
現代人の足指は極度に衰えている
「ひざが痛む」「腰が痛い」というとき、多くの人はひざ、腰といった痛みのある場所に対してなんらかのケアをしようとします。
もちろん患部へのケアも、症状を緩和するには必要ですが、もっと根本的な意味で目を向けるべき場所があります。それは「足の指」です。
本来、人間の体は、足の指がきちんと地面につき、指で踏ん張る力を使ってこそ、正常なバランスが保たれるようになっています。
ところが、現代人の足指の力は、極度に衰えています。指の力で踏ん張るどころか、多くの人は足指が地面についていない「浮き指」と呼ばれる状態になっています。
下図をご覧ください。濃淡のある画像は、足の裏の圧力分布を調べる足底圧測定器の画像です。色が赤いところは、しっかり地面に重力がかかっている部分、水色などの薄いところはあまりかかっていない部分です。
測定器のセンサーは、ほんの少し触れただけでも反応します。しかし、上側の図では、足指の部分がまったく写っていません。足指で地面を「ほんの少し触れる」ことすらできていないのです。これが浮き指です。
浮指と正常な足指の違い

ひざ痛、腰痛、肩こり、首の痛み、ねこ背、O脚も浮き指の影響の可能性
私はこれまで、足底圧測定器を使って、老若男女10万人以上の足底圧を測ってきました。その結果、浮き指の人が男性では約7割、女性では約8割に上ることがわかっています。これは年齢に関係なく見られる傾向で、近年は増え続けています。日本人の足が病んでいるのです。
浮き指の人のほとんどは、自覚できておらず、自分では足の裏全体を地面につけて立っていると思い込んでいます。しかし、実際には指が浮いているので、重心が本来あるべき位置より後ろにずれています。
横から見ると、正常な足なら3点が地面について安定した歩行ができますが、浮き指だと不安定な2点歩行になっています(上図参照)。
不安定な後ろ重心や2点歩行をカバーするには、腰やひざに余分な力を入れて支えなければ、立つ、歩くといった基本動作さえできません。現代人のひざ痛や腰痛の大部分は、これが原因で起きているのです。
そのほか、肩こり、首の痛み、ねこ背、O脚なども、浮き指の影響で起きているケースが非常に多いのです。また、転倒しやすくなり、お年寄りでは寝たきりのきっかけを作ることにもなります。
足のすべての筋肉は足指につながっている
浮き指かどうかは、手のひらを平たく広げて、足の裏に当てることで簡単にわかります。
その状態で、足指が手のひらにつかない人や、足指に力を入れても手のひらでほとんど感じ取れない人は浮き指です。
足の裏には、重要なものだけでも8つの筋肉と2つの腱が存在しますが、これらはすべて足指につながっています。
ですから、足指を使わないことは、指だけの問題ではなく、足の裏全体の筋力低下に直結するのです。
例えば、ひざが痛いからひざ、腰が痛いから腰のケアをして、いっときは痛みが和らいでも、足指をしっかり使えなければ、根本原因は取り除けません。
逆に、足指をしっかり使えるようになれば、ひざ痛や腰痛をはじめ、前述したような症状は、根本から改善・解消しやすいのです。
足指じゃんけんのやり方
そこで、浮き指を改善してしっかり踏ん張れる足指力をつけるためにお勧めしたいのが、「足指じゃんけん」と「足指伸ばし」の足指の体操です。
足指じゃんけんは、名前のとおり、足指でじゃんけんをする方法です。足指をグッと丸めて「グー」、足の親指と他の4本の指を逆方向に曲げて「チョキ」、全部の指をできるだけ広げて「パー」です。これを1セットとして10セット行い、1日に2回程度行うのが目安です。
足指伸ばしは、足指の間に手の指を差し入れて、手と足を組むようにします。この状態で、前後に曲げてほぐすもので、足指を広げて伸ばすところから、「ひろのば体操」とも呼ばれています。前に曲げ、後ろに曲げるのを1セットとし、やはり10セットを1日に2回程度行うとよいでしょう。
どちらも簡単ですが、浮き指の改善に大きな効果があります。
同時に、家ではできるだけ、はだしか、5本指の靴下をはいて過ごし、歩くときは、足の裏全体を使って足指でしっかり蹴るように意識すると、より効果的です。
浮指を改善する足指体操のやり方

解説者のプロフィール

阿久根英昭
桜美林大学健康福祉学群教授。足と健康について長年研究を重ねる、足のスペシャリスト。土踏まずや足指の機能低下が病気を引き起こしているという観点から、「足力」を向上させるさまざまな健康法を考案・提唱。その劇的な効果から「阿久根マジック」と呼ばれ話題を呼んでいる。『世界一受けたい授業』などテレビ出演や、『足力(あしりょく)』(スキージャーナル社)など著書も多数。