
食事療法を厳守しても糖尿病が再発した
私は長年、寄生虫や免疫(病気に抵抗する働き)の研究を続けています。その研究で、28歳からは毎年、インドネシアへ医療調査に出掛けています。
今から十数年前、重度の糖尿病を患ったのもインドネシアでした。真夏のインドネシアで、水分補給のために飲んでいたスポーツドリンクで、いわゆるペットボトル症候群(急性の糖尿病)になってしまったのです。
帰国後、私は糖尿病専門医による徹底的な食事療法を始めました。日本糖尿病学会も推奨する、高糖質低カロリー食です。この食事療法とインスリン療法によって、血糖値はどうにか落ち着きました。
ところがその10年後、糖尿病が再発してしまったのです。このときの空腹時血糖値は450㎎/㎗でした(正常値は110㎎/㎗未満)。
糖尿病が再発するまでの間、私は高糖質低カロリー食を厳守していました。ステーキなどの脂質は抑え、摂取カロリーの約6割は、白米やめん類などの糖質で当てていたのです。
それでも糖尿病が再発したのは、膵臓のβ細胞が疲弊したために違いない、と私は考えました。膵臓のβ細胞が疲弊すると、体内のブドウ糖を肝臓や筋肉に取り込むインスリンが分泌されなくなります。
β細胞の力を戻すためには、糖質を取らないのが一番です。この自分の仮説を信じ、私は、できるだけ糖質を取らない食事療法へと変えました。
すると、わずか2週間で、空腹時血糖値が90㎎/㎗まで下がったのです。さらに中性脂肪値も下がり、善玉コレステロールと呼ばれるHDLが増えてきました。私の体にとって、糖質は不要なものだったのです。
糖質の取り過ぎは活性酸素を増やす
「糖質は不要」
実は、これは糖尿病患者だけでなく、50歳以上の人すべてに当てはまります。
人間の体は、酸素や食物をエネルギーに変えるために、「解糖エンジン」と「ミトコンドリアエンジン」の、2種類のエンジンを持っています。このエンジンは、50歳前後を境に、メインとサブが入れ替わります。
解糖エンジンは、糖を燃料としてエネルギーを作ります。血中のブドウ糖を利用して、瞬時にエネルギーを作れるのが特徴です。皮膚や筋肉、精子、骨髄細胞など分裂の盛んな細胞は、解糖エンジンで作られるエネルギーで活動しています。
これに対し、ミトコンドリアエンジンは、酸素を燃料としてエネルギーを作ります。瞬発力はありませんが、持続力に優れており、心臓や脳細胞など、持続してエネルギーの必要な部位への供給を担当しています。
若くて活動的な時期は、瞬発力に優れる解糖エンジンが活躍します。しかし、瞬発力より持続力が求められる中年期以降は、解糖エンジンはさほど必要ではありません。
もちろん、中年期以降に、解糖エンジンがまったく働かなくなるわけではありません。ただ、糖質の取り過ぎで、解糖エンジンの活動が活発になり過ぎると、ミトコンドリアエンジンがうまく働かなくなります。その結果、本来なら燃料として使われるべき酸素が、体内で活性酸素に変わってしまうのです。
活性酸素は、体内で増え過ぎると病気や老化の一因となる物質です。日本人の四大疾病(ガン、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病)にも、活性酸素が関係しています。
また、近年の研究で、活性酸素がアルツハイマーとかかわっていることがわかりました。脳血管性認知症も、活性酸素によって脳の血管に障害が起こることで生じます。ですから、活性酸素の害を減らすためにも、糖質は控えたほうがいいのです。

「でも、脳のエネルギー源はブドウ糖だから、糖質を制限すると頭が働かなくなる」と思う人も多いでしょう。私も、昔はそう信じていました。
しかし、「糖質制限食」に切り替えても、頭の働きが衰えたとは感じていません。むしろ、以前よりイライラしなくなったと思います。加えて体重も減り、糖尿病になったときは83kgだった体重が、現在は73kgになりました(身長は179cm)。
50歳になったら糖質を控える。これが健康と長生きの秘訣だと、私は考えます。ぜひ、皆さんも実践してみてください。
解説者のプロフィール

「健康と長生きの秘訣」と藤田先生
藤田紘一郎(ふじた・こういちろう)
1939年、中国(旧満州)生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学医学系大学院博士課程修了。医学博士。
金沢医科大学教授、長崎大学教授、東京医科歯科大学大学院教授を経て現職。
2000年に、日本文化振興会・社会文化賞、及び国際文化栄誉賞を受賞。
『脳はバカ、腸はかしこい』(三五館)をはじめ、著書多数。