高血圧の人に急激な変化は大きなリスク
冬や春先は、血圧の高い人にとって、危険な季節です。寒いと、血圧が上がりやすくなるからです。また、ふだんは血圧が正常でも、冬になると高くなる「冬だけ高血圧」の人もいます。
なぜ、寒くなると血圧が上がるのでしょうか。それは、寒いと血管が収縮するという体のメカニズムがあるからです。
人間の体は、体温を一定に保つために、暑いときは血管を開いて熱を放出し、寒いときは血管を縮めて熱を逃がさないようにしています。
血管が縮むと、心臓は大きな力で血液を送り出さなければなりません。そのため、冬は必然的に血圧が上昇しやすくなります。反対に、血管が開いていれば、心臓から送り出す力は小さくて済み、血圧は下がりやすくなります。
また、冬になると鍋物などの料理がふえ、塩分をとりすぎる傾向があります。しかも、あまり汗をかかないので、体内にナトリウムが多くなり、血圧が上がりやすくなるのです。
冬の間、特に気をつけなければならないのは、急激な温度の変化です。暖かいところからいきなり寒いところに行くと、それまで開いていた血管がギュッと縮みます。すると、血液が流れにくくなるので、心臓はもっと血液を流そうとして血管に圧をかけます。
その結果、血管にも心臓にも過剰な負担がかかり、血管が詰まったり破れたりします。それが脳の血管で起これば脳卒中、心臓の血管で起これば心筋梗塞になります。
しかし、こうしたことは、脳や心臓の血管だけで起こっているわけではありません。腎臓や脾臓、足の血管など、全身で起こっています。症状がないので、気がつかないだけなのです。その中でも、とりわけ脳卒中や心筋梗塞が怖いのは、命にかかわる病気だからです。だからこそ、寒い冬は注意が必要です。
冬、トイレやおふろ場で倒れる人が多いのも、急激な温度変化によります。夜間のトイレは、寒さによって血圧が上がるだけでなく、たまっていた尿を排泄することでも血圧が急激に下がります。それが、転倒の原因になります。
また、冷たい状態から熱い状態に急激に変わるのもよくありません。体が冷えた状態でいきなり熱いふろに入ると、交感神経(自律神経の一つで体を活動的にする神経)が緊張して急激に血圧が上がります。体が温まってくると血管が開いて血圧は下がりますが、その状態で急に立ち上がると、脳の血流が少なくなって倒れることがあります。
おふろ場での転倒は、急激な温度変化だけでなく、「急に立ち上がる」といった動作・姿勢の変化が引き金になります。温度差にしても動作にしても、急激な変化は高血圧の人にとって大きなリスクになります。
また、血圧の高い人は、冬の運動などにも注意が必要です。具体的にどのように気をつけたらよいのか、「ポカポカ高血圧対策」をご紹介します。
マフラーや手袋は家の中でつけて外出
◎急激な温度差を避ける
室内だけでなく、トイレや浴室、脱衣所なども暖かくして、温度差をなるべく少なくします。夜中にトイレに行くときは、寒くないように、厚手の上着や靴下を着用してください。
布団から出るときは、布団の中で軽い運動をし、体を温めてから起きるようにします。寝ながら足首を曲げ伸ばしする運動をすると、ふくらはぎのポンプ作用で血液循環がよくなり、体が温まります。
外出するときは、首や手を冷やさないことが大事です。首には太い頸動脈が通っており、手には毛細血管網がヤシの木のような形で広がっています。そこが一瞬でも冷たい外気にふれると急激に体が冷え、血圧が上がります。ですから、あらかじめ家の中でマフラーや手袋をつけてから、外に出ることが重要です。寒い外に出てからつけるのでは、遅すぎます。
また、熱いおふろには入らないようにしましょう。ぬるめのお湯(40度くらい)にゆっくりつかってください。
◎急激な姿勢の変化をしない
朝起きるときは飛び起きたりせず、ゆっくり立ち上がるようにします。おふろから出るときも、ゆっくり立ち上がってください。
◎そのほかの注意
外でウォーキングなどをするときは、しっかり防寒をします。あまり寒いときに、無理して戸外で運動することはありません。寒さや、「やりたくない」と思うこと自体がストレスになり、血圧を上げます。寒いときは、室内で体を動かすほうが安全です。
解説者のプロフィール

高沢謙二
東京医科大学教授・東京医科大学八王子医療センター病院長。医学博士。東京医科大学卒業後、同大学大学院修了。日本循環器学会評議員。日本高血圧学会会員。日本動脈硬化学会会員。加速度脈波の波形解析による血管年齢を発案し、世界的に注目される。著書に『血管年齢が若返る本』(マキノ出版)、監修に『100歳まで切れない詰まらないタフな血管をつくる!』(マキノ出版)など多数。
外出時は首や手を冷やさないことが大事!