まずはこぶし大のトマト1個から始める
「食べ順療法」は、カロリー計算をする必要はありません。極端にいえば、食事の最初にまず野菜を食べる、それだけでよいのです。
ただ、より確実な効果を得るために押さえておきたい、ちょっとしたコツがあります。
普段、糖尿病の患者さんに食事指導をしている管理栄養士の立場からお話ししましょう。
(1)食事の最初に食べるのは野菜です。目標は1日400g。
厳密にする必要はありませんが、野菜の量が少な過ぎると、思ったような効果が得られません。
例えば、こぶし大のトマトなら1個100g程度あります。毎食1個食べれば、3食で300gです。習慣的に野菜を食べていなかった患者さんには、まずはトマト1個から食べましょうと指導しています。
慣れてきたら、それにブロッコリーや青菜類、キノコや海藻類を加えてもらいます。すると、目標の摂取量に到達しやすいのではないでしょうか。
野菜は生で食べても、調理して食べても構いません。
最近人気のシリコンスチーマーを使えば、レンジで手軽に蒸し野菜が作れます。おでんやシチュー、ポトフなどを一度にたくさん作り置きしておくのも便利です。

カボチャやレンコン、イモ類は要注意!
注意したいのは、イモ類、トウモロコシ、カボチャ、レンコンなどです。
これらは糖質が多いので、最初に食べてしまうと血糖値を急上昇させる恐れがあります。これらは、野菜ではなく炭水化物と考えたほうがよいでしょう。
(2)重要なことは、野菜を5分以上かけてゆっくり食べることです。
最後に炭水化物を食べるまでに、野菜の食物繊維の一部が腸に届いていなければ、血糖値の上昇を抑える効果を得られません。ゆっくり食べるコツは、よくかむこと。ひと口食べたら、それをかんで飲み込むまで、次の食べ物を口に入れないようにしましょう。
(3)野菜の次に食べるのは、たんぱく質のおかずです。
魚介類、肉、卵、大豆製品、乳製品をバランスよく食べましょう。
青魚には不飽和脂肪酸のEPA、DHAが含まれていて、動脈硬化の予防に効果的です。EPA、DHAは酸化されやすいので、新鮮な魚、特にお刺身を食べましょう。
ただし、肉類に含まれる脂質は飽和脂肪酸が多く、動脈硬化を促進させるので、取り過ぎに注意です。
また、脂質は血糖値にあまり影響しませんが、炭水化物と一緒に食べると、血糖値の高い状態が長時間にわたって持続することがわかっています。揚げ物は極力控え、天ぷらなどを食べるときは、できれば衣を取って食べることをお勧めします。
たんぱく質のおかずを食べるのにも、5分かけましょう。
(4)最後に炭水化物を食べます。 炭水化物とは、ごはん、パン、めん類、前述したイモ類など一部の野菜、豆類などです。
最初から食卓に炭水化物を出しておくと、つい手を出してしまいます。ごはんやパン、めん類は、野菜とおかずを食べ終わってから出すとよいでしょう。
ごはんだけでは食べにくいという場合は、肉や魚のおかずを少し残しておいて一緒に食べても構いません。おみそ汁は、ごはんと一緒に食べてもいいでしょう。
気を付けるのは食べる順番だけ
食べ順療法を行うと、今までよりも野菜の摂取量が必然的に多くなります。野菜には抗酸化作用の強い栄養素が含まれているので、糖尿病だけでなくさまざまな病気予防に役立ちます。
また、最初に野菜をよくかんで食べると、満腹中枢が刺激されるため、ごはんを食べるころには満腹になっています。そのため、無理に炭水化物を減らさなくても、自然に食べる量が減るというメリットもあります。
なお、おやつや甘いものは控えるに越したことはありませんが、あまり我慢しているとストレスがたまります。どうしても食べたいときは、午後3〜4時ごろに食べてください。食後に食べると、血糖値が上昇しやすいからです。
また、甘いお菓子、それにバナナ、柿、ブドウといった糖分の多い果物は、血糖値が上がりやすいことは頭の片隅に入れておいてください。
多少の注意点はありますが、食べ順療法では食べる順番に気をつける以外に、「してはいけないこと」はあえて設けていません。難しく考えず、とにかくまずは野菜を先に食べることから始めてみてください。
解説者のプロフィール

今井佐恵子
京都女子大学家政学部食物栄養学科教授。日本糖尿病療法指導士。管理栄養士の教育に携わりながら、糖尿病の食事療法の指導・研究を続ける。梶山先生との共著『糖尿病がよくなる!食べる順番療法』『元祖「食べ順」野菜から食べるおいしいレシピ集』(新星出版社)好評発売中。