手元が見えないと人生の質も変わる
本を読んだり、パソコンやスマートフォンを使ったり、生活の中では遠くを見るよりも、近くを見ることのほうが圧倒的に多いものです。そのため、近くがよく見えないと非常に不便で、目が疲れてくると作業を中断しなければなりません。
逆に、近くがよく見えれば、好きなだけ本を読み、やりたいことを集中して続けることができます。長い年月には、作業を続けて成し遂げたことも、本や新聞を読んで得た知識の量も、近くが見えると見えないでは、まったく違ってきてしまいます。人生において近くが見えないことは、損をしているといっても過言ではないのです。
近くがよく見えない原因には、遠視と老眼があります。
遠視は、カメラでいえばフィルムの役目をする網膜の後ろで、ピントが合ってしまいます。そのため、網膜にピントを合わせるには、近くを見るときも、遠くを見るときも、カメラのレンズに当たる水晶体の厚さを調節しなければなりません。
老眼は、老化により水晶体が硬くなり、ピント調節力が低下して起こります。
水晶体の厚さを調節するのが、水晶体を周囲で支えている毛様体筋です。目は、この毛様体筋を緊張させたりゆるめることで、水晶体の厚さを変えてピントを合わせます。ですから、遠視では毛様体筋が酷使され、老眼では硬くなった水晶体を調節しようとがんばるので、毛様体筋が疲弊してしまいます。
目のピント調整のしくみ

老眼の場合、水晶体が年齢とともに硬くなるのは、避けようがありません。しかし、毛様体筋を鍛えれば、老眼の進行をある程度遅らせることができます。その方法の一つが、「毛様体筋ストレッチ」です。
毛様体筋ストレッチのやり方

ポイントは遠近にピントを合わせること
毎日このストレッチをすることで、老眼による目の疲れ方は大きく違ってきます。やり方は簡単です。電車やバスを待つ間や入浴中など、いつでもどこでもできます。目に疲労を感じたときや、細かい作業の前後にしておくのも、よいでしょう。
ピントが合わないと毛様体筋が動かないので、ただ遠くを見ただけで視力が上がることは、ありません。大切なのは、毛様体筋を動かすことです。近くでピントを合わせてから、少し離れた距離でピントを合わせるように、ストレッチを行いましょう。
毛様体筋ストレッチに加えて、10分目を使ったら、1〜2秒視線をそらして遠くにピントを合わせることを習慣にするのもお勧めです。目の疲れ方が、驚くほど変わってきます。
目は体の中で、唯一、内臓や血管の働きを調整する自律神経の交感神経(全身の活動力を高める神経)と副交感神経(心身をリラックスさせる神経)の、両方が存在する器官です。近くを見るときは副交感神経が働き、遠くを見るときには交感神経が働きます。
ピント合わせがずれると、交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかなくなります。それにより、自律神経のバランスがくずれ、自律神経失調症の引き金になることさえあります。
少し離さないと手元が見えづらくなって老眼だと気付く人が多いのですが、夕方、遠くが見えにくくなったら、それはもう老眼の始まりです。肩こりがひどくなり、頭痛が頻繁に起こるようになったときも、老眼が始まったサイン。
老眼も病気と同じで、早い対処が功を奏します。毛様体筋ストレッチを早い時期からやっておくと、本格的に老眼になるのを防げます。
もちろん、もう手元が見えづらくなっている人にも、老眼の進行を遅らせる、あるいは目を疲れにくくするということで有効です。
「老眼は人生の損」と眼科医の梶田先生