
低血糖発作に 見舞われて心機一転
私は15年前、50歳で糖尿病患者の仲間入りをしました。血液検査を受けると、空腹時血糖が300㎎/㎗、ヘモグロビンA1cが7・4%と、りっぱな糖尿病になっていたのです。
当時を振り返ると、体重が78㎏という肥満体型になっていることも気にせず、暴飲暴食を続けていました。その結果、なるべくして糖尿病になったのです。
そのときは一念発起して、日夜ウォーキングをし、酒もタバコも断ちました。摂取カロリーも可能な限りへらした結果、一時は腹が引き締まり、血液検査の数値も良好になったのです。
しかし、それはつかの間のことで、またたくさんの酒のさかなをテーブルに並べ、飲んだくれる生活に戻ってしまいました。そして、糖尿病と真正面から向き合おうとしなかった私に、新たな問題が発生。全身の関節痛に襲われ、その治療の過程で、右手関節の感染性関節炎を起こしてしまったのです。
私は整形外科医ですが、そんな状態では手術などできるわけもありません。私は開業していた病院を閉めて、人手に渡すことにしました。しかし、それだけでは済みませんでした。頸椎(背骨の首の部分)が原因のマヒが起こり、首の手術を受けなければならなくなったのです。
このときにも、糖尿病であることが障害になりました。血糖値が高いままでは手術ができないし、たとえ手術がうまくいっても、糖尿病患者は傷に感染を起こしやすいのです。
そこで、私は心を入れ替えて、必死に運動をし、食事のカロリーもおさえ、インスリン注射で血糖値を下げました。おかげで、手術は成功したのです。
術後は、内服の血糖降下薬に切り替え、まじめに血糖コントロールをしました。ところが、体重が55㎏まで落ちて、鏡を見ると、顔が干からびた感じです。そして、薬を飲みながらの運動中に、頻繁に低血糖発作に見舞われるようになりました。
これではいけないと思い、医師である大学時代の友人に相談したところ、「糖質をとらなければ、血糖値は上がらない」と教えてくれたのです。
私は血糖降下剤を飲むのをきっぱりやめ、「糖質ゼロ食」を参考にした食事療法に取り組みました。
しかし、この方法は、「糖質を100g当たり3g以上含む食品は食べてはならない」という過酷なものです。いくら糖質の少ない肉類や魚介類を多くとれるとはいえ、ご飯やみそ汁、納豆が食卓から消えます。また、野菜もトマトやタマネギ、キャベツなどまでがNGです。これでは、食事が楽しいわけがありません。
数値が上がっても あまり気にしない
そこで、私が考えたのが「低糖質食」というものです。糖質を完全にカットするのではなく、糖質の多いものはなるべくへらして食べればいい、と思ったわけです。それには、まず食品の糖質量を覚えることから始めました。
そして、血糖値とヘモグロビンAIcの目標値を自分で決め、どんなものをどれだけ食べたら目標値を超えるのか、あるいは目標値内に収まるのかを、克明に記録しました。
2年前から新薬を飲み始めた私の、現在の目標値は、ヘモグロビンA1cが4・9%で、5・1%くらいまでは上がってもいいことにしています。
そして、食後血糖値は140㎎/㎗以下を目標として、最高でも180㎎/㎗は超えない食事を心がけています。
具体的にどんなふうに食事をしているのかというと、私の場合は1日2食ですが、昼は野菜炒めや野菜サラダなど、糖質をほとんど含まない食品で済ませます。そして、夜の食事には、料理に加えてご飯を100gくらいはとるようにしています。これくらいの糖質なら、食後の血糖値は120〜140㎎/㎗くらいでほぼ収まるからです。
外食をすることも多いのですが、外食で糖質をへらすというのはなかなか大変です。でも今では、経験的に何をどれだけ食べると、どれくらいの数値になるかということが、大まかですが、わかるようになりました。
ちなみに、私はインターネットで「田中瑞雄の糖尿病と低糖質食」というブログを運営しています。そこに、その日に食べたものと、夕食後の血糖値を記録しています。夕食後は必ず血糖値を測り、ヘモグロビンA1cに関しては、月に1回病院で検査を受けていますが、これまで目標値を大幅に超えたことはありません。
こうした方法なら、好きなものを我慢する必要もありません。ラーメンやパスタ、すしも食べています。そして、家族や友人と食事をするときにも、不都合なことがなく、いっしょに食事を楽しめます。
同窓会などでは、大量に出てくる料理を調整して食べるようにしていますが、ときには、食後の血糖値が200㎎/㎗くらいまで上がることもあります。しかし、また翌日からきちんと低糖質食を実行すればいいので、あまり気にかけていません。
もちろん、大好きな酒も飲んでいます。焼酎、ウイスキー、ブランデーなどの蒸留酒であれば問題ありませんし、ワインもフランス産の赤ワインなら糖質はゼロです。
こうした食生活で、現在は糖尿病と上手につきあっています。体重57㎏で顔色もよく、仕事で福岡と北海道を、毎週元気に往復する日々を送っています。
解説者のプロフィール

田中瑞雄(たなか・みずお)
1971年、京都大学医学部卒業。関節外科医として多くの手術を手がけてきた。
現在、函館共愛会病院に、非常勤医師として勤務し、患者に母趾球歩きを指導している。
「YAHOO!ブログ」に『田中瑞雄の母趾球歩きと薬ありの低糖質食』を開設。
著書に、『変形性膝関節症は母趾球歩きで克服できる』(日本評論社)。
●田中瑞雄の母趾球歩きと薬ありの低糖質食
https://blogs.yahoo.co.jp/tmizuo3333
糖質を完全にカットするのではなく、なるべく減らして食べればいい