
梅の抗酸化・抗炎症 作用が肝障害を軽減
私は、肝臓内科の医師として、日々、患者さんの治療に当たっています。そんな中、肝炎や肝障害などの肝臓疾患に、意外な食品が効果を発揮することを突き止めました。その食品とは、梅エキスです。
梅は、古くは奈良時代から、焙煎したものが薬として利用されてきました。また、青梅をすりおろして加熱し、成分を抽出した濃縮液である梅肉エキスは、江戸時代後期から、疲労回復や食あたりに効く民間薬として使われていたといいます。
日清戦争(1894〜95年)の、まだ抗生物質がなかった時代に、軍医の築田多吉医師が、感染性の胃腸炎にかかった多数の兵隊を、梅肉エキスで助けた実話も残されています。
このように、昔から薬として活用されてきた梅には、肝臓疾患に対しても何かプラスの作用があるのではないか。そう考えた私たちの研究グループでは、数年前にある動物実験を行いました。肝障害を起こした実験用のネズミの腹部に、梅のエキスを注射したのです。
その結果、梅の抗酸化作用、抗炎症作用、解毒作用が肝障害を軽減することが確認できました。
医師指導型の臨床試験を実施
その後、食品としての安全性を確認したうえで、医師指導型の臨床試験(ヒトで有効性と安全性を調べる試験)に踏み切りました。2008年のことです。
この試験は、私が勤務する東京慈恵会医科大学附属病院と他の3つの病院の研究グループで行いました。
試験にご協力いただいたのは、インターフェロン(抗ウイルス作用などのあるたんぱく質の一種)や、肝庇護剤(肝臓の炎症をおさえる薬)を投与しても、じゅうぶんな効果が得られなかったC型慢性肝炎や、脂肪性肝障害などの患者さんです。
C型肝炎は、肝臓疾患の7割を占めるウイルス性肝炎(ウイルスに感染して肝障害が起こる病気)の1つです。その中でもC型肝炎は、慢性化しやすいという特徴があります。慢性肝炎が進行すると、肝硬変、さらに肝臓ガンへと重症化する可能性があります。
また、脂肪肝とは、肝臓に脂肪がたまって炎症が起こった状態で、これも放置しておくと、脂肪性肝炎から肝硬変へと進むおそれがあります。
C型慢性肝炎や脂肪肝の患者さん58人に3ヵ月間、液状の梅エキス6・5g(小さじ1杯強)を、1日に2回飲用してもらいました。そして、2週間ごとに、肝機能を示す値であるGPT(ALT値)やGOT(AST値)を調べる血液検査を行いました。
GPTもGOTも、本来は肝臓の細胞の中にある酵素です。肝細胞が破壊されると、血液中に出てくるので、これを測定することで、肝臓の損傷の程度がわかるわけです。
試験には、青梅の果肉と種を加熱、抽出した特別な梅エキスを使用しました。
梅エキス摂取による肝機能値の変化

NHKのテレビ番組『あさイチ』でも、試験結果が紹介
試験の経過ですが、6週間目の時点でGPT、GOTの明らかな低下が認められました。また、試験が終了する12週目になると、数値が半減している人も見られたのです。全体の平均値でいうと、試験開始前に113だったGPTが、終了後には75に下がり、103あったGOTは、68に下がっていました。
C型肝炎の場合、進行のスピードの目安になるのが、2つの数値のうちGPTです。今回の試験では、GPTの数値が30%以上下がった例を有効例としましたが、該当したのは全体の58%でした。つまり、半数以上のかたに改善が見られたことになり、これは、薬に匹敵する効果といえます。
特に、GPTの数値が高い患者さん、つまりC型肝炎が進行している患者さんほど、大幅な数値の低下が見られました。
また、肝機能値の低下を裏づけるように、試験の途中から、「疲れなくなった」「体が軽い」「調子がよくなった」といった、肝臓疾患特有の症状が軽減したという報告が、複数の患者さんから聞かれました。
梅エキスには大いに期待!
現段階では、こうした作用が梅の単独成分によるものなのか、複合成分によるものなのか、特定はしていません。少なくとも、梅エキスの継続飲用により、梅の抗酸化作用が発揮されて、C型慢性肝炎や脂肪肝の炎症が抑制されたことは間違いないでしょう。
これらの結果から、梅の抗酸化作用は、他の炎症性の疾患にも有効である可能性が、じゅうぶん考えられます。例えば、慢性疲労症候群、非アルコール性脂肪肝(飲酒の習慣がない人の脂肪肝)などに、梅エキスが効果を現す可能性はかなり高いと思われます。
この試験結果は、2010年の日本消化器病学会(第96回)の総会でも報告し、論文も発表しています。また、NHKのテレビ番組『あさイチ』でも、試験結果が紹介されました。放映後には、病院に梅エキスの問い合わせが殺到するなど、一般のかたがたの注目度も非常に高まっているようです。
今後も、医療に役立つ安全な食品の1つとして、梅エキスには大いに期待したいところです。