解説者のプロフィール

梶本修身(かじもと・おさみ)
●東京疲労・睡眠クリニック
東京都港区新橋1-15-7 新橋NFビル3F
03-3504-0555
http://www.疲労クリニック.com/
東京疲労・睡眠クリニック院長。医学博士。
大阪大学大学院医学系研究科修了。大阪市立大学大学院疲労医学講座特任教授。2003年より産官学連携「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」統括責任者。『スッキリした朝に変わる睡眠の本』(PHP研究所)など、著書多数。
疲れたと感じるのは脳がサビつくから
あなたが「たまった疲れを取りたい」「疲れにくい体になりたい」と望むなら、疲労が起きるしくみを正しく知ることがたいせつです。
これまで、疲労が起きるのは、「エネルギーがなくなるから」「疲労物質が筋肉にたまるから」と考えられてきました。しかし、最新の研究によって、疲労が起きるほんとうの理由は、「自律神経の中枢がサビつくから」ということが、わかっています。
運動をしすぎたり、ストレスを抱えすぎていると、酸素の消費量が増えて、「活性酸素」が発生します。
活性酸素が増えると、正常な細胞をサビつかせたり、傷つけたりします。これが、老化や病気の原因になります。この活性酸素が、脳にある自律神経の中枢の細胞をサビつかせると、私たちは疲労を感じるのです。
ですから、疲れを取ったり軽くしたりするには、自律神経の中枢をサビつかせないことがたいせつです。
疲労についての研究は、2003年に「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」が始まったことで、大きく進歩しました。
ここまで話してきた内容も、研究で明らかになったことの一つです。そしてもちろん、疲労の回復や軽減についても、科学的に実証された方法がいくつかあります。
その中から今回は、疲れに効く食材として、「鶏の胸肉」を紹介します。
疲れの根本に直接効く「鶏の胸肉」
鶏の胸肉には、疲労を防ぐ効果が高い「イミダペプチド(イミダゾールジペプチド)」という成分が、豊富に含まれています。
イミダペプチドが優秀なのは、自律神経の中枢の細胞が酸化するのを防いでくれるところ(抗酸化作用)。イミダペプチドを摂取すると、疲労を抑えることができるわけです。
イミダペプチドは、体内に入ると、2種類のアミノ酸に分解されます。小さくなるので、イミダペプチドのままでは通れないところでも、血液に乗って通過でき、脳の中に入ることができます。
その後、脳にある自律神経の中枢で、2種類のアミノ酸は再び合成され、イミダペプチドに戻ります。そこで、抗酸化作用を発揮して、疲労を防いでくれるのです。
抗酸化作用のある成分といえば、ワインやチョコレートに含まれる「ポリフェノール」が、よく知られています。しかし、ポリフェノールが抗酸化作用を発揮してくれる時間は、約2時間と短く、自律神経の中枢に作用するのかどうかも、まだ確認できていません。
一方でイミダペプチドは、アミノ酸がある間は常に合成され続け、持続的に抗酸化作用を発揮します。ですから、鶏の胸肉を食べることは、確実な疲労対策になるのです。
疲労に打ち勝つ「昼の主役」
量としては、鶏の胸肉を1日に100g食べると、イミダペプチドを約200mg摂取できます。これは疲労を防ぐのにじゅうぶんな効果が得られる量です。
なお、鶏の胸肉より100gあたりの含有量は劣りますが、カツオや豚ロース肉にも、イミダペプチドが多く含まれています。また、鶏もも肉や豚もも肉にもイミダペプチドは含まれますが、前述の食材と比べると、含有量は劣ります。
とはいえ、忙しい毎日を考えると、食事のたびに鶏の胸肉を調理するのは面倒かもしれません。その点、レンジで簡単にできる「ほぐしチキン」を作り置きしておくと、毎食手間なく鶏の胸肉を食べられ、お勧めです。
注意点として、肉汁にイミダペプチドが溶け出すので、スープに入れるなど、肉汁も摂取してください。
朝・昼・夜と1日3回の食事のうち、摂取するのはいつでもOK。理想は、日中の疲労を起こす前、朝食にできるだけ取っておくといいでしょう。100gを1日に2〜3回に分けて摂取してもかまいません。
疲労に打ち勝つ対策としては、イミダペプチドが「昼の主役」で、「夜間の主役」は深い睡眠です。朝か昼に鶏の胸肉を取っておくと、自律神経の働きが正常に保たれやすく、睡眠の質も改善に向かうはずです。
レンジで簡単!「ほぐしチキン」の作り方
【材料】(3食分)
・鶏の胸肉…300g
・砂糖…大さじ1
・塩…小さじ1/2
【用意するもの】
・ボウル
・耐熱容器

❶鶏の胸肉をボウルに入れ、砂糖と塩をもみこむ。

❷耐熱容器に移し、肉の厚さが均等になるよう、身の薄い部分をたたみ、ラップをゆるくかける

❸電子レンジで3分加熱する。

❹一旦ふたを開けて熱を逃がしたら、再びふたをしてさらに2分加熱。加熱が終わったら、ふたを開けずに5〜6分保温し、余熱で火を通す。

❺ある程度冷ましたら、手で割いて、保存容器に移す。イミダペプチドが溶け出た肉汁も忘れずに入れ、一緒に食べる。

《+レモンで最強コンビ!》
疲労を防ぐ効果のあるイミダペプチドは、一度分解された後、脳で再合成され、持続的に効果を発揮する。対照的に、体内に入ってすぐ、抗酸化作用を発揮するのが「ビタミンC」。鶏の胸肉とともに、レモン汁などからビタミンCも一緒に取れば、短期的にも長期的にも効果のある「最強の疲労対策食」になる。