解説者のプロフィール

浅利妙峰(あさり・みょうほう)
糀屋本店女将。麹の素晴らしさを多くの人に知ってもらい、次の世代へと伝えていくために、麹を使った調味料やレシピの考案、料理教室などを精力的に行う「こうじ屋ウーマン」。近著に『浅利妙峰が伝える初めての糀料理』(西日本新聞社)
常備菜として とても重宝
皆さんは、「こうじ」を料理に使ったことがあるでしょうか。いえその前に、そもそもこうじを見たことがあるでしょうか。
こうじは日本の発酵食品(しょうゆ、みそ、酢、みりん、日本酒など)を作る上で、なくてはならないものです。それなのに、今ではすっかり私たちの生活の場から姿をひそめてしまいました。
私は、そのこうじを再び日本の家庭の台所に呼び戻したいと思い、2007年からこうじを使った料理の講習会を開いたり、新しい商品を開発したりしてきました。
その一つが、今回ご紹介する「こうじ納豆」です。
こうじ納豆は、もともと東北地方に伝わる保存食だそうです。それは、納豆に塩とこうじを加えて、夏でも納豆が傷まないように工夫したものです。それに似たものが、長崎の島原地方にもあると聞きました。私が作っているこうじ納豆は、その長崎のものが原形です。
私のこうじ納豆は、塩ではなくしょうゆで味付けして、こうじ、コンブ、ニンジン、ゴマを加えるもの。こうじの働きでそれぞれの材料の旨味や甘味が引き出され、まさに禁断の味です。これをごはんやめん類、生野菜と一緒に取るとおいしいと、大人気です。
お惣菜の色あいが濃いので、常備しておくと、とても重宝します。こうじ納豆さえあれば、特別なおかずはいらないかもしれません。
私はこのこうじ納豆を商品化し、レシピを公開して誰でも作れるようにしました。混ぜるだけでできるので、こうじさえあれば、どこのご家庭でも簡単に作れます。
実際に私の住む大分県佐伯市では、多くの主婦がこうじ納豆を作っています。よく食べている人に聞くと、「お通じがよくなった」「肌がきれいになった」という人も少なくありません。私もしばらく食べていないと、お通じが悪くなったり、今ひとつ調子が出なかったりします。
それも、考えてみれば当然のことです。こうじも納豆も、とても体によいものです。私は納豆については詳しくはありませんが、こうじについては多少の知識がありますので、少しお話しさせてください。

こうじは まさに栄養の宝庫
こうじは、蒸した米や麦、大豆などに、こうじ菌という微生物を繁殖させたものです。米で作ったものを米こうじ、麦で作ったものを麦こうじといいます。
こうじには、こうじ菌が作った栄養成分がぎっしり詰まっています。その中でも、とりわけ大きな働きをするのが酵素(体内での化学反応を促進する物質)です。こうじ菌は自分が繁殖するときに、100種類以上もの酵素を作り出すそうです。
特に、豊富に含まれているのが、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼの三大消化酵素です。アミラーゼはでんぷんをブドウ糖に、プロテアーゼはたんぱく質をアミノ酸に、リパーゼは脂肪を脂肪酸とグリセリンに分解する酵素です。これらの消化酵素が食品の旨味や甘味を引き出し、消化・吸収を助けてくれるのです。
酵素以外にも、脳の栄養となるブドウ糖、体内では作れない必須アミノ酸や天然吸収型ビタミン群(ビタミンB₁、B₂、B₆、パントテン酸、ビオチンなど)、メラニン色素を抑制するこうじ酸などが含まれています。
こうじは、まさに栄養の宝庫で、米こうじで作った甘酒は、「飲む点滴」と呼ばれるほどです。
ですから、期待される健康効果も多彩です。高血圧や肥満の予防、疲労回復、免疫力強化、整腸作用、アレルギー防止、美肌効果など、こうじにはさまざまな効用があるといわれています。これに、健康効果の高い納豆が加わるのですから、鬼に金棒です。
しかも納豆は、こうじと混ぜることで日持ちがよくなります。通常なら10日もすると白い斑点(チロシンというアミノ酸)が出て、アンモニア臭くなりますが、こうじ納豆にするとそれが抑えられるのです。
さらに、納豆特有のにおいやネバネバが薄くなりますから、納豆嫌いの人でも食べやすくなります。私のところにはオーストラリア人の女性スタッフがいますが、彼女は納豆がまったく食べられませんでした。でも、こうじ納豆ならおいしいと、トーストにつけて毎日のように食べています。
また、息子の友人のスリランカ人の男性も納豆が苦手でしたが、こうじ納豆を食べるようになってから、納豆が好きになったそうです。
こうじ納豆は、味に深みがあるので、淡白な味の生野菜にとてもよく合います。野菜嫌いの人でも、ドレッシング代わりに少量加えると、生野菜がどっさり食べられるはずです。
また、作ってすぐ食べられますが、2〜3日置くとさらにおいしくなります。保存は冷蔵庫で、1ヵ月くらい持ちます。
なお、こうじはこうじ専門店や、スーパー、デパートの納豆売り場や漬物売り場などで購入することができます。
「こうじ納豆」の作り方

【材料】
生こうじ※ 100g
ニンジン 1/2本
しょうゆ 大さじ5
みりん(または酒) 大さじ5
糸引き納豆 120g
塩ふきコンブ 12g
白ゴマ 適量
※乾燥こうじでもよい。

【作り方】
❶あらかじめ、こうじは手でほぐし、ニンジンは皮をむいて洗い、千切りにしておく。

❷鍋にしょうゆとみりんを入れて火にかけ、一煮立ちさせたら、①のニンジンを入れてさっと混ぜ、火を消す。

❸②に①のこうじを入れて合わせる。

❹少し冷めてから、糸引き納豆と塩ふきコンブを入れて混ぜ合わせる。

❺仕上げに、白ゴマをふって、軽く混ぜると出来上がり。

❻粗熱が取れたら密閉容器に移す。
※すぐに食べられるが、常備する場合は、冷蔵庫で保存する。賞味期間は冷蔵で1ヵ月が目安。

「こうじ納豆」の食べ方

こうじ納豆は、ごはんや冷ややっこ、うどん、パスタ、にゅうめんなどのめん類にのせたり、レタスや大根、キャベツ、セロリなどの生野菜につけたりすると、とてもおいしくいただけます。手巻きずしの具やチャーハンの味付けなどにもお勧め。
こうじ納豆の大根カナッペ

お酒のおつまみやおもてなしにもピッタリの超クイックメニュー。
[材料]
ニンジン………適量
ゴマ油…………少々
塩………………少々
大根……………適量
青ジソ…………数枚
麹納豆……適量
[作り方]
❶ニンジンは皮をむいて水で洗い細切りにし、ゴマ油と塩を合わせたものにつけてなじませておく。
❷大根と青ジソを水洗いし、水けをふく。大根は皮をむいて5㎜厚さの輪切りにする。
❸②の大根に麹納豆を適量のせると出来上がり。残った大根には青ジソを敷き、①のニンジンを適量のせる。
こうじ納豆のチャーハン

こうじ納豆を入れて炒めるだけ!絶妙な味わいが楽しめます。
[材料](2人分)
ネギ…………適量
ゴマ油………少々
ごはん………茶わん大盛り2杯
麹納豆…大さじ2
[作り方]
❶ネギを水洗いし小口切りにする。
❷熱したフライパンにゴマ油を入れ、ごはんと麹納豆を加えて、よく混ぜながら炒める。
❸ごはんがバラけてきたら、①のネギを加えて混ぜ合わすと出来上がり。