサージをすると、主要な太い動脈から枝分かれしている中~小動脈、そして末端の細動脈までが刺激されます。
そして、それらの動脈にまとわりついている血管拡張神経(血流を調整する自律神経の一種)が反応し、血流がぐんとよくなるのです。さらに、血管壁の新陳代謝を促して、動脈硬化の予防効果も高まります。
この、動脈を直接マッサージする健康法を最初に考案したのは、私の恩師で細胞病理学の世界的権威でもあった故・妹尾左知丸先生(岡山大学名誉教授)です。
「血管を鍛えれば、生活習慣病は予防できる」との考えのもと、動脈マッサージを毎日実行。92歳で亡くなられる直前まで、「健康長寿で生涯現役」を実現されておられました。