解説者のプロフィール

林 進
1956年生まれ。
東京慈恵会医科大学附属病院、同附属第三病院、同附属青戸病院(現・東京慈恵会医科大学葛飾医療センター)などでの勤務を経て、2013年より現職。
『低GIご飯が血糖値を下げる』(NHK出版)、など、著書・監修書多数。
コップ1杯の牛乳に、血糖値を下げる薬と同じ効果があることが判明
読者の皆さんの食事のお伴は、どんな飲み物でしょうか。
お水やお茶という人が多いと思いますが、血糖値が気になる人は、ぜひ食事どきに1杯の牛乳を飲んでください。
食事に牛乳というと、学校給食の風景を思い出されるかたもいると思いますが、特に牛乳が苦手ではなく、食事を制限せずに食べたいという人には、ぜひお勧めします。
グラフをご覧ください。
これは、城西大学薬学部の金本邦男教授らが行った比較実験の結果です。7名の健康な人を対象に、白いごはんを食べた後の血糖値の上昇の推移を、
①白米のみ(何も飲まない)
②白米と牛乳
③白米と血糖降下薬0・2mg
④白米と血糖降下薬0・3mg
以上の4パターンで観察しました。
牛乳はコップ1杯です。血糖降下薬は、「ボグリボース」というα‐グルコシターゼ阻害薬で、腸における糖分の消化吸収を遅らせて血糖値の急上昇を抑えます。
実験の結果、牛乳を飲むと、飲んでいないときより血糖値の上昇が抑えられることが判明しました(折れ線グラフ①と②参照)。
しかもその効果は、折れ線グラフ②と④を見てもわかるように、薬と同等以上です。たったコップ1杯の牛乳が、血糖降下薬と同じ効果があるというのは、注目に値するでしょう。

牛乳にはインスリン抵抗性症候群を改善する効果がある。牛乳が苦手な人はヨーグルトやチーズでも良い
牛乳が血糖値を上げにくくするのはどうしてでしょうか。
それは、牛乳に含まれている「乳糖」という成分自体の分解に時間がかかるため、食事全体の消化吸収速度がゆっくりになるからです。
加えて、乳脂肪の働きによって、食べたものが胃から腸に移行するのがゆっくりになることも、糖分の吸収を遅らせる一因であると考えられています。
また、インスリンが膵臓から分泌されているのに、分泌されたインスリンの働きが弱まってしまっている状態を「インスリン抵抗性症候群」といいます。
牛乳には、このインスリン抵抗性症候群を改善する働きがあるといわれています。つまり、分泌されたインスリンの働きそのものをよくする作用が期待できるのです。
インスリン抵抗性症候群は、糖尿病の発症だけでなく、高血圧や高脂血症とも深く関わっているといわれています。牛乳でぜひともインスリンの働きをよくしましょう。
なお、これらの牛乳の作用は、他の乳製品にも当てはまります。牛乳がどうしても苦手なかたは、ヨーグルトやチーズといった牛乳以外の乳製品を食事に加えましょう。
カレーにヨーグルトを加えたり、シチューにスキムミルクを入れたり、パスタに粉チーズをかけたりするとよいでしょう。塩分の取りすぎに注意しながら、うまく組み合わせてみてください。
1回の食事で飲む牛乳の量は、小さなコップ1杯(約100ml)ほどを目安にしましょう。
別の研究では、牛乳を飲むのは食前でも食後でも変わらず効果のあることがわかっています。もちろん、食事中でも構いません。ただし、食前や食後に1時間も空けてから飲んでも意味がなくなってしまうので、その点は注意してください。
牛乳の脂肪分が気になる人は、血糖値の上昇を抑える効果は若干劣りますが、低脂肪乳を飲んでもいいでしょう。食事療法は長く続けてこそ効果があります。