
耳をもんで温かくならなければ要注意
顔は常に外気にさらされているのに、どんなに寒い所にいても、最後まで凍傷にかかりません。なぜなら、顔は陽気(陽の生命エネルギー)が現れるところだからです。
東洋医学には、陰陽という相反する概念があります。これを簡単にいうと、陽は熱くて活動的な状態で、陰は冷たくて静的な状態です。
体内では、陰陽二つの気が、バランスを取りながら流転しています。流転が滞って陽気や陰気が不足すると、体に不調が生じると考えられています。
顔は陽の経絡(生命エネルギーの通り道)がたくさん通っており、陽のエネルギーに守られています。ですから、もし顔色が悪いときは、陽気が不足して内臓のどこかに異常がある印です。
この、顔の陽気を微調整しているのが耳です。健康な人は耳をもむとピンク色に変わり、ポカポカしてきます。これは、そこに陽の気が十分あることを示しています。耳は顔の一部ですから、耳をよくもめば、顔の陽気も増えてくるわけです。
一方、耳をいくらもんでも温かくならない人は、腎気(腎の生命エネルギー)が不足していると私たちは解釈しています。
東洋医学では、耳は腎とつながっており、腎気が不足すると耳鳴りや難聴といった耳の症状が現れます。
ちなみに腎とは、解剖学的にいえば腎臓のことですが、東洋医学の概念ではそれだけにとどまりません。
腎は「先天の気(生まれながらの生命力)」が宿るところとされ、人間の成長や発育、生殖能力、水分代謝などに深くかかわっています。腎気は、人間が健康に生きる上で、非常に重要なエネルギーなのです。
耳がピンク色になるまでよくもむ
このように耳鳴りや難聴は腎の低下に起因していますが、実際に強いストレスのあるときや疲れているときに、耳鳴りはよく起こります。体力が弱っているときは腎気も不足しているときですから、耳鳴りが起こりやすいのです。
そういうときは、耳全体をよくもんで腎気を高めてください。その上で、耳鳴り・難聴のツボをもみほぐします。
①聴宮 耳の穴の前に、耳珠という三角形の突起があります。その前に、口を開けるとへこむところがあります。そのへこんだところが聴宮です。そこに人さし指の腹を当て、円を描くようによくもみます。口を開けてもむと、刺激がより深く入って効果が高まります。
②翳風 耳たぶの後ろの、骨がくぼんでいるところにあるツボです。くぼみに親指の腹を当て、軽く圧をかけながらもみます。
耳鳴りや難聴のある人は、症状が片側だけに出ていても、左右両方のツボをもみます。耳がピンク色になるまで、2〜3分もんでください。1日に何度ももむといいでしょう。
初期の耳鳴りや難聴なら、1週間くらい続けると改善していきます。私の経験では、高音の耳鳴りより、ブーンというような低い音の耳鳴りによく効くようです。
ひどい耳鳴りや、進行した難聴は、耳もみだけではなかなか改善しません。しかし、次のように、重度の耳鳴りが改善したケースもありますから、あきらめないでください。
Fさん(30代・女性)は育児の疲れが重なって、激しい耳鳴りに悩まされていました。頭がガンガンするような耳鳴りで、ノイローゼのような状態になってしまい、子育てもできなくなってしまいました。
そこで、この耳もみをやってもらいました。もともと冷え症で、腎が弱かったFさんですが、一生懸命続けた効果が出て、体調のよいときはほとんど耳鳴りが気にならなくなったそうです。
これで耳鳴りが完治したわけではありませんが、子育てにも支障がなくなり、気持ちが安定したと喜んでいました。
耳鳴りはストレスや体の疲れも関係しているので、疲れをためず、気持ちをリラックスさせることも大事です。
腎気を養うには、耳をもむだけでなく、普段から耳をよく触ってください。耳を引っ張ったりこすったりしていると、耳が温まり血行がよくなって、腎気が増してきます。
また、寒いときは耳当てなどをして耳を温めるだけでも、効果があります。お風呂に入ったとき
は、耳をきれいに洗うといいでしょう。耳の刺激になりますし、気分もよくなります。
耳鳴りと難聴に効く耳ツボの温め刺激のやり方

解説者のプロフィール

内田輝和
1949年生まれ。倉敷芸術科学大学教授。関西鍼灸柔整専門学校卒業。
鍼メディカルうちだを岡山と東京に開設。
『10秒顔さすりで老眼、近視、緑内障はよくなる』(主婦の友社)など、著書多数。
●鍼メディカルうちだ
http://medical-uchida.com/