冬の朝に多い脳卒中は気温の変化が原因
突然ですが、室温25℃の温かい部屋から、5℃の冷たい場所へ移動すると、人間の血圧はどう変化すると思いますか。
私は血圧の仕組みを知るために1日24時間、5分間隔で血圧を測定し続けています。冒頭の状況も、気温の変化によって血圧がどう変化するかというデータをとるために、自分の体で実験しました。
結果は、最大血圧が130㎜Hg弱の正常値から5分で160㎜Hgまで急上昇し、その後はゆっくりと下がりました。
いったん血圧が上がっても、その後、元に戻るのであれば健康に問題はないと思う人もいるかもしれません。しかし、短時間での血圧の急上昇は血管に大きな負担をかけます。その結果、脳卒中や心筋梗塞に至る例も少なくありません。
冬の朝に脳卒中で倒れる人は多く、それは暖かい寝室から寒いトイレへ行くといった室温の変化によって血圧が急上昇することと関連性があります。
暖かい場所から寒い場所へ移動すると、体温を逃がさないために手足などの末端の血管が収縮します。この血管の収縮によって血圧が急上昇するのです。
マスク、マフラー、手袋で血圧上昇を回避
このような血圧上昇を防ぐために、私は冬の外出時には「ママ手」をお勧めしています。
「ママ手」とは、「マスク」「マフラー」「手袋」の三つの頭文字をとって名付けました。この三つで首と鼻、手を温めれば、急な寒さによる血圧の急上昇は防げます。
首には、動静脈吻合という血管を開くセンサーがあります。
動静脈吻合は手や足などの毛細血管の手前に多く、毛細血管の収縮・拡張で補えない体温の調節をするために、これが存在すると考えられています。
ですから、あらかじめ動静脈吻合を開いておけば、急に寒い場所へ行っても、手足の血管が収縮して血圧が急上昇することはありません。
首にはこの動静脈吻合を開くセンサーがあります。なぜ首を温めると動静脈吻合が開くのか、正確なメカニズムはわかっていませんが、おそらくは頸椎に集中している自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)と関係があるのでしょう。
動静脈吻合はマフラーで首を温めておけば開くので、これだけで血圧の急上昇は防げます。ただ、首を温めてから動静脈吻合が開くまで、30分ほどかかるといわれています。外出時には、その30分前から室内でマフラーを首に巻いておくようにしましょう。
血圧の急上昇を防ぐためには、帰宅後も室内が十分暖まるまで、マフラーやコートは着用し続けることをお勧めします。
ちなみに私は、冬の間は室内でつねに首にタオルを巻いて過ごしていて、寝るときも首のタオルは外しません。簡単なことですが、血管に負担をかけないためには効果抜群です。
古い家屋は気密性が低く、昭和の時代は隙間風でヒヤリとすることがよくありました。コタツなどの局所暖房で満足してしまう人も多いですが、こうした環境は体の一部しか温まらないため、冷えた血管に負担がかかって血圧の急上昇を招きます。室内でも脳卒中は起こります。不安な人は、ぜひ室内でタオルで首を温めてください。
マスクは、鼻を温めるためにつけます。私は鼻と血流・血圧にはなんらかの関連があると考えています。知人の臨床検査技師は、鼻の穴に綿を入れて鼻を温めたところ、手の体温が上がることを確認しています。
カゼをひくなどして鼻が詰まると血圧が上がることがありますが、面白いことに、両穴が詰まった状態から片穴の詰まりが解消すると、血圧も下がるのです。マスクを着用して手足の血管収縮を防ぎつつ、それとともに寒暖差から鼻を守り、鼻づまりを防ぐことは、血圧の急上昇や冷えを防ぐのに役立ちます。

室内で手袋を着けてツボ刺激
手袋は、手指の血管が冷えで収縮するのを防ぎ、手の甲にある「合谷」というツボも温められます。合谷は人さし指と親指の骨が交わっているくぼみにあるツボで、頭痛や歯痛、五十肩などのツボです。合谷への刺激で、肩の体温が1℃上がるという報告もあります。
ただ、合谷への指圧は少々痛むのが難点です。私は、お茶を飲むときに湯のみで合谷を温めています。こうした温刺激でも合谷は十分刺激できますし、手袋でも効果は期待できます。指先が開いた手袋でも効果を見込めます。
冬の外出時、そして室内でのリラックスには、どうぞ「ママ手」をお忘れなく。

渡辺尚彦
東京女子医科大学医学部教授(東医療センター内科)。『血液循環の専門医が見つけた 押すだけで体じゅうの血がめぐる長生きスイッチ』(サンマーク出版)発売中。