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「べ」は舌を正しい位置に引き上げるために重要

入浴時に行うのがオススメ
口の体操「あいうべ」は、どうして「あいうえ」ではないのでしょう。
「あ」「い」「う」という口の動きは、口の周囲の筋肉(口輪筋や表情筋など)を鍛える動きです。そして、「べー」と舌を出すことで、舌の筋肉(舌筋や舌骨筋群)が鍛えられます。舌の筋肉を鍛えることは、舌を正しい位置に引き上げるために重要です。
舌が下がってくると、重い舌を口の周囲の筋肉で支えるのは難しいので、口も開いてきます。逆に、舌が上あごにくっついていると、口を開けても口で呼吸はできず、鼻で行うことになります。
ですから、舌を動かさない「えー」ではダメなのです。
「あいうべ」のやり方は、とても簡単です。次の四つの動作をくり返すだけです。
①「あー」と、口を大きく開く。
②「いー」と、首に筋肉のすじが浮き出るぐらい、口を大きく横に広げる。
③「うー」と、唇をとがらせて口を前に突き出す。
④「べー」と、舌を思い切り突き出して下に伸ばす。
ポイントは、大げさなくらい口を大きく動かすことと、ゆっくりやることです。①〜④までを4秒前後かけて行ってください。
これを1回として、1日30回を目安に行います。朝晩15回ずつ、朝昼晩10回ずつと、分けて行ってもけっこうです。
最初は、うまく口を開けられない、舌を伸ばせないという人も、少しずつできるようになります。最初から回数をふやしすぎると、あごを痛めることもありますから、無理は禁物です。
声は出しても出さなくても、どちらでもけっこうです。声を出すと、口の中が乾燥しやすい一方で、のど周辺の筋肉がより鍛えられます。食物や唾液が誤って気管に入る誤嚥を起こしやすい人、脳卒中の後遺症などでマヒがある人は、声を出して行うのがお勧めです。
「あいうべ」は、いつ、どこで行ってもかまいません。特にお勧めなのは入浴時です。ふろ場なら、口を開けても乾燥する心配がないからです。逆に、冬の寒い日に外で散歩をしながら行うのは、口の中が乾いてしまうので避けたほうが無難です。
30日間続ければ、なんらかの効果を実感できるはずです。
あいうべ体操のやり方

いーうー体操のやり方

「いーうー」体操は便秘やドライマウスに効く

寒い屋外で行うのはNG
「あいうべ」の四つの動作のうち、「あ」と「べ」は、口を大きく開けて、あごの関節を使うので、顎関節症の人などは、痛くてできないことがあります。そういう場合は、あごの関節に負担のかからない「いーうー」体操がお勧めです。
「いー」「うー」とくり返すだけなので、無理なく行えます。これを、3分間を目安に行ってください。
「あいうべ」と違って口を大きく開けないので、唾液がよりたっぷり出て口の中がよく潤い、ドライマウスに効果的です。
また、涙も出やすくなるので、ドライアイの人もぜひ行ってください。さらに、口の中が潤うのと同じように、腸内でも腸液が出て潤い、お通じがとてもよくなります。便秘対策にもお勧めします。
しかし、「いーうー」だけでは、舌が鍛えられません。「べー」の代わりに、口を閉じたまま次のような舌の体操を行うといいでしょう。
①唇を閉じたまま、上の歯と唇の間で舌を左右にゆっくり滑らせます。これを1回として10回行い、下の歯も同様に10回行います。
②左のほおの内側に舌をグーッと数秒間押しつけます。同様に、右のほおの内側にも数秒間押しつけます。左右を1回として、20回行います。
鼻呼吸になるには、舌の筋力をつけることが大事です。大きなあめ玉があれば、口に入れて舌でゴロゴロと転がすのも、舌のいい運動になります。
今井一彰
みらいクリニック院長。NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長。1995年、山口大学医学部卒業。2006年に福岡市博多駅前にみらいクリニックを開業後、さまざまな方法を駆使しながら、薬を使わずに体を治す独自の治療を行う。「あいうべ」による息育や「足指を伸ばす」ことによる足育の普及にも力を入れている。著書に『免疫を高めて病気を治す 口の体操「あいうべ」』、監修に『足・ひざ・腰の痛みが劇的に消える「足指伸ばし」』(いずれもマキノ出版)など多数。