解説者のプロフィール

白濱龍太郎(しらはま・りゅうたろう)
●RESM新横浜
神奈川県横浜市港北区新横浜3-8-12 丸八新横浜ビル4階
045-475-5155
http://www.resm.info/
睡眠専門医。睡眠、呼吸器内科、在宅医療の専門クリニック「RESM新横浜」院長。筑波大学医学群医学類卒業。東京医科歯科大学大学院統合呼吸器病学修了。東京共済病院、東京医科歯科大附属病院を経て2013年に「RESM新横浜」を開設。『1万人を治療した睡眠の名医が教える 誰でも簡単にぐっすり眠れるようになる方法』(アスコム)など、著書多数。
「深睡眠」が取れると疲れの8割は解消できる!
毎晩しっかり寝ているのに疲れが取れない人は、「深睡眠」が不足していると考えられます。
そもそも睡眠には、浅い眠りである「レム睡眠」と、深い眠りの「ノンレム睡眠」があります。レム睡眠は、眠りに入った直後や起きる間際の、ウトウトした状態です。体は休んでいますが、脳は活発に働いており、記憶の整理などが行われています。
ノンレム睡眠は、脳を休ませ、体の疲れを取るための睡眠です。脳も体も深い休息を取っています。ノンレム睡眠は、眠りの深さによって、3つのステージに分かれます(ステージ1〜3)。その中で、脳の働きがもっとも低下した深い眠りが、ステージ3の深睡眠です。
この深睡眠こそ、疲労解消に最重要なのです。深睡眠のときに、傷ついた細胞を修復する「成長ホルモン」が、もっとも分泌されるからです。
一晩の睡眠の流れを見ると、最初の深睡眠は、入眠から30分後にやってきます。次の深睡眠がやってくるのは、入眠から2〜4時間後です。睡眠の後半は、ステージ1〜2のノンレム睡眠が増えます。明け方には、レム睡眠が多くなり、目覚めやすい状態になります。
眠りに就いてから4時間以内に深睡眠がしっかり取れていれば、脳と体の疲れの8割は解消します。
1日の疲れを取るには、就寝時間や睡眠時間ではなく、「眠りに就いて4時間以内に、深睡眠を取ること」がたいせつなのです。しかし現代人の多くは、深夜にテレビやスマホを見たり、ストレスで体の緊張が取れなかったりして、本来の睡眠リズムが狂い、深睡眠を取りづらくなっています。
ぐっすりストレッチのやり方
私は、誰でも簡単に、深睡眠が取れるようになる方法を考えました。それが「ぐっすりストレッチ」です。
ぐっすりストレッチは、①首もみ ②腕回し ③足首曲げ の3種類です。所要時間は各1分。毎晩続けると、睡眠の質が格段に上がります。
STEP❶ 首の血管を温めて深部体温を上げる
1分間「 首もみストレッチ」
■入浴時(布団に入る1〜2時間前)に行う。

❶少し熱めシャワーを首の後ろに当て、首の筋肉と血管を温める。

❷シャワーを当てたまま、両手を組みながら両手の親指で首すじをもむ。首の横のくぼみを親指で軽くつまみ、手を上下にゆっくりと動かす。
STEP❷ 深部体温を上げる細胞を刺激
1分間「 腕回しストレッチ」
■布団に入る直前に行う。

❶両腕を曲げ、脇を開いて、ひじを上にあげる。

❷腕をそのまま後ろに向かって、肩甲骨を寄せるイメージで、大きくゆっくりと回す。

❸ひじが体の前にきたら、両手を組み、前に腕を伸ばす。

❹そのまま両腕を頭の上までもってきて、ぐっと伸ばす。腕を上に伸ばしたまま2秒ほどキープし、腕を下ろす。

❺①に戻る。①〜⑤の流れを1分間に5〜6回、ゆっくりとくり返す。
STEP❸ 神経をリラックスモードに切り替える
1分間「 足首曲げ深呼吸」
■布団に入ってから行う。

❶布団の上にあお向けになり、3秒くらいかけて鼻からゆっくりと息を吸いながら、足首を手前(体側)にぐっと曲げる。

❷3〜5秒くらいかけて口からゆっくりと息を吐きながら、足首の力を抜いて足首を元の位置に戻す。これを1分続ける。
【ポイント】
毎晩続けることで条件反射の回路ができ、眠りにつきやすくなります。継続したかたからは「毎朝必ず疲れが残っており、日中も体が重く、仕事に集中できませんでしたが、ストレッチを続けるうちに、疲れが一晩で消え、体が軽くなり、仕事のパフォーマンスも上がりました」(25歳女性)といった声をいただいています。
ぐっすりストレッチで 夜中に目覚める回数が半減
一般のかたに1週間、ぐっすりストレッチを続けてもらい、専用機器で、眠りの深さや寝つきのよさが、どう変わったかを調べました。
すると、深睡眠やノンレム睡眠の割合が増えて、「15分で眠れるようになった」「夜中に目が覚める回数が半減した」「翌日に疲れが残らなくなった」「日中の眠気がなくなった」といった変化がありました。
ぐっすりストレッチを続けると、なぜ眠りが深くなったり、寝つきが改善したりするのでしょうか。
眠りの質に大きく関係しているのが、「深部体温」と「自律神経」です。
深部体温とは、内臓など体の内部の体温のことです。朝目覚めるころから上がり始め、日中は高めのまま、夜にかけて低くなる、というリズムで深部体温は変わります。
そして人体には、「深部体温が下がると眠くなる」というしくみが備わっています。
自律神経は、内臓の働きや血圧、呼吸といった活動を調整する神経です。活動・緊張モードを司る交感神経と、休息・リラックスモードを司る副交感神経からなります。
日中は交感神経が優位に働き、夜になるにつれて副交感神経が優位になっていくことで、人は自然と眠りやすい状態になります。
①首もみは、首の後ろにシャワーを当てながら、首のこりをほぐすことで、血行を促し、深部体温を上昇させます。
②腕回しは、深部体温を上げてくれる「褐色脂肪細胞」が多く存在する肩甲骨周りを動かして、深部体温の上昇を促します。
③足首曲げは、動作と同時に呼吸をすることで、副交感神経を優位にし、体をリラックスさせる効果があります。また、足から熱を放出することで、上がった深部体温が下がり、自然と眠気が訪れます。
ぐっすりストレッチを実践して、本来の睡眠リズムを取り戻せば、深睡眠を取れるようになり、しつこい疲れも解消するでしょう。