
酒を飲まないのになる新タイプの脂肪肝が増加
脂肪肝について、皆さんはどんなイメージを持っているでしょうか。
「肝臓に脂肪がつきすぎているだけで、命に関わることはない」と軽く思っていないでしょうか。
ところが最近の研究で、脂肪肝の中に、肝硬変や肝臓がんに進行する怖いタイプの脂肪肝が存在することがわかりました。その多くは、アルコールが原因ではない脂肪肝です。
脂肪肝は、肝臓の細胞の10%以上の細胞に、脂肪滴(脂肪のかたまり)がついた状態です。従来はおもにアルコールが原因だと考えられていました。しかし近年、非アルコール性脂肪肝(※1)という病気が増加していることがわかり、しかも、その患者数は1000万人にのぼると推定されています。
非アルコール性脂肪肝と診断されても、ほとんどは大事には至らずに一生を終える単純性脂肪肝です。しかし、1〜2割は、炎症や線維化(細胞が増殖すること)をともなう、非アルコール性脂肪肝炎(NASH・ナッシュ)と呼ばれる肝炎です。
ナッシュが怖いのは、5割が進行性で、そのうちの2〜3割は、約10年で肝硬変や肝臓がんに進行していくという点です。
これまで、肝臓がんや肝硬変に進行するのは、B型肝炎やC型肝炎のようなウイルス性肝炎だと思われていました。
しかし、非ウイルス性肝炎でも肝臓がんになり、その死亡者数は年々増加しています。
今では、B型ウイルス性肝炎の肝臓がん死亡者数を上回るほどです。
酒を飲まなくてもなる脂肪肝の原因は、生活習慣病です。肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった要因が1つでもあると、脂肪肝になりやすくなります。2つ、3つと重なれば、さらに危険です。
※1 非アルコール性脂肪肝
非アルコール性とは、1日に日本酒換算で1合以下のアルコール摂取量の人の場合を指す。

脂肪肝を悪化させる3大要因
こうした要因に、インスリン抵抗性(糖化)、酸化ストレス(酸化)、鉄の過剰摂取(鉄化)などが加わると、怖い脂肪肝になる可能性はさらに高くなります。
インスリン抵抗性とは、血糖値の急激な上昇などからインスリンというホルモンの作用が悪くなり、血液中にインスリンが増えてしまう状態です。血液中にインスリンが多いと、中性脂肪が肝臓にたまりやすくなり、脂肪肝が悪化します。
糖尿病だけでなく、高血圧、肥満、脂質異常症なども、インスリン抵抗性の関与が指摘されています。
酸化ストレスは、活性酸素によって引き起こされます。活性酸素は遺伝子や細胞を傷つける毒性の強い酸素。これが増えると、肝細胞も障害を受けます。
また、鉄は、昔から肝炎を悪化させる因子として知られていました。肝臓に過剰に鉄が蓄積されると、フェントン反応という現象が起き、強力な活性酸素が発生します。これが肝臓を傷つけて、肝炎を悪化させるのです。
心配のない脂肪肝と怖い脂肪肝の境界線は紙一重です。
今は心配なくても、脂肪肝の人が甘いものや肉を食べすぎたり、早食いや大食いをしていると、誰でも怖い脂肪肝になる可能性があります。
反対に、すでに怖い脂肪肝になっていても、糖化、酸化、鉄化に気をつければ、心配のない脂肪肝に移行していきます。
ナッシュと呼ばれる脂肪肝炎は、まだ診断法や治療法がじゅうぶんに確立されていません。ウイルス性肝炎なら、血液を調べればすぐに診断がつきますが、ナッシュにはそういう確定的な因子が何もないのです。脂肪肝のまま放置されやすく、気がついたときには肝硬変、肝臓がんになっていることも珍しくありません。
しかも、糖尿病と合併すると、さらに恐ろしい事態が待っています。
日本糖尿病学会の調査によると、糖尿病患者の死亡原因の1位は肝臓がんで、肝硬変症と合わせると17.5%にもなります。血糖値が高い人は、きわめて危険と言わざるを得ません。

野菜スープを常食して新型脂肪肝を予防!
治療の決め手のない脂肪肝の救世主
薬物療法だけでは難しいナッシュの治療は、要因となっている糖尿病や高血圧、肥満などを治療しながら、糖化、酸化、鉄化を防ぐ生活習慣をすることに尽きます。
その一環として私が勧めているのが、ファイトケミカルがたっぷり入った、手作りの野菜スープ(ファイトケミカルスープ)です。スープには、野菜が持っている強力な抗酸化物質であるファイトケミカルが凝縮されています。これが肝臓を酸化ストレスから守ってくれるのです。
また、食物繊維が豊富に溶け込んでいます。これが腸で糖質の吸収を抑え、血糖値の急激な上昇を防いでくれます。さらに食物繊維には、血圧やコレステロールを下げる作用もあるので、脂肪肝の要因であるメタボの改善に役立ちます。
食事の改善としては、このスープを取るのに加えて、GI値(グリセミック指数/食後の血糖値の上昇速度を示す数値)の低い食品を取る、鉄分の多い食品は避けるなどの注意も必要です。
当院にも、アルコールは飲まなくても脂肪肝と疑われる患者さんがたくさん来院されます。その患者さんたちが、このスープを中心とした食事療法で次々に改善していくのを見ると、スープのパワーは強力で、まさに救いの手に思えます。
解説者のプロフィール

髙橋 弘
麻布医院院長、医学博士。ハーバード大学医学部内科元准教授。食事と病気の関係に着目してファイトケミカルの研究に情熱を注ぎ成果をあげている。

高橋弘著『ハーバード大学式「野菜スープ」で免疫力アップ! がんに負けない!』 (ファイトケミカルの「4つの力」でがんに徹底抗戦)