
脳の血流がよくなり脳血栓を防ぐ
私のクリニックでは、さまざまな病気の治療に温熱療法を取り入れています。体が温かくなると、自律神経の働きがよくなり、内臓の機能が改善するからです。すると、免疫力が高まって、生活習慣病であるガンはもとより、精神疾患、慢性疲労症候群(原因不明の強度の疲労が長期間、継続する病気)や線維筋痛症(全身に激しい痛みが生じる原因不明の病気)などの難病に至るまで治療効果が現れます。
特に冬場は、日常的に体を温めて冷えを解消し、全身の血流をよくすることが大切です。その際、どの部位を温めたらいいのかは、その人の症状によって異なります。ただし、多くの症状に効果が現れやすい部位は、耳です。ですから、耳を温めるのがお勧めです。
耳には、全身のあらゆるツボが集まっています。さらに、耳には脳神経である迷走神経(運動神経や知覚神経および、自律神経の副交感神経を含む混合神経)が走っています。そのため、耳を温めると迷走神経を介し、気管支や食道、心臓、胃、腸などの、内臓機能の働きが活性化するのです。
これにより、便秘や下痢、頭痛や胃痛、心臓疾患や呼吸器疾患を予防することができます。さらに、内臓の働きがよくなれば、全身の血行も改善されて、全身に活力がみなぎり、疲れにくい体になります。
耳を温めることは、うつ病や不眠症などの精神疾患にも、有効です。これらは、脳の血流障害が大きな原因ですが、耳を温めると脳全体の血液循環がよくなり、症状が改善するのです。
実際、うつ病や不眠症の患者さんの耳を温めると、すぐに効果が現れます。それは、精神科で処方された抗うつ剤よりも、効きめが早いほどです。「気分が落ち着く」「不安感が軽減する」「眠りやすくなる」といった声を多く聞きます。
また、耳鳴りや難聴、三半規管(内耳にある平衡感覚をつかさどる器官)の障害によるめまいといった、耳にまつわる疾患にも効果が期待できます。これらも、脳の血流がよくなることで改善するのです。
そのほか、耳を温めて、脳の血流をよくしておくことは、脳血栓や高血圧、糖尿病などの予防や改善にもつながります。


気持ちいいと感じると免疫力が高まる
ところで、私のクリニックでは、お灸で耳を温めています。耳にお灸をすると、ゆっくりと熱が体に入っていき、悩んでいた症状がびっくりするほど早く改善するのです。しかし、この方法を家庭で行うのは、難しいことでしょう。
そこで、家庭でも簡単に実行できる耳の温め方を、いくつかご紹介することにしましょう。
まず、湯たんぽ、またはホットパット(電子レンジで温める温熱器具)を使って温める方法です。耳を中心に顔の側面に当て、じっと温めてください。両耳で5~10分も温めると、全身が温まり、快適になります。熱すぎたり、熱いのを我慢したりすることで、ヤケドしないように、注意してください。
次に、使い捨てカイロを用いる方法です。カイロで、耳の表側と裏側の両方を温めます。これを両耳で行ってください。時間は、片耳で2~3分当てるのが目安です。こちらもヤケドに注意してください。
さらに、ドライヤーで温めてもいいでしょう。ドライヤーの温度を弱から中に設定し、耳から10cmくらい離して温風を当てます。耳が「アチチッ」と感じたら終了です。時間にすると、10秒ほどでしょうか。反対側の耳も温めます。
また、耳をマッサージするのも効果的です。両手で両耳のあちこちを、グニャグニャと折りたたむようにして刺激します。耳が温かくなって、気持ちよく感じるまで続けてください。
これらの方法のうち、どれをやってもけっこうです。いちばん気持ちいいものを習慣にするといいでしょう。首の血流もよくなり、首のこり、頭痛も楽になるはずです。
特に、就寝前に温めると、昼間の冷えが取れて眠りやすくなります。翌朝には、顔の血流もよくなって、美肌効果も得られるでしょう。
冬場は、外出時に耳を冷やさないことも重要です。耳当てや毛糸の帽子をかぶるなどして、防寒に努めましょう。
体が温まって、「気持ちいい」と感じると、内臓の働きを支配する自律神経のうち、副交感神経が優位になります。すると免疫力が高まるので、ぜひ自分に合った温め方で、しっかりと冷えを撃退してください。


班目健夫
1954年、山形県生まれ。岩手医科大学大学院にて、医学博士号取得。現在、青山・まだらめクリニック自律神経免疫治療研究所院長。著書に『「湯たんぽを使う」と美人になる』(マキノ出版)などがある。