解説者のプロフィール

斎藤嘉美
介護老人保健施設 むくげのいえ 施設長。
1932年、東京生まれ。東京大学医学部卒業。
東京大学医学部講師を退官後、西新井病院内科医師などを経て、現職に至る。
日本脈管学会評議員。日本血液学会認定医・指導医。

玉ねぎには血圧を下げる効果があると実験で判明!
私はこれまで、さまざまな食品の効能を研究してきました。その中で出会ったのがタマネギです。
私が行ったマウス(実験用のネズミ)を使った実験では、タマネギに血圧を下げる働きがあることを確認しました。
遺伝的に高血圧になりやすいマウスに、タマネギのエキスを飼料として投与しました。対照群として、タマネギのエキスの代わりに、カボチャのエキスを与えた群、カボチャとタマネギの両方を与えた群、何も与えなかった群に分けて実験しました。
すると、何も与えなかった群以外は、いずれも4週間後から、血圧が下がり始め、その後も継続して下がったのです。また、タマネギとカボチャを与えた群、タマネギを与えた群、カボチャを与えた群の順に、血圧が大きく下がりました。
玉ねぎとカボチャを一緒に食べると血圧を下げる働きがさらに強まる
カボチャは、「冬至にカボチャを食べると脳卒中にならない」などといわれる健康野菜なので、タマネギとの比較実験をしてみたわけです。
この実験の結果、タマネギはそれだけで血圧を下げる働きが強いこと、タマネギとほぼ同じくらいカボチャにも血圧を下げる働きがあること、血圧を下げる働きを強めるためには、タマネギとカボチャをいっしょに食べるとさらにいいこと、などがわかりました。また、血圧が高かったマウスほど、血圧がよく下がりました。
高血圧の人は、タマネギを積極的に食べましょう。
タマネギには、イソアリインという硫黄化合物と、アリナーゼという酵素(消化や呼吸など、体内で行われる化学反応を促進する物質)が、別々に含まれています。タマネギを切って、空気にふれることで、この2つの成分が混ざり合い、チオスルフィネートという別の物質に生まれ変わります。
スライスして20分置いてから食べると薬効がアップ
このチオスルフィネートは、ガンの発生を抑制し、ぜんそく発作をおさえ、痛みを鎮め、血糖値を下げる、と実に多くの薬効が確認されているのです。
血小板の凝集を抑制する働きも認められています。血小板は、血液中の細胞の一つで、血管が傷ついたときに凝集して傷をふさぎます。ところが、血液中で固まると血栓となり、血管をふさいで、脳卒中や心臓病の原因となってしまうのです。
このチオスルフィネートは、タマネギを切って、20分を経過しないとできない物質です。そして、水にさらすと流れてしまいます。
ですから、タマネギの薬効を得るには、できるだけ断面が空気にふれるようにスライスして、20分は置いてから食べるようにしましょう。
脳卒中や心臓病から白内障まで防ぐ!玉ねぎの様々な健康効果
チオスルフィネートを作るイソアリインは、ビタミンB1と結合してアリチアミンという物質になります。アリチアミンは糖の代謝を高める物質です。糖の代謝が高まると、疲労物質の乳酸ができにくくなり、疲労回復効果が高まります。
ビタミンB1を多く含む食品といえば豚肉ですから、豚肉とタマネギを合わせたカツ丼は、疲労回復にはもってこいなのです。
さらにイソアリインは、一部が体内でサイクロアリインという物質に変化します。サイクロアリインは血液凝固を抑制する作用、血栓を溶解させる作用、体内の脂質を減少させる作用などに優れています。血栓を防ぐ効果が高いので、脳卒中や心臓病といった、死につながる病気を未然に防ぐ働きも、タマネギには期待できるのです。
また、タマネギにはさまざまな硫黄化合物が含まれています。タマネギ独特のにおいは、これら硫黄化合物のにおいですが、これらの物質も実に多くの薬効を持っています。
特に、血糖値や脂質の検査値を低下させる働きは、ほかの食品と比べても強いものです。ですから、中性脂肪やコレステロールの値が高い人にも、タマネギはお勧めです。
最近、注目されているのが抗酸化作用です。体内の活性酸素という物質は、ガンや老化の原因となります。これらの活性酸素の力をおさえ、無毒化する働きを抗酸化作用といいます。
タマネギには、質的にも量的にも優れた抗酸化物質、ケルセチンが含まれているのです。
タマネギに含まれるグルタチオンという物質は、人体では肝臓や眼球に多く含まれています。グルタチオンが不足すると、肝機能が低下したり、白内障(目をカメラにたとえたときにレンズに当たる水晶体が白く濁る病気)を起こしやすくなったりします。
タマネギを食べるとグルタチオンが摂取できますから、肝機能が高まり、白内障になりにくくなるでしょう。
また、アメリカのニューヨーク州にあるコーネル大学の研究によると、タマネギに大腸ガンや肝臓ガンを抑制する効果があることもわかってきました。
この研究は、ガン細胞にタマネギから抽出した物質を加えて、ガン細胞の生成に与える影響を調べたものです。その結果、ある種のタマネギには、大腸ガン、肝臓ガンを抑制する効果があったそうです。
タマネギはどのくらいの量を食べればよいか
では実際に、タマネギをどの程度の量食べれば、病気を防ぐ効果が期待できるのでしょう。
血栓の予防、脂質の検査値の改善、高血圧の抑制、糖尿病の防止、気管支ぜんそくの改善、骨粗鬆症(骨がもろくなる病気)の予防などには、1日に50g、つまりタマネギ4分の1個でじゅうぶんです。
においの強いタマネギほど、効果も高いようです。