解説者のプロフィール
毛細血管は全身の健康の要
私たちの体に、なくてはならない血液。その通り道である血管は、言うまでもなくとても重要です。
普通「血管」というと、ある程度太い動脈や静脈をイメージするでしょう。それらももちろん大切ですが、ここで話題にしたいのは、もっともっと細い「毛細血管」です。
毛細血管の直径は髪の毛の10分の1程度で、100分の1㎜以下です。ですから、観察しにくいこともあり、以前はそれほど研究されていませんでした。
ところが、分子生物学的な解析技術や、毛細血管を観察する技術が進歩して、研究が進むようになりました。
すると、毛細血管が、体内時計や自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)、ホルモンと連携して精密に働いており、体にとって重要な役割を担っていることが、再認識されるようになったのです。
私が客員教授を務めている、ハーバード大学やパリ大学でも、最近は毛細血管に関連した研究が盛んに行われています。
その大事な毛細血管を、しっかり働かせるのに役立つ食品の一つが「ショウガ」なのです。
ショウガについてお話しする前に、もう少し毛細血管の説明をしましょう。
人体の毛細血管は、仮に全部つなぐと10万㎞に及びます。長さでいうと、人体の血管のうち、99%は毛細血管です。それほど、体のすみずみまで張り巡らされているわけです。
毛細血管の役割は、血液中の栄養素や酸素を細胞に届け、老廃物や二酸化炭素を回収することです。つまり、細胞が生きるために、なくてはならないのが毛細血管なのです。ホルモンや免疫細胞、体熱などを体の必要な場所に届けるためにも、毛細血管が働いています。
この大事な毛細血管は、40代から劣化し始めます。
最初は、血管壁の細胞が脱落して、うまく血液が流れない「ゴースト化」と呼ばれる現象が起こってきます。ゴースト化した毛細血管は、血管はあっても、その機能を存分に果たすことができなくなっています。
そして、それをそのままにしておくと、毛細血管そのものがなくなってしまうのです。20代のときに比べ、60代になると、4割も毛細血管が減ることがわかっています。
すると当然、栄養素や酸素、ホルモン、免疫細胞など、組織に必要なものが十分に届けられなくなります。
その結果、生活習慣病をはじめ、脳・肌・髪の老化、胃腸や目の不調、免疫力(病気に対する抵抗力)の低下、冷えなど、さまざまな病気や症状が起こりやすくなり、悪化もしやすくなってしまいます。
毛細血管の健康度がわかるチェックリスト

血流促進効果で毛細血管を若返らせる
しかし、安心してください。食事や生活上のちょっとしたポイントを心がけるだけで、こうした事態が防げます。
それには、まず血流を増やすことが重要です。十分な血液が流れていない毛細血管は、ゴースト化しやすいからです。
逆に言うと、体のすみずみまで血流をよくしておけば、ゴースト化が防げます。さらに、血流を活発にすることで、ゴースト化した毛細血管を、元の状態に戻すこともできるのです。
そこで役立つのが、ショウガです。ショウガには、ジンゲロン、ショウガオール、ジンゲロールなど、ショウガ特有の成分が含まれています。これらが、血液を固まりにくくする作用や、血流を増やす作用、動脈硬化を抑制するのに役立つ抗酸化作用などを発揮します。
ショウガをとると、これらの成分が、血液を流れやすいサラサラの状態に保つうえ、動脈のしなやかさや弾力性を保って、血流を促してくれます。
すると、全身の血流がよくなります。その結果、毛細血管のゴースト化や消滅を防いだり、衰えた毛細血管をよみがえらせたりすることができるのです。
毛細血管を若返らせる生活のポイント

ルイボスティーやシナモンが効果
ショウガの摂取量は、特に決まっているわけではありませんが、目安として、1回5~10g程度を、できれば1日2~3回とるとよいでしょう。
同じような血液サラサラ効果や血流促進作用を持つ、酢やタマネギなどと組み合わせてとると、いっそう効果的です。
また、ルイボスティーやシナモンには、毛細血管を丈夫にする物質が含まれています。ルイボスティーやシナモンティーにおろしショウガを混ぜて飲めば、二重の意味で、毛細血管を強くする飲み物になります。
それと合わせて、適度な運動や、ぬるめの湯でじっくり温まる入浴などを行うと、さらに血流促進に効果的です。
先にも少し触れましたが、最近の研究によると、毛細血管は、自律神経を介して、人体に備わっている体内時計の支配も受けていることが、明らかになってきました。
日中は、自律神経のうちの交感神経が強く働き、毛細血管は収縮して、その血流は少なくなります。夜間は副交感神経が強く働き、毛細血管が拡張して、その血流が促されるのです。
一方、副交感神経の働きは、加齢とともに衰えてくることもわかっています。すると、相対的に交感神経が強くなり、毛細血管が緊張して、血流が悪くなってしまいます。
それを防ぐには、昼間は活動的に過ごし、夕方~夜はゆったり休むという、メリハリのある生活を送ることが大切です。
また、毛細血管が最もゆるんで血流がよくなるのは、夜間の睡眠時なので、しっかり睡眠を取ることも欠かせません。
朝や日中に太陽の光を浴びることで、夜は睡眠ホルモンが出て、眠りやすくなります。その意味でも、昼間は活動的に過ごすと、毛細血管をしっかり働かせることにつながるのです。
積極的にショウガをとるとともに、これらも心がければ、毛細血管の若さが保たれて、ひいては前述したような病気・症状の予防や改善に役立ちます。
今日から、ぜひ取り組んでみてください。
根来秀行
医師、医学博士。東京大学大学院医学系研究科内科学専攻博士課程修了。ハーバード大学医学部客員教授、パリ大学医学部客員教授、フランス国立保険医学研究機構客員教授、杏林大学医学部客員教授、事業構想大学院理事・教授。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など多岐にわたり、最先端の臨床、研究、医学教育の分野で国際的に活躍中。『「毛細血管」は増やすが勝ち!』(集英社)、『図解 毛細血管が寿命をのばす』(青春出版社)など、著書多数。