解説者のプロフィール

林 進
1956年生まれ。
東京慈恵会医科大学附属病院、同附属第三病院、同附属青戸病院(現・東京慈恵会医科大学葛飾医療センター)などでの勤務を経て、2013年より現職。
『低GIご飯が血糖値を下げる』(NHK出版)、など、著書・監修書多数。
酢の物を一緒に食べると血糖値が上がりにくい
糖尿病や肥満を予防するためには、食後の血糖値の上昇をなるべくゆるやかにすることが大切です。そのためには、「食事の量を減らさなくては」「ごはんやパンは極力食べないようにしなくては」と考えている人も多いのではないでしょうか。
でも、大丈夫。血糖値の急激な上昇を抑えるために、強力な助っ人となる食材があります。それは酢と牛乳です。この項では酢についてご紹介します。
さて、皆さんは、GI値をご存じでしょうか。グリセミック・インデックスの略で、糖質を摂取したことによる食後血糖値の上昇度合を示す指標です。つまり、その食品に含まれる「糖質の吸収度合」です。
食事をすれば誰でも血糖値は上がりますが、GI値の高い食品は血糖値が急激に上がり、GI値の低い食品は血糖値の上昇がゆるやかになります。
ごはんより、食パンやジャガイモのほうがGI値は高く、そばやパスタは、ごはんよりGI値が低くなります。
しかし、食事というのは、食材を単品だけで取ることはありません。近年の研究では、食品の組み合わせでGI値が変化することがわかっています。
現在、神奈川県立保健福祉大学教授である杉山みち子氏らによって、2003年に全国規模で計測されたデータがあります。ごはん食にさまざまな食品を組み合わせることで、GI値がどうなるかを調べたものです。この実験で116品目のGI値が明らかになりました。
それによると、白ごはん1膳にキュウリの酢の物を付け合わせるだけで、白ごはんだけを食べたときより食後血糖値の上昇がゆるやかになるということがわかりました。
また、同じキュウリでも、漬物になると、血糖値は逆に上がりやすくなってしまいます。つまり、酢が血糖値の急激な上昇を防ぐのです。

酢の酢酸成分が糖質の消化を遅らせる
酢が食後の血糖値を上げにくくするのは、酢に含まれるすっぱい成分である酢酸の働きによります。
酢は、まず口の中のだ液に含まれる消化酵素の働きを弱めます。消化酵素は、糖質の分解を助ける役割をしますが、その力が弱まることで、消化がゆっくりになるのです。
そしてもう一つ、酢酸には、食べ物を胃から小腸に送り出す時間を遅くする働きがあります。これも消化を遅らせる要因となります。
グラフをご覧ください。2011年に発表された、日本GI研究会による実験データです。
カップラーメンを普通に作り、それに酢を入れた場合と入れない場合それぞれの血糖値の推移を観察しました。カップラーメンに加えた酢の分量は、30g(約大さじ2杯)です。
すると、酢を入れて食べたほうが、明らかに血糖値の上昇がゆるやかになっていることがわかります。
レモンでも同じ効果がある
血糖値の上昇をゆるやかにするため、ぜひ食事に酢を取り入れましょう。酢が合う料理は、意外にたくさんあります。
ギョウザや冷麺、野菜炒めなど、中華料理にはたいがい合いますし、チャーハンや焼きそばにかけてもおいしくいただけます。あらかじめ、酢を入れて食べることを勧めているラーメン店もあるようです。
酢にコショウを入れただけでギョウザをいただくのもお勧めです。酢には塩味を引き立たせる効果があるので、しょうゆをかけなくても、素材の味わいが引き立って、おいしく食べられます。こうすると、減塩できるという大きなメリットもあります。
そのほか、衣が気になる鶏のから揚げにも、酢やレモン汁をかけて召し上がってください。焼き魚や焼き鳥、意外なところでは納豆やカレーにも合うという声を聞いたことがあります。
1回の食事で、だいたい大さじ1杯弱程度の酢を取れば、血糖値の上昇を抑える効果が期待できます。
酢の種類は、入手しやすい穀物酢が、味わいもさっぱりしていますし、値段も手ごろでよいかと思います。もちろん、その他の米酢や果実酢、黒酢など、お好みのもので構いません。
血糖値の上昇を防ぐ効果は、すっぱさのもとである酢酸によるものなので、酢の代わりに、レモンやライム、スダチやユズなどの柑橘類を使っても、同じような効果が得られます。
食卓にぜひ酢を入れた小びんを用意し、手軽にいろんな料理にかけてみましょう。自分だけの「おいしい組み合わせ」を見つけてください。